第264話 移動の道中
黎人は、事態が落ち着いたので永井を連れてある場所に向かっていた。
この事件の鍵は、この永井が握っていると思っている。
冒険者ギルドオーナーとして依頼してEクラスダンジョンに出現したオーガの対処を《椿アドベンチャラー》に依頼した。
黎人が行って倒しても構わないのだが、今回は永井とこの薬を優先させる為に楓と翠に正式にギルドから依頼したと言う訳である。
運転手に場所を伝えて東京のハズレにあるとある病院に向かっている。
元冒険者の医者で、黎人の前、先代の《黄昏の茶会》のメンバーであった人だ。
紫音とは違って研究メインでやっている人だが、医療は金を払えば研究費の足しになるからと言ってやってくれる人だ。
精神科がメインだが、手術の腕もピカイチで、紫音が医者になる前は何かがあった時には頼っていた人だ。
今回は、久々の依頼になる。
黎人の隣に座る永井は、緊張した様子である。
自分の身に何が起こっているのかわからず、下手をすれば怪しい薬を慕っている師匠に使う所だったのだ。
思い詰めても仕方がない事だろう。
「今から行く医者に行けば君の症状はよくなるさ。それよりも、君は成長したな。人の事を考えられるようになった」
「え?」
「坂井が連れて来た時は自分の物差しでしか周りを見れない傲慢さが滲み出ていたが、ましになった」
「マシに、ですか?」
黎人の言葉に、永井は表情を固くしたまま質問を返した。
「賢いが、この世の中は正解は一つじゃない。自分の知っている答えに意固地になり、押し付けてしまう傲慢な性格。そんな風に見えた。だけど今は自分の答えが最善でなく、周りの意見を聞き入れる柔軟さが出たと感じる。いい師匠にであったんだろう」
「……はい」
永井は、黎人の感想に緊張しながらも口の端を上げた。
河野と出会って成長した自分を褒められた事が嬉しかった。
実際、成長せずに自分の答えが100%正しいと思っていれば、ひまわりの一か八かの賭けのような治療の提案など聞かず、あの時に最善だと信じていた怪しい薬を使って大変な事になっていた可能性もある。
まだ調べていないので分からないが、永井の記憶障害を見るに、危ない物であろう。
「ひまわり達と一緒の部署になるんだろう?今の君なら周りを見て成長できるだろう」
「ありがとうございます。頑張ります」
黎人の言葉は裏を返せば永井に悪いようにはしないと言っているのだ。
これからの診断で、催眠などの症状が発覚すれば、その治療をして職務に戻れるだろう。
新しい芽を摘まなくていいように永井を連れて来たのだ。
そうこうしている内に目的の場所に着いた。
東京の割に、田舎の森にある大きな研究施設。
車から降りた黎人と永井は、その施設の中に向かった。
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