第258話 魔法との関連性
ひまわりと氷那は、今日は姉弟子の紫音に指導をしてもらっている。
2人は今魔法の習得に励んでおり、黎人の弟子の中で1番魔法の扱いが上手い紫音が指導を担当しているのだ。
元々感覚派であった紫音が教えるのは大変と思う事なかれ、ステータスアップと共にイギリスと日本の最難関医大を卒業して、医者の後輩や看護師の面倒を見るうちに、理論的な教え方もできるようになっており、エヴァや紗夜が魔法を使えるようになったのは黎人と共に紫音の教えもあっての事だ。
「それじゃ、今日はこの位にしておきましょうか」
魔法の習得は一朝一夕ではいかない。
指導では理論やコツを教えながらゆっくりと物にしていくしかない。
もちろん、天才肌と言うのか、火蓮のように紫音が魔法を使うのを見るだけで再現してしまうような人間もいるのだが、特殊な例である。
仮説として《名は体を表す》と言った論文が発表されている。
名前に関連した魔法を覚えやすいと言う物だ。
そのおかげで、海外では自分の子供の名前に《フレイム》や《ボルト》《フロスト》などと言った属性の名前をつける事がブームになった時期があった。
今は子供の属性を勝手に決める悪習と言われたりもするが、有名な冒険者は自分と同じ道を歩んでほしいと言う願掛けでいまだにつける者もいる。
この論文は、結局の所根拠がないとされているが、紫音はまんざら嘘ではないと思っている。
火蓮の得意魔法は《火》であるし、紫音は《紫》電の雷だ。
楓は《土》の魔法、翠は音の話になるが《みどり》から連想する植物を操る魔法が得意であり、明水子はそのまま《水》風美夏は《風》。エヴァと紗夜は特殊な解釈の仕方をすると《光》と《闇》。
黎人の弟子は名前に含まれるイメージを得意な魔法としてよく扱う。
これは名前に親しみを持つ事でステータスの成長が関わってくるのではないかと紫音は考える。
だから氷那は氷魔法をイメージさせている。
そうするとひまわりが問題になるのだが、翠やエヴァ、紗夜のように連想ゲームでひまわりから太陽だろうかと、火魔法や光魔法を試しているが要領を得ない。
勿論、名前に関係ない属性の魔法も使えるようになるので、名前にこだわらずに練習させるのも良いのかも知れない。
それに、昔は何かのきっかけで使えるようになる人が多かったとも聞く。
ステータスが願いを叶えると言うが、これも定かではない情報だ。
「紫音さん、すいません。長く付き合ってもらってるのに成長が見られなくて」
「すいません……」
氷那とひまわりが申し訳なさそうにしているが、考え事をしていて怒っているようにでも見えたのだろうか?
「大丈夫よ。逆にこんなにすぐに使える様になる方が珍しいわ。私は半年かかったけどそれでも早いって驚かれたもの」
紫音が修行時代を思い出して懐かしそうに笑う。
「そうなんですか?」
「そうよ、懐かしいわ。私、自殺しようとしたところを師匠に助けられたのよね」
「ええ!」
今の紫音からは想像できない昔話に、2人は驚きの声を上げた。
車椅子で必死に魔法を覚えようとしていた話を2人に話しながら、ダンジョンを出る為に歩いていると、とある冒険者とすれ違った。
「あ、亜桜先生!その節は本当にありがとうございました!」
「河野さん、ここを探索しているって事は経過は順調みたいね」
紫音が以前担当した患者で、ここよりももっと上のダンジョンで探索していた冒険者だ。
手術の後は、指導冒険者として、安全第一に、後輩の育成をしていると聞いている。
「はい。今は国の未来を背負う冒険者の指導を任されています」
「永井直人と言います。そちらの毒島警部とは同期で、将来は毒島警部と小柳津特尉の部下として特課で働く為に河野さんにご指導を頂いております!」
後ろにいた青年が挨拶をしてくれた。
ひまわりと氷那の方を見ると、2人は何故か驚いた様子であったが「そうなの?」と紫音が質問をすると勢いよく頷いた。
「2人も順調に成長しているわ。あなたも頑張ってね。でも、無茶はダメよ? まあ、河野さんがいれば大丈夫だと思うけれど」
「はっ!」
永井が勢いよく敬礼するのを見て、紫音は苦笑いで頷いた。
「それじゃ、私達は行くわね」
挨拶をして河野、永井の2人と別れた。
ダンジョンを出て、更衣室で2人と今日の魔法の復習をする前に、2人が驚いていた訳を聞くと、永井の代わりように驚いたのだそうだ。
ステータスを上げて、良い指導者に出会ったと言う事なのだろう。
河野が術後に育てた冒険者の話は聞いている。
彼に任せればきっともっと良い成長を遂げるだろう。
2人は「まるで別人で」などと話しているが、この話はこれでおしまいだ。
紫音は自分の妹弟子の成長の為に、座学の指導をするのであった。
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