第249話 《ひまわり》の心の変化
その日、ひまわりは一人で買い物に出ていた。
姉弟子達と過ごす事が多くなった今日この頃、今度お昼のお茶会をしようとエヴァが張り切っており、そこに昔から趣味で作っていた焼き菓子を焼いて持っていこうと思っているのだ。
家の近所にあるデパートには少しマニアックな物も揃っているが、今回は奇をてらった物では無くお茶会に合いそうなマドレーヌだ。
イギリスの王女様であるエヴァの口に合うのかが心配で、サプライズではなく焼いて来てもいいかと尋ねたのだが、エヴァは目を輝かせながら「楽しみにしているわ!」と笑ってくれた。
「薄力粉をカゴに入れ、ベーキングパウダーは家に余りがあるはずだから、はちみつと、あとはせっかくだからチョコレートのも作ろう」
スーパーの中でついつい買う物を声に出して確認しながらカートを押して通路を進んでいく。
「グラニュー糖と卵は家に置いてあるから……あ、バターだ。無塩バター」
全部買ったと思ってレジに向かっていたが、一つ忘れていた事を思い出してUターンだ。
「危ない危ない。あとは、大丈夫だよね?」
バニラエッセンスやブランデーもある。
レジを通してエコバッグに買った物を詰めて、エスカレーターに乗っている時に「そうだ」と思い至った。
「せっかくだから可愛いラッピングもしよう!」
ひまわりは出口のある1階を通り過ぎて、ラッピング関係が置いてある店までエスカレーターで登って行く。
色々と可愛いラッピングの袋がたくさんあったので目移りしてしまったが、良い物が買えたと、るんるんでデパートを出ようとしたところで、ひまわりは声をかけられた。
「え、毒島じゃん」
「なに、知り合い?」
声をかけて来たのは1組のカップルであった。
男性の方はひまわりも知っている。学生時代の同級生だ。
「高校の時の同級生」
「へえ、すごく可愛い子だね」
男性の返答に女性は少しやきもちを焼いているかの様な声色で返事をした。
「あ、大丈夫だって、コイツオカマだから」
「は?」
「男なのに女の心があるとかで女に成り切ってんだよ。気持ち悪くね?」
学生時代の同級生はみんなひまわりの性自認を知っている。
当時、男子として更衣室を使うのが恥ずかしくて相談した教師が全部話したからだ。
そして教師が面倒くさそうに言ったのは「仲良く更衣室を使うように」と言った投げやりな言葉であった。
その結果、オカマが性的な目で合法的に男子更衣室を覗こうとしてくると言った間違った噂が流れ、ひまわりはいじめられる事になった。
「なにそれ」
「な、お前もそう思うだろ?」
学生の時はこの言葉がナイフの様に自分に刺さり、消えてしまいたいと考えた事もあった。
だけど、今はありのままの自分を受け入れてくれる人達がおり、この同級生の言葉などどうでもよく、早くこの会話を終わらせて家でみんなの為にマドレーヌを焼きたいと考えていた。
「違うよ、あんたの考え方をなにそれって言ったの。この人が男性だろうと女性だろうとあなたに迷惑かけたわけじゃないでしょう? だっさ」
女性の物言いに、同級生の男子はもちろん、ひまわりも目が点になった。
「男性なら尚更凄いと思うわ。ねえ、どこの化粧品使ってるの?」
「えっと、」
ひまわりは聞かれるがままに質問に答えた。
「羨ましい。わたしももっとお手入れ頑張ろ。付き合う前にこの人の考え方がわかって良かったわ。ありがとう」
女性はひまわりにお礼を言って去って行った。
同級生は、その後を色々と言い訳をしながら追いかけて行く。
ひまわりは、その後の帰り道の足取りがとても軽かった。
師匠が言っていた通り、差別の目でなく一人の人間として見てくれる人が、師匠や姉弟子達意外にもちゃんといたのだ。
その後、ひまわりはマドレーヌを作っている間も、鼻歌が止まらなかった。
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