第237話 一旦中止
ひまわりと氷那の戦闘は、素人と比べて物怖じしないほどには魔物を倒す事はできている。
ただ、連携と言うには程遠い。
勿論、初回なのだから問題ない。
しかし、ひまわりが声を掛けたりしてフォローして貰えばスムーズに戦える場面も、おどおどとして声をかけることができずに不利な戦闘になっていたりする。
氷那は、よく言えばマニュアル通りの戦闘だ。故に要領が悪く、咄嗟の反応ができていないし、マニュアルの動きにこだわるあまり、動きの先にひまわりがいると邪魔そうにしていたりぶつかってしまいそこから隙が生まれたりする。
絶妙に噛み合わない2人の行動に、どうやって指導をして行こうかと思いながら、黎人は坂井に渡された資料も参考にしようかと思って、空間魔法の中から資料を取り出して目を通し始めた。
坂井が言っていた問題も記載されているかと思ったが、読み始めた瞬間、黎人は読むのをやめて行動に移した。
2人が魔物を相手にしている間に入って魔物を殴り飛ばして一撃で絶命させた。
そして、2人に向かって振り返った。
「ひまわり、お前、きちんと渡したインナースーツは着ているか?」
「えっと、その、あの……」
黎人の質問にひまわりはおどおどした様子でモゴモゴと答えるが、声が小さくて答えが分からない。
「きちんと装備をしたのかと聞いているんだ」
「ひゃう。すいません、着ていません」
黎人は確認を怠った自らに内心舌打ちを打った。
安全のための装備だし、自分を守る為だから装備するのは当たり前だと思っていた。
今までの弟子達も何も言わずともきちんと装備していた。
インナースーツはその特性上、他の鎧装備と違って中に着るタイプだし、着ているのが分からなくなるので、点と点が繋がるまで反応が遅れてしまった。
資料によると、毒島ひまわり、性別《《男》》である。
ひまわりは性自認が女であり、容姿も年齢より若く男だと言われても信じられない程に少女と言った見た目であるが、生物学上の性別は男である。
その事で虐められた経験があり、成績はいいのに人に指示を出したりする事が苦手である。
それは、士官候補生としては欠陥があった。
インナースーツにしても、ひまわりの気持ちとしては、黎人と同じ男子更衣室は女心として恥ずかしくて入る事ができず、氷那と一緒の女子更衣室は、自身の気持ちが女だからこそ、体が男の自分が入る事はマナー違反だと思って入れない。
過去にどちらにしても虐められた記憶のあるひまわりは、どちらも怖くて入れないのだ。
申請すれば、個人ロッカールームの貸し出しもできるのだが、その為にはカミングアウトする必要がある。
カミングアウトすれば、また「気持ち悪い」などと言って虐めにあったり、人が離れていくのではないかと言う恐怖から言い出すことができないまま、どうしようかと考えていたのだが、ついに踏ん切りがつかず、インナースーツを荷物と一緒にロビーのコインロッカーに預けただけにしてしまったのであった。
「Gクラスダンジョンだからと言って、防御を疎かにしてはいけない。今日はダンジョンよりももっと別の話し合いが必要だな」
黎人の言葉にひまわりはビクリと体を震わせる。
「大丈夫だ。俺も氷那もそんなバカな理由でお前を嫌ったりなんかしない。この事についても、氷那の戦い方についてもまずは話し合いや座学から始めた方がいいと思っただけだ」
黎人の言葉に、強張っていたひまわりの体の力が少し抜けるが、それでもまだ緊張している様である。
氷那は氷那で、自分の戦い方の事を言われた事で、少ししゅんとしてしまっている。
とりあえず、黎人は2人を連れてダンジョンから出て受付に向かい、小会議室を借りた。
ついでに、黎人はひまわりの為に、個人ロッカールームの契約もしておくのであった。
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