第191話 呼び出し
風美夏はお昼休みに部活の先輩に呼び出された。
他のクラスの同級生ではあったけど「お昼休みに先輩達が柏木さんに話があるってさ」と手紙と伝言を伝えてくれたのだ。
風美夏はお弁当を食べる前に、体育館へと向かうのだった。
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松井亜夢はお昼休みに剣道部部長の木村と一緒に、机をくっつけて向かい合わせになって、今日の部活の事を相談しながら昼食をとっていた。
「しかし、昨日の今日でこうなるなんてね。もう少し時間がかかると思ってたわ」
「色々と話を聞いて、星空にも、な」
「星空ちゃん? 柏木さんと仲良かったの?」
「いや、それがな」
亜夢は自分がどうして行動に移そうと思ったかの経緯を話した。
「なるほどね、星空ちゃんは大人ねえ。でも、柏木さん部活以外でも敵作っちゃってるのね」
「そうみたいだ」
「柏木さん、自分で抱え過ぎちゃうみたいだから、マネージャーになる時もそうだったわ。私は、あの時初めて柏木さんの家の事情を知ったし、聞いたからこそ応援してる。でも、柏木さんの事情を知ってる人ってどれだけいるのかしらね。私達がわざわざ話す事ではないんだけど」
少し、沈黙が訪れた所で、2人に声をかけてくる人物がいた。
「あれ? 木村と松井は行かなかったんだ?」
「どうしたの?」
声を掛けて来たのは、グループの違うクラスメイトで、卓球部の副部長であった。
「なんか剣道部が後輩を呼び出すみたいな話をしてたからさ、お前達は行かなくていいのか?」
亜夢は食事の手を止めて椅子から立ち上がり、クラスメイトの両肩をガッチリと掴んだ。
「おい、どう言うことだ?」
「し、知らないわよ、屋上でお昼食べてたら聞こえて来ただけだから……」
「亜夢、行きましょう!」
木村の言葉に亜夢は頷いて机の上に弁当を置いたまま、教室からでていくのだった。
「え、なんかやばい感じ? 先生に言った方がいいかな?」
置いていかれたクラスメイトの言葉に反応する人は誰もいなかった。
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風美夏が体育館に向かう途中、渡り廊下のベンチでスマホを弄りながら座っていた人物が話しかけてきた。
「ねえ、柏木さんさ、この呼び出しは部活の話じゃないよ。鬱憤の溜まった人達の憂さ晴らし。行く必要はないよ」
風美夏の知り合いではないその人は、そう忠告した。
その話を聞いて、風美夏は少し考えてから返事を返した。
「それは分かってるんだけどね、こんな手紙渡されたら行くしかないじゃん?」
風美夏は苦笑いで渡された手紙をその人に見せた。
「うわ、大昔のドラマみたい。 だっさ!」
「でも、忠告ありがとう」
「別に、アンタの為じゃない」
風美夏はお礼を言って体育館へ向かった。
体育館へ入ると、大勢の人が集まっていた。
剣道部の部員も居るけど、見た事ない人達と昨日、絡んできた人達もいる。
「遅いよ、手紙見たら急いで来い!」
体育館に響いた声を発したのは剣道部の先輩だった。
集まっている内の半分以上は剣道部の竹刀を持ち出していた。
そして、その横には、風美夏と仲のいい剣道部の同級生が固まっていた。
手紙の内容は本当の様で、風美夏は来て良かったと胸を撫で下ろした。
手紙の内容は、友達を人質に取った。と言ったベタな物であった。何かに影響されすぎだと思うが。
「それで、先輩方、なんの用事でしょうか?」
先輩達の喧嘩腰の態度に、風美夏は飄々とした態度である。毎日の様にダンジョン探索を行なっている風美夏にとって、先輩達の威圧感など微塵も感じなかった。
「なんの用じゃないよ、お前さ、最近生意気なんだよ! 部活辞めた癖に口ばっか挟んできやがってさ。クラスでも浮いてるらしいじゃん、気づけよ」
風美夏は部活を辞めたわけではなく、マネージャーになっただけであるし、クラスではいつもと変わりなく過ごしている。
今日に限って言えば、こんな事になっている為、定かではないが。
そもそも、部活やクラスの話を持ち出してくるものの、ここに集まっているのはごく少数で、部活の先輩達も3人程で木村部長や松井先輩、他にも居ない先輩達はいるし、同級生の部員は居るが、みんな端に寄ってしまって先輩達に脅されている様にみえる。
何故が剣道部では無い同級生の方が先輩達よりも人数が多いが、それでもクラスメイトの三分の一以下だろう。
これは、子供が買って欲しい物をねだる時と一緒で、《みんな》は、詳しく聞いてみれば1人2人しかいないパターンなのだろうな。
風美夏がそんな事を考えて呆れていると、顔に出ていたのか痺れを切らした生徒が竹刀を振り上げ風美夏に向かって来た。
その生徒は剣道部員ではなく、昨日風美夏に絡んできた生徒であった。
風美夏は、なんで部員じゃないこの人が? などと疑問に思いながら、体を半身ずらして竹刀を避けた。
「よけんなよ! アンタたちもやりなよ。冒険者は一般人に手を出したら犯罪なんだよ!」
その言葉に、竹刀を持っていた同級生達が風美夏に一斉に襲いかかってくる。
「お、おい。お前ら、やり過ぎは……」
それを後ろで何故か先輩は戸惑っている様だが、風美夏にとっては避けるのは簡単で、最小限の動きで全て避け切ってしまった。
たまに、他よりも鋭い一撃が混ざっているが、それも、苦にならない程度である。
風美夏に攻撃をしてくる同級生達が疲れてきた頃、体育館のドアが勢いよく開いて、喧嘩を止める様な声が体育館に響いた。




