第178話 弁当屋
「はい、海苔弁当ですね!ありがとうございます!」
黎人はその日、とあるお弁当屋にやって来ていた。
ギルドの視察を済ませた後で「新潟に行くならここがオススメらしいのよ!」とレベッカに力説されたお弁当屋である。
しかし、レベッカが力説する程のお弁当やならば人気店かと思ってやって来たのだが、大盛況と言う訳ではなく、晩飯時だと言うのにお客さんは1人もいなかった。
レベッカの情報はレベッカが独自にネットで調べた物なので、古い物だったりが混じっていたりする。
とりあえず、大きく手書きで『オススメ!』と書いてある海苔弁当を注文して作ってもらう間は店の前に用意されている椅子に座って待つ事にする。
店舗のカウンターの向こうから聞こえる、白身フライの揚がる音が耳に心地よい。
しばらくして「お待たせ致しました」と元気な声で呼び出され、店を1人で切り盛りしているのか、注文を聞いてもらった女性が袋に入れたお弁当をカウンターの上に置いた。
黎人がお金を払おうとカウンターに立った所で店に新しい《《客》》がやって来た様だ。
「おう、今日も来たったで!今日は用意できてるんやろうな?」
「今はお客さんが見えますから」
「そんな事は関係あるかい!今日は耳揃えてきっちり返してもらおか!」
「先日もお渡ししたはずです。それに、貴方達が来るせいでお客さんが減ってしまって」
「なんや!ワシらのせいにする気か?」
どうやら新しい客では無かった様である。
「払えないんやったらこの店売ったらいい。この場所は高く売れるで?」
「それは何度も言ってますが、売りません」
「なら、いい仕事先紹介したるわ!」
おそらく借金取りであろう男が店員の女性に向かって手を伸ばした。
流石に女性に手をあげるのを黎人は見過ごせなかったので、黎人は借金取りの伸ばした手を掴んだ。
店員の女性が反射的に身を守った拍子に海苔弁当が入った袋を引っ掛けて落としてしまった。
「なんだ、関係ない奴は引っ込んどけ!」
「さっきから聞いてだけどこの人は今月の利子は払ってるんだろ? これ以上手を出すのはやめといた方がいいんじゃないか?」
「チッ離せや!」
借金取りは黎人の言葉にピクリと眉を動かして黎人の手を振り解こうとしたが、黎人の手が振り解けずに、そう叫んだ。
黎人が手を離すと手をフラフラと振りながら黎人の方を睨みつけた。
「同業か?見ない顔だが、この街ででかい顔すると米田組が黙っとらへんぞ!」
「知らないよ」
黎人は米田組と言われてもピンと来なかったので、苦笑いでそう返事をした。
「チッ、覚えとけよ!」
そう捨て台詞を吐き捨てて、借金取りは帰って行った。
「ありがとうございます。あ、お弁当!作り直しますからもう少しお待ちいただけますか?」
「お弁当はお願いするけど、アレはまた来るでしょう? 乗り掛かった船だし、今ので俺も目をつけられただろうから話を聞いていいかな?」
「あ、はい」
海苔弁当を再び作ってもらうのを待ちながら、黎人は店員の女性から話を聞くのだった。