175話パーティーの準備2
「ああ。夢の様な光景ね。まだ食べてはいけないのが憎らしいわ」
テーブルに用意された料理の数々に、レベッカが溜息をこぼした。
「レベッカさん、手巻き寿司初めてですよね?待ってる間に説明しますから、あ、エヴァも説明するからちょっと来てね」
火蓮が子供の様にソワソワするレベッカと、それに隠れて目立たない様に料理をじっと見ていたエヴァの気を紛らわせる為に手巻き寿司の説明をしている。
勿論好みの物を巻いていいのだが、ご飯の量とネタの配分を間違えれば上手く巻けない意外と難しい作業なので、楽しめる様に事前に伝えておくのだ。
「3人とも、レベッカさんの雰囲気に幻滅しないであげてくださいね。あれでも、撮影になった時の雰囲気はオーラがあって凄いのよ」
明水子達に、苦笑いで紫音がレベッカの弁明をした。
駅前や百貨店などに貼られているポスターとのギャップで憧れが崩れていないか心配してのことだった。
「いえ、親しみやすくてとてもいい方です。 だけど、ベッキーさんに限らずすごい方達ばかりでもう何を言っていいやら」
紫音に対しての明水子の返事に、心と瑠奈は激しく同意する様に首を縦に振った。
「何言ってるの。明水子ちゃん、この中で1番とんでもないのは私達の師匠でしょう。それに比べたら、エヴァがイギリス王女だって言うのも霞んでしまうわ」
「やっぱりエヴァさんってエヴァンジェリン様ですよね。私さっきお皿半分待ってもらっちゃったけど大丈夫でしょうか?」
「え?王女様?」
「明水子ちゃん、やっぱり気づいてなかった」
明水子は気づいていなかった様だが、心と瑠奈の心配に紫音が笑って答えた。
「ふふ、平気よ。ここに居るのはエヴァンジェリン王女じゃなくて私の妹で明水子ちゃんの姉のエヴァだもの。それに、あの子は逆にゲストに手伝わせたって気にしているんじゃない?心ちゃんと瑠奈ちゃんはこのパーティーのゲストだからね」
紫音の話に心と瑠奈は「そんなそんな」と恐縮するが、このパーティーは黎人と弟子達が主催でその友人や大切な人をゲストとして招いている形なのだ。
黎人1人の主催だったのだが、火蓮や紫音が自分達が用意すると言って張り切り出した結果、楓と翠も手伝う事になり、黎人が遊びに来なさい程度に呼んだ3人娘の1人。明水子は主催側の人間になってしまっていた。
勿論、主催だのゲストだの気にする人間はおらず、みんなで楽しむパーティーなのだが、エヴァだけは、国賓をもてなす事を教わってきた為、不安そうにしていたのだった。
それはさておいて。
「ところで、春風さんが1番すごいんですか?なんか明水子の師匠くらいにしか私と瑠奈は知らないんですけど」
「うん。明水子ちゃんには師匠としか聞いてない」
「え、あ!師匠は冒険者ギルドのオーナーだよ」
「「え!」」
冒険者ギルドのオーナー。それだけでも心と瑠奈には衝撃の事実であった。
「師匠、やっぱりその辺りは言ってないんだね。私の時も火蓮の時もそうだったみたいだし」
「ほ、他にもあるんですか?」
心は息を飲み、喉を鳴らしながら紫音の言葉の続きを質問した。
「日本最強と言われた冒険者クラン《黄昏の茶会》のリーダーで、今の日本の冒険者の地位を作った、世界のトップ達が頭が上がらない。多分、世界のトップよ。他にも色々あるけど、これだけ言えば凄さが分かるんじゃないかな?」
「おい、紫音、話を盛るな。今はただの冒険者ギルドのオーナーでたまにコンサルタントをしているだけだ」
紫音の言葉に3人娘は言葉が出ず、漫画であれば目が飛び出ているであろう程の衝撃を受けた。
そこに、黎人が現れて紫音に苦情を言ってチョップした。
「本当のことじゃないですかぁ」
「過去の栄光を自慢なんかしなくて良いんだよ。俺は俺だ」
「周りはそう思ってませんよ」
黎人はその言葉に苦笑いだ。
スケールのデカい話に3人娘は首を挟めず、驚いたまま固まっている。
「ほら、ゲストが来たみたいだ。お出迎えに行こうか」
黎人の号令で、話は一旦終わり、明水子達もゲストを迎えに出向いた。
ゲストとして来たのは、エヴァが招いた岡山のおじいさんだったり、メディアに出ていない人達だったので、今以上に明水子達に衝撃を与える事はなかったとかなんとか。