173話おつかい
明水子達3人は新幹線の旅を終えて東京にたどり着いた。
「あ、師匠!お待たせしました」
駅では黎人が待ってくれていた。
明水子に続いて心と瑠奈も「春風さんよろしくお願いします」「こんにちは。春風さん」と挨拶をする。
「いらっしゃい。これから家に迎えに行く前に頼まれている物があってね。アイツが来るから大量に用意しておかないといけないんだ」
「あいつ、ですか?」
「そうだな、後でちゃんと紹介するからな。 3人とも寄り道するけど疲れてないか?」
明水子達3人は声を重ねて「大丈夫です!」と元気よく返事をした。
疲れてないかとは聞かれたものの、移動はタクシーであった。
新幹線の長旅だったので気を遣ってくれたのだろう。
因みに、新幹線の旅を選んだのは明水子達である。瑠奈が飛行機が怖いと言ったのと、修学旅行で新幹線が楽しかったと心が言ったので新幹線になった訳だ。
なんにせよ、3人は冒険者としてステータスが上がっている為、腰をやられると言った事もなかった。
タクシーでたどり着いたのは豊洲市場であった。
タクシーを待たせて、黎人と明水子達は市場の中を歩いた。
たどり着いたお店に入ると「へいらっしゃい!」と大きな声で挨拶があった。
「黎人さん、できてるよ!火蓮ちゃんに頼まれて今日はウチの店は黎人さん専門店でさぁ!」
威勢のいい板前の大将に、席で待つ様に言われ、湯飲み茶碗に暖かいお茶が出された。
「2人とも、このお茶、とても美味しい」
明水子と心がフウフウとお茶を冷ます隣で、瑠奈が先にお茶を飲んで言った。
「本当だ。凄くいい香り」
猫舌でまだ飲めていないが、心は瑠奈に返事をした。2人の言葉に、明水子は早くお茶を飲みたいのかまだお茶を冷ましている。
「こんな注文を受けるのは黎人さんだけですぜ。ウチは寿司屋なんですから。まあ、今日は特別なパーティーだからって火蓮ちゃんから聞いてますがね」
奥から戻ってきた大将が従業員の方と持ってきたのは4隻の大きな船であった。
その船には新鮮な魚介類が所狭しと綺麗に、芸術品の様に盛られている。
その刺身の切り方は普通のものと違って、少し細めに切られている様であった。
その舟盛りを見て、明水子達はお茶を飲むのも忘れて「わぁ」と声を漏らした。
「黎人さん、先にこちらをしまってください。後は酢飯と海苔も持ってきますんで!」
大将はそう言うとまた奥へと言ってしまう。
その間に、黎人は舟盛りを収納魔法にしまった。
その様子に、明水子達は衝撃を受けて固まってしまっている。
少しすると、大きな桶に酢飯が入ったものが二つと、海苔が持ってこられ、それも収納魔法の中に入っていった。
「今日はお姉さんも来るんでしょ? 張り切って造りましたよ。お姉さんにはイギリスにいる間は週に2日はいらしてくださいましたからね。今日は握りじゃないですが、私達の捌いた刺身を楽しんでくださいとお伝えくだせえ」
「ああ、喜ぶと思うよ。ここ1週間ほど毎晩食べたい物を伝えに電話してくるくらいだから」
「お姉さんらしいや」
黎人と大将が笑っているが、話しがわからない3人は飲み頃になったお茶を啜っていた。
「さて、それじゃ、そろそろ行こうかな」
「へい。お会計は明星の奴らに言いますね!」
店を出て車まで戻ると運転手は、黎人に質問した。
「この後は、黎人さんのご自宅で良いんですか?」
「ああ。よろしく頼む」
黎人の言葉を確認して、ゆっくりと車は発進した。
「やっぱり東京はタクシーも違うんだね。フカフカだよ!」
心は、東京に来た事にも慣れてきたのか、口数がいつもの様に戻ってきて、そんな話題を話した。
「心、多分違う。周りには博多でも、よく見るタクシーが走ってる」
「あ、本当だ」
「これは黎人さんのチャーターですからね。
普通のタクシーはこんなにフカフカじゃありませんよ」
「ほえー」
運転手の言葉に、なんかすごいと言う事だけは理解した心が間抜けな声をだした。
「さっきのお刺身も凄かった。とても楽しみ」
「今日はあれ以外にもあるからな。好きなだけ食べるといい」
「「「はい!」」」
3人は黎人の言葉に元気に返事をした。
もうすぐ、黎人の家に到着する。
さて、これから3人はどんな反応をするのだろうか?




