172話アイス
明水子、心、瑠奈の3人は今、新幹線の中に居た。
「明水子ちゃん、お土産忘れてないよね?」
「うん、大丈夫。ほら、通りもん!」
「今見せなくてもいいから!瑠奈は緊張してないみたいで羨ましいよ」
駅弁をパクパクと食べる瑠奈が箸を止めて明水子と心の方を向いた。
「食べてないと緊張で胃が痛くなりそうだから」
「表情に出てないだけだった!」
3人がなぜこうして新幹線で移動しているかと言うと、黎人に東京に呼ばれたからであった。
今は冬休みであり、黎人が弟子を集めて忘年会をするから明水子も友達を連れて遊びに来なさいと呼ばれたのだ。
新幹線のチケット付きであったし、明水子の両親は、娘に友達ができて雰囲気が明るくなるきっかけを作ってくれた黎人を大変信頼しているので、心と瑠奈の両親も説得して送り出したのだ。
心と瑠奈は、明水子が黎人の指導を受けている時にたまに一緒にダンジョン探索に訪れていた為、黎人としては、孫が友達連れてクリスマスや正月に遊びにくる。位の感覚なのだが、呼ばれた本人達は、初めての東京。
そして弟子が集まると言う事で、有名人の楓と翠がいる事が分かっているので、心は以前あった事があるが、緊張していた。
明水子の場合は、知り合い以外の弟子も来るのだろうから、人見知りが発動しているのだった。
「2人とも、何かしていればちょっとマシ。
私もお弁当が無くなるから次のワゴンサービスでアイス買うから2人も一緒に食べよう」
「うん。そうする」
心が返事をして明水子は首を上下にコクコクとふって答えた。
「心ちゃん、瑠奈ちゃん、おかしいよ。私、緊張で手に力が入らないのかな?アイスにスプーンが刺さらないよ!」
「明水子ちゃん、私もだよ!」
「2人とも、落ち着いて。これが新幹線名物。硬すぎて食べられないアイス。悪戦苦闘している間にいつの間にか時間が過ぎている魔法のアイス。今の私達にはちょうどいい」
3人はアイスに悪戦苦闘している内に緊張していた事を忘れて気持ちが軽くなった様である。
「あ、やったよ!心ちゃん、私スプーンが刺さった!」
「え、明水子ちゃんずるい!」
「あまい。そこから気をつけないとスプーンが折れて食べれなくなる」
「ウソ、難しい!」
「だから私は周りをこうやって手であっためてる。でも、もう無理。霜焼けになりそう」
「え、瑠奈ちゃん大丈夫?」
気心知れた女子高生3人が楽しく過ごす新幹線は、その間にもどんどん東京へ向かって進んで行くのだった。