171話放課後
学校の教室の1番後ろの窓際の席。
そこが、明水子の席だった。
いつもここから教室の中を1人で見渡していた。
今の様な放課後には、仲が良さそうに部活へ向かう生徒、帰らずにずっと話し続けている生徒。
用事があるのか、慌てて帰る生徒も、仲のいい友達に大きな声で挨拶をしてから帰っていく。
以前はこの席から見えるこの景色を羨ましく思いながら見ていた。
しかし、今日はこの風景の中に自分が入る緊張で、羨ましく思う事も忘れてしまっていた。
「明水子ちゃん、お待たせ!行こう」
「う、うん」
心ちゃんが迎えに来てくれた。
その後ろで「お待たせぇ」ともう1人。
心ちゃんの友達で、最近一緒にお昼を食べる様になったゆ、友人である瑠奈ちゃんだ。
少しぽわぽわとした子で、口数も少ない子なのだが、お昼に少し会話する程度には仲良くなっていると思う。
今日はこの3人で放課後遊びに行くのだ。
私は友達と外で遊んだ経験などないから、何をすれば良いか分からない。
でも、友達と遊びに出かけるという事が嬉しくて、そしてとても緊張する。
心ちゃんとも、ダンジョン探索はたまに一緒にするのだが、お出かけは初めてである。
緊張して一緒に出そうになる手足を直そうと考えるが、上手く直ってくれない。
校門前で、心ちゃんが振り向いて「今日はなにしようか?」と聞いてくれるが、それどころではない。
その時、ふと私の手を握る手があった。
「早く行こ。今日は、クレープとたこ焼きたべる」
瑠奈ちゃんが、手を引いてくれるおかげで、自然と体が動き出し、手足の順番などどうでも良くなってしまった。
「あー、私も!」
心ちゃんが私の空いてる手を握って3人で歩く。
周りからの視線が気になるが、今はそれよりもこの友達と歩く感覚がとても心地よかった。
「クレープと、たこ焼きは食べ過ぎじゃない?」
私は思い切って、瑠奈ちゃんの言葉に質問をした。
「3人で食べればまだ少ない。後は向こうに行ってから考える」
「えー、私は3人でプリ撮りたいな」
「どっちもすればいい」
3人で分ける。友達と出かけた事がない私には新鮮に思えた。
そして、とても友達っぽくて、顔がニヤけてしまうのが分かる。
「今日結構使うからまたお小遣い稼がないとね。今度は3人で行こうか」
「明水子ちゃんはすごいって心が自慢してる。私も一緒に行きたい」
何でもない会話がどんどん他の話題に繋がっていき、絶えることはない。
「来週には師匠が戻ってくるからまた師匠の指導が始まるけど、多分師匠に言ったら友達も連れておいでって言うと思う」
「黎人さんの指導は分かりやすいもんね!私もまた見てもらおう!」
「私も行っていい?」
「多分。師匠に聞いてみるね」
食べ歩きしながら、ゲーセンに入り、ファミレスで喋る。
明水子の初めて友達と過ごす放課後は瞬く間に過ぎていき、足りないと感じるほどであった。