170話最後の動画
ここ数日間、ネット、SNS上ではあるBTuberの配信が炎上していた。
BTuber初の冒険者免許を取ってFクラスダンジョンに挑んだ彼等は、エンターテイメントと称してダンジョン内の冒険者に声をかけて周り、最終的には自分達の犯罪歴を曝露され、無謀にもいつもよりランクの高いダンジョンに挑んだ事で、事故が起こってしまう始めの方までの動画が配信された。
『なに?マーベラスって前に話題になった冒険者を語って犯罪してた奴らなの?』
『しかもダンジョン内でレイプして証拠隠滅の為に被害者ダンジョンに置き去りとかヤバすぎない?』
『それもあって運び込まれたのは警察病院らしいよ。あのまま被害者達みたいにダンジョンで死ねばよかったのにね』
『家宅捜索でヤバいのがいっぱい出て来てるらしいよ』
『オカケンはどうなのよ?アイツらも同罪?』
『分かんないけどなんかあるんじゃね?』
勿論、もっと茶化すような、混乱させる様な発言もあるが、大体は話題のBTuberを非難する内容な物が多かった。
それに対して、他のBTuber達が、彼等を批判するコメント、動画を上げながらも、その中で、自分達は、彼等とは違い、これからも楽しいエンターテイメントを提供する事をアピールしていた。
そんな折、一本の動画が公開された。
オカケンとのコラボから音沙汰がなく、消えたと噂されていた1人のBTuberの動画だった。
冒頭の挨拶は、いつもの博多弁を使ったキャッチーな物ではなく、真面目な挨拶から始まった。
「動画をご視聴のファンの皆さん。お久しぶりです。アリスです」
そう始まった動画の雰囲気は、可愛らしい彼女の、いつもの動画のものではなかった。
「今回の動画は、私の最後の配信。コラボ動画から数ヶ月、私が何をしていたか。そして、何を感じたかをお話する内容です。
まず初めに、私は冒険者になりました。
ある方の指導を受けて、今までの動画配信活動が、どれだけ危険で、無謀だったのかを知りました。
冒険者の友人の力を借りて、今の私の戦闘風景を撮って来ました。
そちらをご覧ください」
今までの様な、エンタメに特化したかわいい喋り方の無い淡々とした話で動画は進み、動画が切り替わった。
映し出された動画を見た視聴者は、その戦闘風景に目を奪われた。
これまでのBTuber達の動画はおっかなびっくり、まるでスイカ割りをする様な物や、子供が怖いもの知らずに棒を持って喧嘩する様な物ばかりであった。
それでも、冒険者、ダンジョンに憧れる視聴者にはとても人気の戦闘風景だったのだ。
しかし、今流れ始めた映像は、まるでアクション映画を切り取った様な映像だった。
流れるような身のこなし、一般的な人の身体能力ではありえない様な跳躍力、そして、それら全てが重なった美しい戦闘風景。
現れた魔物を全て倒しきって、剣に付着した血を慣れた動きで払った所で、戦闘映像は終わってしまった。
「今の魔物は、私が数ヶ月前にコラボで手も足も出なかった魔物達です。
視聴者の皆さんはご存知ないかも知れませんが、Gクラスダンジョンの最深部はFクラスダンジョンの入り口よりも強い魔物です。
冒険者から見れば、BTuberは、子供の遊びなのです。
動画を見ている視聴者は、将来ダンジョンに憧れて、冒険者やBTuberになりたいと思っている人もいるでしょう。
冒険者は、会社に所属する事で様々な保証があり、また、指導を受ける事でちゃんとした仕事として成り立ちます。
しかしBTuberは仕事として成り立っていません。怪我をすれば補償もない為、最悪の場合は人生終了。それも、人気を取る為に無茶をしなければならない。なのに、冒険者よりも稼ぎが少ないのです。
高校生になれば、冒険者はアルバイトとしても始めることができます。
この動画は、茨の道に踏み出そうとする皆さんへの注意喚起の動画になればと思い、私の最後の動画とさせて頂きます」
視聴者に対する注意喚起。その言葉で、動画は締めくくられた。
ネット上では、事故を起こしたオカケン達と比較され物議を醸すこととなる。
ケンケンが半身不随になった事や、カメラマンのサトシの腕が無くなった事も情報として広まり、BTuberの危険性が問われる中、当のBTuber達の中にはアリスを営業妨害と批判する声も少なくなく、ネットの論争は広がっていく。
しかしその論争も、ダンジョンを管理する冒険者ギルドが、ダンジョン配信の危険性を考慮し、撮影機器を所持してのダンジョンの入場に規制をかけた事で終わりを迎える事となった。




