168話《アリス》の最後の撮影
明水子は本日、心と2人でダンジョンに来ていた。
楓と翠は社会人で、福岡での仕事が終わったから京都と愛知へ帰っていき、黎人も珍しくトラブルがあった様で、東京へと行ってしまっている。
明水子は学校もある為福岡に残り、黎人に出された宿題をする為、心に手伝いを頼んだのだった。
「ごめんね、心ちゃん。手伝わせちゃって」
「全然平気だよ!私が明水子ちゃんを手伝うなんて感激だよ!あ、これってこれであってる?」
心が明水子に聞いているのはカメラの使い方だ。
この日の為に新しく買ったジンバルにセットされたカメラを、ダンジョンでの撮影の為にセッティングしている。
明水子が黎人に出された宿題とは区切りをつける事だった。
アリスと言う明水子の虚像に区切りをつける。
これまで冒険者として黎人に教わって来て、過去に自分がBTuberとして活動して来た過去を振り返って感じた事を伝える為に、最後にアリスとしての動画を撮ることにしたのだ。
冒険者になって、配信の危うさを知って、視聴者に与える影響を考えた。
配信者は、冒険者と違って視聴者からの人気で成り立つ。
人気とは、つまり憧れだ。
自分も、ダンジョン配信を始めたきっかけはまた聞きとは言え、ダンジョン配信を知った事だった。
BTuberに憧れ、自分もそうなりたいと思う所から新しい配信者は生まれる。
明水子、アリスもそうして新しくBTuberを世に生み出していたかも知れない。
ダンジョンは危険な場所で、冒険者と配信者は全く違う物だと注意喚起の動画を撮る事にしたのだ
それがアリスの最後の動画になる。
冒険者と配信者の違いを取る為には今までの様に、自撮りでの撮影では難しかった。
その為に、新しいアイテムを追加して、頼れる友達に協力をお願いしたのだ。
「明水…アリスちゃん。準備が整ったよ」
撮影時は身バレ防止の為にアリスと呼ぶ事をお願いしている。
撮影の舞台は以前に大失敗を生配信したGクラスダンジョンの最深部。
装備は配信者を馬鹿にしたかの様な私服の様な軽装。
アリス最後の撮影が、今開始された────
「明水子ちゃん今までで1番すごい戦い方だったよ。これから私付いていけなくない?」
撮影が終わって心は明水子にそう問いかけた。
「そんな事ないよ。連携も何もない無茶なパフォーマンスだけの戦い方なんかに意味ないよ。
このGクラスダンジョンだからできただけで、適正な場所だったら信頼できると、友、仲間が必要だよ」
「もう、明水子ちゃん照れちゃって。友達が恥ずかしくて仲間って言ったけど、セリフとしたらどっちも恥ずかしいよ?」
悪戯顔の心の言葉に、明水子の顔は真っ赤に染まる。
黎人師匠や兄弟弟子の方たちの様に強くなれば、どんなランクに行っても1人で戦えるかもしれない。
でも今の私にはそんな事は無理だし、心ちゃんとこうしてたまにダンジョン探索できる事がすごく楽しい。
アリスのままではできなかった事。
明水子でないとできなかった事。
この出会いのきっかけをくれた師匠に、《《私達》》はとても感謝している。