166話友達との探索1
時は少し遡りとある病院から患者が消える少し前。
その日、ダンジョンのロビーに緊張する少女が一人。
「友達を待ってるだけなのに今からそんなのではダンジョンまでもたないぞ?」
黎人はその少女に苦笑いで話しかける。
「そうよ、明水子。お茶でも飲んで落ち着いて」
翠が少女、明水子に飲み物を渡しながら話しかけた。
「でも、もし来てくれなかったと思うと、緊張して_____」
「明水子ちゃーん!お待たせー!」
明水子の緊張を他所に、待ち人が来た様である。
大きく手を振ってこちらに向かってくる少女に対して、明水子は遠慮がちに手を振り返した。
「大丈夫。待ってないから」
「うん!誘ってくれてありがとうね。明水子ちゃん」
「うん…」
黎人や楓、翠といる時とは違って友達と話す明水子は少しドギマギとしている。
「俺は明水子の師匠の春風黎人だ。今日はよろしく頼むね」
「はい!よろしくお願い、し、ま…」
明水子と話していた友達の少女は黎人に話しかけられて返事を返している途中で言葉が尻すぼみに消えていった。
「あ、あ、あの!椿翠さんですよね!」
少女は黎人の隣に居た翠に興奮気味に話しかけた。
それを見て黎人はスッと一歩引いて翠が少女と話せる様に動いた。
「ええ。そうよ。今日はよろしくね」
「は、はい!あ、それに、春風さんも、それにあれ?土方さん!」
少女の目眩く変わる表情と感情に3人は苦笑いだ。
明水子もよく分からずにオロオロとしている。
「心ちゃん翠さんと楓さんの事知ってるの?」
「当たり前だよ!明水子ちゃんこそどうして知り合いなの?」
少女、心は明水子の質問に質問で返しながらも、話はまだ続く。
「翠さんは私が所属する椿アドベンチャラーの有名人だし土方さんもくじらワークスの有名人だよ?」
翠も楓も自分が所属する冒険者マネジメント会社の広告塔の1人である。
駆け出しの冒険者にとって憧れになるのは当然と言えば当然。
先程からこちらをチラチラと見る視線はある。
「そうなんだ。私は、師匠の弟子だから兄弟弟子で…」
「え!そうなの?」
明水子の答えを聞いた心はスススッと視線が黎人の方に移動した。
「まあここで時間を潰すのもなんだからとりあえずダンジョン探索しながらにしようか」
「はい!」
黎人の提案にビシッと聞こえてきそうな勢いで心が手を上げた。
「ダンジョンでは細心の注意を払って気を抜かない様に言われてるんですけど探索しながら話しても良いんですか?」
心の質問に黎人はああ。と言った風に質問に答える。
「マネジメント会社ではそうやって教えているな。
それは初心者の集団を見る以上そうしなければ事故が起こりやすくなるからだ。
ある程度ステータスが上がってきた冒険者ならダンジョンで戦闘や作戦のフィードバックをした方が効率がいいし、余裕ができてくれば他愛無い会話もできる。
いや、できる様に成らなければ緊張の連続で精神が摩耗するし、そうならないほど攻略ペースを上げるのはマネジメント会社では禁止しているはずだ。
だから、君ももう少しステータスが上がって余裕ができればそう言う探索の仕方になっていくさ。
今日は少し早い体験会だと思えばいい」
「そうなんですね」
「勿論、これを今のパーティに持ち込むのは厳禁だ。貴重な体験をすると思えばいい」
「そうですよね。明水子ちゃんとダンジョン探索も楽しみだったけど師匠さんや翠さんに土方さんもいるなんて!絶対いい思い出にします!」
心のやる気を見て明水子もフンスと気合いが入った様だ。
その様子を黎人達大人は微笑ましく見ながらダンジョン探索へと向かうのだった。




