165話戦いの終わり
香織、瑞稀、雫の3人は、持ち堪えているものの、ジリ貧状態だった。
一体ならやれない事はなかったが、魔物は2体に増えてしまったのである。
魔物は3人以外のBTuberが逃げられない様になった事から、先に動ける3人を狙って攻撃してくる。
3人は安全第一、命を大事に。を心がけてここまでやってきただけになんとか持ち堪えている状況。
打開するには、援軍が必要だった。
「1匹こっちで引き受ける。お前達1匹やれるか?」
たまたま通りかかったのだろうか?
多分冒険者マネジメント会社所属の指導冒険者が声を掛けてくれた。
指導員はダンジョンのレベルよりも上の冒険者だから安心して任せられる。
「ありがとうございます!一体ならなんとかなります!」
「任せとけ!」
冒険者はその言葉と共に一体の魔物に向かってジャンプすると、ドロップキックの要領で魔物を蹴り飛ばしながら離れた位置に飛んで行った。
なかなか、豪快な人である。
「2人とも、気合い入れるよ!」
「「うん!」」
瑞稀はステータスが上がってから仲間を守る為に持ち替えた大きな盾を使って魔物の攻撃をしっかりと受け止める。
そしてできた隙に対して雫と香織が攻撃を叩き込んでいく。
関節を狙い、魔物の鱗の隙間を狙って攻撃を重ねていく。
少しずつでも、ダメージを与え、蓄積させていく。
魔物が弱ってきたのか、動きが鈍ってきた。
そして、胸の辺りの鱗がボロリと剥がれ落ち、核であろう魔石が露出した時、変化が起こった。
「イ…やダ…トマって…コロし…テ」
「え?」
「何!」
「喋った?」
今まで、喋る魔物は確認されていない。
魔物は、喋りながらも鋭い攻撃で3人を攻め立ててくる。
「迷ったらこっちがやられるよ!2人とも、今は魔物を倒す事だけを考えて!」
「「うん」」
魔物がこちらを攻撃している以上、考えたら負けである。
3人は地道に防御と攻撃を繰り返して、遂には魔物の魔石を砕いた。
「やった?」
「うん。これじゃ魔石は吸収したり売ったりできないだろうけど、なんとかなったわね」
「あ、あの人の援護に向かわなくて大丈夫かしら?」
戦闘を終えた3人が話していると、倒した魔物に変化があった。
普通の魔物はどさりと倒れるだけだが、この魔物は鱗が粒子の様になって剥がれ始めたのである。
そしてその中からは裸の女性が現れたのである。
鱗が剥がれ落ちながら倒れる女性を、いち早く動いた香織が受け止めた。
「なんで…」
香織は、この女性を知っていた。
日本が崩壊していた頃、炊き出しの会場の裏路地で襲われていた女性だ。
この女性を助けたのは炊き出しに参加していた香織達である。
傷だらけの体に回復魔法を施したのは香織である。
そして、彼女を襲っていたのは香織の離婚した元夫であり、女性は一命を取り留めたものの、香織は責任を感じていた。
以前、自分があの男に襲われた時に警察に突き出しておけばこんな事にならなかったのではないかと。
「あ、ありが、とう…」
女性は香織にそう告げると、鱗が全て剥がれ落ちた次は体が粒子になって消えていってしまう。
まるで、魔石を取り出されてダンジョンに放置された魔物の様に。
「まって、ダメ、消えてはダメ!」
香織の呼びかけも虚しく、女性は粒子になって消えてしまった。
「ごめんなさい。ごめんなさい…」
香織は悔やんだ。
彼女が、どうして魔物になってしまったかは分からない。
でも、普通人は魔物になんてならない。
もし原因があるとすれば病気?彼女は意識不明で入院していると聞いていた。
だとすれば…
過去の自分の浅はかな行動の結果がこれなのかもしれない。
私があの時、あの男を放置せずに警察に突き出していれば、彼女は襲われたりはしなかった。
結婚生活で、夫をうまく支えて離婚にならなければあの男はあそこまで落ちぶれなかったかもしれない。
もし、わたしがあの男との結婚を選ばなければこの未来は無かったかもしれない。
この女性を殺したのは、間接的には私なのかもしれない。
「香織」
雫が香織の肩に手で触れた。
「大丈夫?」
温かい。
そうだ。決めたのだ。
私は過去の過ちを背負って後悔しながら生きる事を選んだのだ。
これからも、間違える事は沢山あるだろう。後悔も沢山するだろう。
それでも、私が生きる事で誰かの為になる時がきっとある。
香織は決意で心を奮い立たせた。
「2人ともごめん、少し落ち込んだ。
でももう大丈夫だから。あの冒険者の人は、もう終わってるわね。
あの人達を治療して事態を収拾しましょう」
その後、事態は収集し、ダンジョンの捜索が行われたが、あの魔物は他には見つからなかった。
BTuberは皆、一命を取り留めたが、手足の欠損などもあり、世間ではダンジョン配信者の無茶な行動が問題となる。
そして、ダンジョンに入場する為の規定を、新しく冒険者ギルドは作る事になる。
今回現れた謎の魔物については、冒険者ギルドや、マネジメント会社の上層部によって慎重に調べられる事になった。