164話成長した戦い
「クソッ!」
初めに動いたのは瑞稀だった。
チームのタンク役としての経験からすぐさま盾を構えて突然現れた魔物をシールドバッシュで弾き飛ばした。
「ク、重い!」
マージンを取りながら慎重に上を目指す。
それを信条にこれまでやって来たこのパーティは実力だけで言えばEランクの最奥に挑戦できるほどのステータスを持っている。
そのタンク役の瑞稀のシールドバッシュでもこの魔物は距離を取る程度にしか弾き飛ばせなかった。
「香織、コイツほっといたら死んじゃう!」
「うん」
香織はクウタンを放置して手を飛ばされたサトシの手当てに向かった。
香織はパーティのヒーラーだ。
以前に事件に巻き込まれた死にかけから命を繋ぎ止めるまでに回復をさせてもらい、顔や体に残る大きな傷を、戒めとして服で隠れる脇腹の傷一つを残して綺麗に治してもらった。
その時の経験があったからなのか、香織は冒険者として成長する中で回復魔法を使える様になった。
とは言え、治癒力を高めて傷を塞ぐ程度の簡単な物しか使えない。
しかも、腕が飛ぶ様な傷は経験がない。切り傷や刺し傷程度しか治療した事はないのだ。
たが、そんな事を言っている場合では無い。
目の前で血を流すサトシは放っておけば出血多量で死んでしまうのだから。
「香織、時間稼ぎは任せて」
雫も瑞稀と共に魔物の戦いに加わる。
遠心力に任せて槍を薙いで魔物を遠くにとりあえず飛ばそうとしたが、硬い鎧の様な鱗で止められてしまう。
「なら!」
雫は手元の柄の部分を強く握って回した。
雫は強くなる為にステータスと共に武器を持ち替えている。
懐に入られた時の事を考え、扱いは難しいが近距離にも対応できる武器に。
槍の柄の部分が三つに分かれて、中の鎖で繋がれた形状に変化した。
三節棍と言われる形に変化した槍は、鎖によってできた遊びが遠心力に従って内に曲がり、魔物の首を切り裂いた。
小さいながらも傷をつける事ができた。
この事実は大きい。
「関節なら何とか攻撃が通る!」
「オッケー雫!」
ここ数年、地道に冒険者として成長して来た2人の連携はイレギュラーな魔物に対しても安定感のある戦いができた。
「とりあえず傷は塞いだ。私もそっちに合流するわ!」
なんとか止血だけを済ませた香織が瑞稀と雫の元へ向かおうとした時、またもや不測の事態が起きた。
「うわぁぁあ!」
「死にたく無い!」
「オレ達はしらない!」
冒険者としてマージンを取りながらでも死線を潜りねけて来た香織達と、BTuberとしてエンタメを提供して来たマーベラスやオカケン達では精神力の強さが違った。
岡本やケンケンは、手を飛ばされたサトシを見た非現実的感覚から感情が追いついて来たのか発狂して逃げ出し、クウタンやレンナも、取り押さえられた事から解放されたのをいい事にこの場所から去ろうと動き出していた。
テントも、既に荷物になるカメラなど投げ捨てて、逃げ出す気満々である。
しかし、不測の事態とは重なる物だ。
別の方向から、ゴブリンの死体を引きずった同じ様な魔物が現れ、嬉しそうな奇声をあげると、逃げ出す岡本とケンケンに向かってゴブリンを投げ、足止めして、次に逃げ出しそうなクウタンに向かって走り出した。
「やめろ!こっちにくるな!」
「うそ、やめなさい!」
クウタンは近くにいたレンナを盾にしようと押し出すが、魔物はレンナを殴り飛ばし、クウタンが逃げられ無い様に片足を食いちぎった。
「痛いぃぃいい!肩、肩ぁぁあ」
「か__________________」
レンナは殴られた肩の骨が砕けたのかその場でのたうち回り、クウタンは食いちぎられた足の痛みに脂汗を吹き出しながら声にならない声を上げた。
「嘘でしょ。もう1匹なんて…」
「香織、とりあえずこっち来て、他人に構ってる暇は無くなったわ!」
香織は近づく絶望に顔を顰めながらも、立ち向かう為に瑞稀と雫に合流した。




