160話成長期
明水子はこの数週間は兄弟弟子の楓と翠の2人と一緒にダンジョンを探索していた。
黎人1人と探索している時は主に基礎やソロでの戦闘を教えてもらっていたのだが、2人が合流してからは、2人から連携について学んでいた。
これは、黎人からの指示でもあった。
楓との連携のパターンと翠との連携のパターンを学びながら、2人の息のあった連携を見る事さえも勉強になり、明水子は冒険者としてどんどん成長していった。
勿論、座学の勉強も欠かさず、明水子の両親の了承をもらって黎人が柚木家のリビングで魔法を使える様に家庭教師をしている。
この家庭教師での勉強はとても大切であった。
ステータスが上がればINTが上がって賢くなる。
しかしそれは記憶力が良くなったり理解力が高くなると言うだけである。
きちんと勉強しなければ、知識を蓄える事などできない。
故に今まで冒険者指導のベースが出来ていなかった日本において、ステータスが上がって何もしなくても効果が分かるSTRだけを見て、力がつくと言う効果だけが目立ち、そもそも冒険者を始めるのははみ出し者が多かった為に野蛮と言うイメージがついてしまったのだ。
それに引き換えしっかりと勉強もこなした明水子はここ1週間、楓達が合流して少し経ってからの成長が凄まじく、昨日はついに魔法を使える様になってしまった。
これは黎人の弟子の中では1番早く覚えた事になる。
今も、翠の攻撃でできた隙を氷の盾によってカバーした。
明水子が覚えた魔法は水をベースにした魔法だった。
水魔法を勉強したいと言った理由は名前に水が入っていると言った安直な理由だったが、それがうまくハマったようである。
「黎人さん、もう明水子ちゃんは冒険者免許をとっても大丈夫でしょ?」
「そうだな。そろそろ免許を取ってダンジョンのレベルを上げようかと考えている所だ」
「羨ましいですね。師匠にきちんと人型の魔物の指導までしてもらえるなんて」
楓はにこやかに明水子を見ながら呟いた。
「なんだ?まだ俺の指導が必要か?」
「そうじゃないですけど、これからの弟子達はよりしっかりした指導の下卒業していくとなると負けてられないなって」
「そうさ。お前はもう教える側の人間だ。
仕事でも面倒見てるんだろ?」
「ええ。黎人さんの指導をこうやって見ると、教えてもらっていた時とはまた違った発見があります。エヴァちゃんのときも今回も」
「また教えに来てやってくれよ。兄弟子として」
「はい」
楓は、黎人の言葉で自分を認めてくれているのだと分かって口角が上がるのを止められなかった。
「師匠、終わりました」
「明水子ちゃんの魔法はすごく頼りになります。後ろにいてくれると心強いですね」
翠の実力ならこのダンジョンなど片手間でも楽勝なのだが、明水子の実力をそう判断した。
この判断も、仕事の経験から来るしっかりとした物だった。
「明水子、もし誘って来れるなら頑張って友達を誘ってきてみるといい」
「ひゃい!」
黎人の提案に明水子はびっくりして変な声が出てしまう。
しかし、黎人は最近の明水子の話を聞いていると、そろそろ頑張る時期ではないかと思う。
次の日、明水子は登校する時、緊張で手足が一緒に動いていたそうな。