152話ご挨拶
黎人は、アリスの面倒を見る事を、アリスの親に説明に行く事にした。
アリスから話を聞いていると、色々と話しておいた方がよさそうなのである。
ちなみに、言うまでも無いだろうがアリスとは配信用のハンドルネームである。
アリスの本名は柚木明水子と言うらしい。
名前に子が付くのがコンプレックスらしく、ハンドルネームをアリスにしたそうだ。
名前に子がつく人は一時の昔の子がつく名前かわいいといったブームがあった為結構居るが、今の子には受けない様だ。
それはさておき、アリスこと明水子の家にたどり着いた。
明水子は一緒に居るのだが、礼儀としてインターホンを押して、親が出てくるのを待った。
インターホンで、少し事情を説明すると、明水子の母親が中へと入れてくれた。
まずは玄関先で名刺を渡しておく。
名刺を見た母親はギョッとした顔をした。
今、話してある内容は明水子がダンジョンでトラブルに巻き込まれたと言う話と、名刺で黎人が冒険者ギルドのオーナーだと言う事。
詐欺を疑うか、大事だと思うかの2択だろう。
なので黎人は玄関先で、細かな話を説明した。
母親は明水子がダンジョン配信をしていた事も初耳だったようだ。
1人で仮免許を取ってダンジョンに行っていた事に驚き半分、心配半分と言った様子だ。
「それで、冒険者ギルドのオーナーが来たと言う事は明水子が何か問題を起こしたと言う事でしょうか?」
母親は心配そうに黎人に尋ねた。
「問題と言えば問題ですが、悪い事をしたと言う訳ではありません。順番にお話しましょう」
黎人は明水子がダンジョン最奥にチャレンジして魔物に囲まれて危なかった所を黎人が助けた事、その状況は配信の為無茶な挑戦の結果だったと言う事を説明していく。
冒険者は受け入れられ始め、冒険者マネジメント会社ができて以前よりも安全と言われる様になったが、ダンジョンが変わった訳ではない。
ノウハウも無くチャレンジすれば、危険な事は何も変わりがないのだ。
「明水子、あなた…」
母親は明水子が配信して無茶をしていた事に、心配と安堵と叱りたい気持ちが入り混じった感情で声が震えていた。
「お母さん、それでもこれは娘さんが引っ込み思案な自分を変えたいと思って起こした行動だと言う事は理解してあげてください」
母親は何も答えてはくれなかった。
「娘さんは自分で考えて自分を変える為に一歩踏み出した。しかしそれはとても危険な道だった。
それをなるだけ安全に、正しい方向へ導いてあげるのが私達大人の役割だと思ってます。
変わりたい。その気持ちを押し込めて諦めさせてはいけないと思うのです。
生憎、娘さんの選んだ配信と言うものの先に娘さんが求める物はないと思っています。
ただ、友達や、仲間を見つけるのに冒険者はとてもいいと思います。
冒険者は互いに支え合い、助け合って安全にダンジョンを探索しますから。
ただ、娘さんをいきなり冒険者マネジメント会社のアルバイトプログラムに参加させて上手くいくかと言われれば違うでしょう。
コミュニケーションが取れなければ仲間も危険に晒す事になる。
だから、私に任せてもらえないでしょうか?」
母親は黙って黎人の話を聞いていた。
いろいろな事を、考えている様だった。
「貴方に任せれば、娘は成長できるのでしょうか?」
「私はこれまでに弟子を育てた経験もあります。1人でもがくよりは、確実に成長できるでしょうし、お母様も安心して見ていただけるかと思います」
「…分かりました。よろしくお願いします」
その後、明水子の母親からお金の事について聞かれるのだが、黎人は、道楽だからと笑って答えて、驚かれるのはデフォルトだった。
その後は、これからの事について、色々と話す為、家の中に上げてもらい、ご飯もご馳走になった。
帰宅した父親にもきちんと了承をもらい、明水子は黎人の弟子になる事が決まった。
そして明水子の両親は、明水子が黎人と少しぎこちないながらも普通に会話をして、コミュニケーションをとっていた事に1番驚いていたようであった。