150話配信者の素顔
喫茶店へと移動した黎人は少女の話を聞いていた。
助けてしまった手前、あとは勝手にしろと言えないのが黎人のいい所であり、悪い所でもある。
「それで、どうしてそんなに落ち込んでるんだ?」
「それは、仲間を見つける事ができなかったから、一人でやってる訳で…」
ぽつぽつと話し始めた内容を聞いて、黎人は気づいた。
これは、地雷を踏んだな、と。
この少女、いわゆるぼっちのコミュ症だったわけだ。
学校で友達ができず、話題作りの為に友達が話していたBTuberを始めてみた。
コミュ症で友達ができなかっただけで、そこそこ可愛いから配信者としてバズってしまい、今回コラボの依頼が来て、断ることができずにコラボをした所、今回の件に発展したようだ。
面と向かって話すのは苦手でも、メッセージのやり取りなら話せてしまうのが裏目に出たそうな。
「それで、バズった結果友達はできたのか?」
黎人の質問に少女は首を振った。
配信でできたのは登録者、視聴者ばかり。配信中は自分を作っている為、学校では配信してる事を気づいている人はいないそうだ。
「だけど、今日みたいな無茶な探索の仕方してたら命がいくつあっても足りないぞ?」
「はい…でも、私、変わりたくて」
変わりたい。そう思って踏み出したのが配信者だったわけだ。
しかし、今の少女の考え方はとても危うく思える。
もし、今回のコラボが成功を収めていたとしても、少女が求める物はそこには無いだろうに。
彼女の変わりたいと言う言葉は、偶像を作り出したいと言う事ではなく、成長したいと言う事だろうから。
「もし、君の変わりたいが成長したいと言う事なら、一度配信を辞めてみるといい。
その代わり、君が成長できる様に俺が手伝おう」
「え?」
黎人はこの少女は黎人が作り出した闇にはまってしまっているように思えた。
ステータスの高い人間の行動は、ある程度合理的になるが故に予測する事ができる。
だからこそ世界を手玉にとって日本を変えたわけだ。
しかし、ステータス。特にINTが低い人間は時に予測のつかない行動を起こす。
今回のBTuber。ダンジョン配信もその一つだ。
黎人は冒険者ギルドと冒険者マネジメント会社の2つを軸に冒険者の地位向上を促し。そして冒険者を以前よりも安全で稼ぎやすい職業へと変えた。
低クラスダンジョンで燻る冒険者をサポートする事で冒険者になるハードルを下げたのだ。
しかし、冒険者のハードルが下がったと同時に、ダンジョンの難易度が下がったと誤認してしまう人達がいた。
それでも、普通ならしっかりと、安全に稼げる様に冒険者になるのが一般的な考えだろうが、冒険者にならず、あろう事かカメラを持ち込んで、ダンジョンを配信する人達が現れたのだ。
冒険者の方が安全に多く稼ぐ事ができる。にもかかわらずだ。
黎人も初めは、面白い事を考える人もいるもんだと感心していた。
Gクラスダンジョンの入り口付近でマージンを取ってやっている様で、ギルドに被害の報告は無かったし、視聴者が居れば、需要と供給が成り立ち、ビジネスとして成り立つ。
しかし、配信者が増えれば、同じジャンルはマンネリ化し、視聴者を増やす為に過激な物が増える。
今回の件がそれにあたる。
配信者の中で、誰もやっていない事をすれば視聴率はあがると考え、そしてダンジョンを甘く見た配信者は無謀な挑戦をしてしまう。
そして、一定以上の視聴者は更なるスリルを求める。
今回はなんとか死者は出なかったが、そのうちは死者を出してもなんら不思議ではない。
この配信と言うコンテンツは黎人がダンジョンのハードルを下げたが故に起こった闇だと思った。
だから、目の前で闇にはまっている少女に手を差し伸べることにしたのだった。