149話動画配信者の実情
「あの、助けていただいてありがとうございました」
「俺がいて良かったけど、無茶は禁物だ。君、冒険者じゃないだろ?」
「はい」
BTuberと呼ばれるダンジョン配信者に今の所冒険者はいない。
なぜなら、撮影するには撮影者か自分でカメラを持たなければならず、ダンジョン探索の危険度があがる。
そして、もし安全にダンジョン探索を配信しながらするのであれば、上級のダンジョンに行けば行くほど取らなければいけないマージンは大きくなるだろう。
となると、どれだけ強くなっても、Eクラスダンジョン以上の配信は現実的ではない。
それに、配信者として人気を得るよりも、堅実に冒険者としてランクを上げる方が、お金の面でも稼ぐ事ができる。
冒険者マネジメント会社の登場によって安全性も格段に上がった今、配信者としての稼ぎ方にメリットなどない。
それでも配信者が大勢居るのは、人気者になりたいの一点だろう。
冒険者に憧れる子供達が増え、仮免許が取得できるのは高校生以上。
冒険者が安全になったと言っても、まだまだ冒険者でない一般人は沢山いる。
だから、映像コンテンツとしては人気がある。
ダンジョンに潜っている擬似体験ができるし、ダンジョン内で戦う配信者の姿は、ダンジョンに潜らない一般人にとっては非現実的でとても楽しかった。
「君はまず仲間を見つけた方がいい。
さっき見ていたが1人でカメラを持っての戦闘は危険を通り越して無謀だ」
「仲間ができるならこんな事しとらんけん」
「ん?」
少女の呟きは小さくて黎人には聞こえなかった。
俯いてしまった少女に、黎人はため息を吐いた。
「とりあえず、まだダンジョンの中だ。
外に出てから話を聞こう。喫茶店くらい奢るよ」
「…はい」
2人はダンジョンをでて、落ち着いて話す為に喫茶店に向かった。
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時間は少し遡り、とある動画のチャット欄はおおいに盛り上がっていた。
書き込んでいたのは、皆あるダンジョン配信を見た視聴者達だった。
《日本初!ダンジョンの最奥の魔物に挑む!》
《オカケンコラボ!ダンジョン最奥の魔物を倒してクリアを目指す!》
そうタイトルに付けられた配信を期待して見た視聴者は、思い思いの事を書き込んでいく。
『オカケン達逃げ出したんだけどwwウケるw』
『あれだけ自信満々だったのに一瞬じゃんw』
『アリスちゃんがんばれ!』
『アリスちゃんやばい!』
『え、置いて行かれた?』
『これ、ヤバいんじゃないの?』
『え』
『え』
『ええー』
『一撃じゃん、誰これ(笑)』
『通りすがりの、本物の冒険者?』
『本物の冒険者きたー!』
『冒険者ってこんなに強いの?』
『アリスちゃん助かってよかったー』
『そんな事よりオカケン達やばくね?』
『何がヤバいんだよ!死ぬ前に逃げるのは当たり前だろ!』
『でもアリスちゃん置いてったのはヤバいんじゃないの?』
『それは緊急時だからセーフなんじゃないの?ダンジョンに行くのは自己責任!故意じゃないから!』
『いやいや、これはまずいでしょ』
『助かったならいいんじゃね?』
『アリスー』
『アリスー!』
『アリス信者うざw』
動画が終わった後も、コメントはしばらくの間盛り上がり続けたと言う。