141話話し合い
大統領の対面に座った黎人はテーブルに肘をついて頬杖を突き、ニコリと大統領に笑いかけた。
侵入者とは思えない態度に大統領は困惑して、フォークに刺さったままのステーキを宙に彷徨わせながら、黎人の後方にいるトーマスやリリアーナに助けを求めた。
「抵抗しない方がいいわ。彼が黄昏のゼロよ」
リリアーナは簡潔に事実を伝えた。
しかし、それだけで全てが説明出来たわけではない。
しかし、大統領であれば、ゼロがSSS冒険者を指す事は知っていた。
それに、大統領から見た今の状況は、アメリカの最高戦力を従えて来たSSS冒険者と言う図式になる。
抵抗は無意味だと分かりながらも、大統領として、降伏はできない。メンツだけは、守らなければいけなかった。
「おほん!それで、なんの用だろうか?」
アメリカ大統領イーサン・ウォーカーは元Bランク冒険者で、それなりのステータスを持っている。
その彼が、無意識の内に、日本人である黎人に日本語で尋ねてしまった。
それではもう、メンツなど守れてはいないだろうが、その事にイーサンは気づいていない。
「いや、少しお願いがあってね。
君達アメリカは一旦日本に干渉しないでくれるかな。
いや、アメリカだけでなく他の国も同じなんだけどね、特にアメリカは何かと日本に干渉して影響して来ただろう?
これから日本も冒険者主体の国を作ろうと思ってね。分かるだろう?」
この状況でのお願いは脅しであるが、黎人はそんな事は気にも止めていない。
「それは、どこまで…」
「政府が干渉しなければ今は良いかな。
日本の経済が崩壊した事で、日本の土地を買い占めようとかしている連中はこっちでなんとかするよ。
今は強制的に作り替えてる最中だから邪魔しないで欲しいんだよね」
黎人の言葉からは、日本に手を出す輩への攻撃に目を瞑れと言っている様だった。
しかし、イーサンはその言葉の真意に気づいてしまった。
最近アメリカの大手企業の何件かが、急に代表が変わった。その本当の意味に、気づいてしまった。
「…日本とは、より良い関係を築くと約束する」
イーサンに言えるのはそれだけだった。
意見が合わぬ者同士が、自分の意見を通す為に行うのが戦争だ。
そして勝った方が自分の意見を通すことができる。
戦争を起こさない方法と戦争に勝つ方法はどちらも同じである。
相手に、諦めさせる事。
そして、圧倒的な力で戦う前に諦めさせて、不戦勝を続ければ戦争は起きない。
イーサンは、この状況からアメリカの最高戦力を奪われたと勘違いし、もしもゼロとアメリカが事を構える事になったらと想像してしまった。
そして、アメリカの経済さえも人質に取られているのではと想像してしまった。
できるのは、戦争を起こさない為にすぐに白旗を振る事だった。
「ありがとう、話が早くて助かるよ」
ゼロが去った後、トーマスとリリアーナはホワイトハウスに残った。
「それで正解よ。今の日本に、ゼロに手を出すべきではないわ」
リリアーナはイーサンの肩にそう言って慰める様に手を置いた。
こうして黎人は邪魔をして来そうな国を巡って《《話し合いの説得》》をしていくのだった。