140話侵入
世界ギルドアメリカ支部。
会議室では3人の人物が顔を合わせていた。
黒人のギルドマスターのオリバーそしてSSS冒険者。ガタイのいい白人トーマスとモデルの様な9頭身黒人美女のリリアーナだった。
「もう一度聞くが、お前達で何とかできる相手では無いのだな?」
「俺は仲間と一緒に階級進化を倒してSSSになったからな。単独のリリアーナが言うんだからそうなんだろ?
まあ、俺も成長してるし負ける気はねえけどな」
そう言ってガハハハとトーマスは笑った。
「貴方は彼に会ったことがないからそんな事が言えるのよ。私は彼を相手にするなんて無理!彼、階級進化を無傷で倒すのよ?私が着いた時には終わってたんだから」
「んなジョークを本気にするなよ。そんなの無理って分かるだろ?一回でも階級進化と戦った事があるならよ」
そのトーマスの様子にリリアーナは知らないとばかりに机に頬杖をついてそっぽを向いた。
オリバーが話そうとするが、それを遮る様に扉がノックされた。
「オリバー、お客様が来たわよ」
ドアの向こうからサブマスターのフランクな声が聞こえてくる。
しかし、その言葉に会議室は一瞬で緊張に包まれた。
先程までおちゃらけていたトーマスまで笑顔のない強張った顔で扉の方を見ている。
部屋に入って来たのは特に強そうには見えない日本人だった。
春風黎人。
日本支部から連絡があり、急遽アポをとった人物である。
勿論、この春風黎人がゼロである事も日本支部からその時に知らされている。
「待たせたかな?」
「い、いえ。ようこそアメリカ支部へ」
何でもない様な黎人の態度にオリバーは緊張気味にそう返事をした。
「座ってもいいかな?」
「ええ。どうぞ」
にこやかに座る黎人だが、オリバー、トーマス、リリアーナの3人は冷や汗を流していた。
黎人は何でもない様に振る舞っている様だが、部屋の空気は張り詰め、黎人からは殺気とも似た圧力が発せられていた。
蛇に睨まれた蛙と言う表現が当てはまる様に、先程まで軽口を叩いていたトーマスも、一瞬にして手を出してはいけないと察した。
「まあ、もういいかな?」
黎人の言葉と共に張り詰めていた空気感は一瞬で無くなり、3人は無意識に止めていた呼吸を再開した。
「すまないね。面倒くさいのはいやだから初めが肝心かと思ってね」
「その様な事をしなくてもスムーズな話が出来ますよ」
オリバーは苦笑いで返事をしながらトーマスが調子に乗って挑発しなくて良かったと胸を撫でた。
「それで、今回はどの様な用件で?」
「ちょっと大統領に繋いでくれるかな?」
「え?」
「ちょっと言っておかないといけないかなと思ってね。勝手に乗り込んでもいいかと思ったんだけど、トラブルは少ない方がいいだろ?」
オリバーは黎人がジョークから話を広げていくのかと思ったが、どうやら本気の様だと悟った。
しかし、いくらアメリカ支部のギルドマスターであろうとすぐにアポが取れる訳ではない。
「すぐにと言うのは、難しいかと。どれだけ早くても1日はかかります」
「何だ、そうか。お前らも?」
トーマスとリリアーナも無理であろう。
緊急でも1日はかかってしまう。
勿論、それが分からない黎人ではない。わざとやっているのだ。圧力をかける為に。
「なら、これから乗り込むか。お前ら2人、付いてこいよな?」
トーマスとリリアーナに拒否権は無かった。
勿論、事を大きくすればいいと言う訳ではないので、行動は夜である。
________ホワイトハウス。
アポなど取ってないので静かに侵入する。
勿論冒険者が侵入できない様にセキュリティはしっかりしている。
なにせアメリカの大統領が住まう場所なのだ。
しかし、そのセキュリティもSSS冒険者3人の侵入が想定されている訳ではなかった。
機械的なセキュリティは簡単に突破し、大統領を守るSPも簡単に気絶させた。
SPも元Sランク冒険者なのだが、もう説明は不要だろう。
黎人がSPの1人、指揮していた上官であろう人物の首根っこを掴んで引きずってホワイトハウス内を進んでいく。
迷いなく、風魔法を繊細に使って大統領の元まですんなりとたどり着いた。
扉を蹴破り、大統領の手前にSPを放り投げた。
食事をしていた大統領は侵入者3人を見て驚きで口をあんぐりと開けたまま固まっている。
勿論、トーマスとリリアーナは顔出ししているSSS冒険者だしアメリカを誇るSSS冒険者な為知っているだろうが、ホワイトハウスへのこの様な侵入は予想できないだろう。
驚きで固まる大統領を他所に、黎人は大統領の対面の席に座った。
さて、今から前代未聞の話し合いが始まる。