135話民営化事業
ホテルのラウンジで、モーニングの後のコーヒーを飲みながら新聞を読む人物が居た。
黒川秀造。日本の前内閣総理大臣であり今は駆け出しの冒険者である。
「最近のニュースはどうや?
自分がやりたかった事が他人の手で現実になっていくのが悔しいか?
それとも日本が壊れていく様を見るのが心苦しいか?」
遅れてモーニングセットを受け取り、席にやって来た坂井五郎が新聞を見る黒川を見てそう質問した。
2人が泊まっているのは前総理大臣が泊まるとは思えない様な安宿。素泊りがメインだがオプションで簡単な朝食がつけられる。
坂井が席について、パンを齧り始めるまで黒川は返事を返さずに無言だったが、ゆっくりと口を開いた。
「どちらもですね。私がやりたかったギルドの民営化。
このままいけば大成功として有安の名前は歴史に名を残すでしょう。いや、《《彼の時代》》には成功と言えるか分かりませんが…」
民営化と言う言葉にマイナスなイメージを持つ人は多いかも知れない。
それは過去に赤字で運営がままならない国営事業を切り売りし、国民に不利益が出た結果、悪いイメージばかりが浮かぶからであろう。
しかし、今回の冒険者ギルドの民営化は冒険者を追い出す為の政策として行われただけで冒険者ギルド自体は黒字産業であった。
冒険者から45%も巻き上げていれば当たり前であるが。
民営化と言うのは、その名の通り国営の事業が民間企業になる事である。
簡単に言えば、国が運営していた場合、運営にかかる費用、働く公務員等の給料などの経費は税金で賄われている。
その使われた経費より多くの売り上げがあれば黒字になる訳だ。当たり前の事だが。
それが民営化すれば経費は掛からず、税収だけが入ってくる事になる。その税収が国営時の売り上げを上回れば民営化自体は成功と言える。
赤字運営だった場合は必ずプラスな訳だ。
これは、額面だけを見た場合で、国民が満足するかは別問題である。
民営化の狙いとして価格競争が起こり、料金の値下げが行われるであろう。といった狙いがある。
しかし、国営の場合、独占していたからといって値段を釣り上げる様な事はしていない為、値段が下げられるかといったら難しい問題だ。
価格競争が起こり最初は顧客確保の為に値段が下がったとしても、ある程度顧客争奪戦が落ち着けば示し合わせた様に値上げをするだろう。
値段を下げて顧客が増えても、赤字では企業は成り立たないのだから。
初期設備投資に莫大な費用がかかっていればその設備投資分も回収しなければならないのだ。
国が使っていた設備が使えればまだマシだが、それが使えなければ…。
その結果、民営化して税収が増えたとしても、国民の不満が大きくなれば、それは失敗と言われるだろう。
今回の場合は、黎人が運営する事により国営時よりもしっかりとした運営がされる事になる。
ギルド職員が魔石を吸収する事によってギルドの対応も冒険者に寄り添った物に改善されていくだろう。
そして、マネジメント会社ができた事により、所属する冒険者は安全に多くの魔石を稼ぎ、ギルドに入ってくる魔石はどんどん増え、今までのギルドの収入を超えていくだろう。
その前に、疑問があるだろう。
今まで魔石の税金で運営して来たギルドがどうやって売上を得るかと言った話だが、魔石は国に流れるのでは無く、一旦世界ギルドに集められ、業績によって各国に分配される。
これはギルドの運営が国であるから各国と言うだけで、これから日本は冒険者ギルドに分配される事になる。
それを売る事で売上を得る。
日本は脱冒険者を掲げてこの魔石を買わなくていいように他の発電に切り替えようとしているのだが、どうなるのだろうか?
日本に売らなければいけないといったルールは無いので冒険者ギルド的には困らないから別に問題は無いのだが。
何にせよ、冒険者ギルドは国民の生活には間接的にしか結びついていない為、国が上手くすれば不満の声は上がりにくい。
税収だけが上がる為に成功。となる予定である。勿論、冒険者が日本で活動すれば。と言う条件がある為に政府の政策とは相反する訳だが。
「私が役割を与えられるのは一度日本が崩壊してからです。
私は日本をよくする為に、一度壊す事を選び、悪魔の手を取った悪い政治屋なんですから」
「黎人の事を悪魔なんて言ったら背後から刺されんで?
アイツのファンは熱狂的やからな」
がらんとした安宿の食堂の片隅で、おじさん達の笑い声が響いていた。