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133話狂った思想

その日、大浦は清々しい朝を迎えた。


数日前まで恐怖に怯え、頭から布団を被っていた自分を鼻で笑ってやりたかった。


なぜ布団から抜けだけだかと言うとネットで見た()()が過ぎたからだった。

『何日間過ぎても警察が来なければ安心して大丈夫ですよ』

ネットで書かれていたその期間が過ぎても警察は来なかった。


びびって損した。


そう思って昨日までの様子は嘘の様に布団から抜け出して来たのである。

クラスの反応的にはまだ学校に行こうとは思わないし、スマホの電源も切ったままだが、逮捕される事が無いと分かっただけで一安心である。


パソコンで新しくSNSアカウントを作り、気になっている話題を検索、回覧していく。


「やっぱりな。アイツらのがおかしいんだよ」


回覧するサイトや気になるアカウントの発言などを見れば冒険者を非難する物が多く、やはり自分は正しいと再確認した。

クラスの反応の方がおかしいんだ。

ああ言う流される奴らが日本を悪くするんだ!

確かに王女に石を投げたのは悪かったかもしれないけど、それは王女だって隠してたアイツが悪いだろ?本人もそう認めてる。


それに、俺は17で未成年だから何をしても許されるさ。実際警察は来なかったし。だから、成人するまでの後一年はなんでもやり放題だな。


ネットの記事など、自分が検索して探す訳だし、気に入らない記事は読み始めてすぐに閉じてしまう為、自分の都合のいい情報しか入っていない事に気づいていない。

何日迄に警察が来なければ平気。などはいい例であろう。


「あー、腹減ったな」


ドアを開けて部屋の前を見る。

最近は部屋に閉じこもっていたからここに飯が用意されていたのだが、今日は置かれていない。


「たく、なー、飯はー?」


そう大きな声で話しながらながら階段を降りていくが、リビングやキッチンに母親の姿は無く、返事は返ってこなかった。


「げ、なんだよ、出かけてんの?」


窓から駐車場を除けば車は無く、やはり出掛けている様であった。


「しゃーねーな」


ガサゴソと冷蔵庫を漁り、出て来たハムなどを使ってインスタントのラーメンでも作ろうかと鍋に水を入れて火にかける。

その時、車の音が聞こえ、母は帰って来た様だが、作り始めて既にラーメンの口になっていた。


ハムを切る為に包丁を出して、袋ごと十文字に切ろうとする。しかし、外側のビニールごとスパッといくわけもなくギコギコとノコギリの様に切り始める。


そこで勢いよく扉が開いた。

驚いて振り返ると母親は鬼の形相であった。


「なんだよ、そんなに怒って」


「なんだよじゃないでしょう!お母さん学校に呼び出されたのよ?」


「は?なんで?」


「なんでってあんたデモに参加して王女様に石投げたんだって?それが原因で学校にクレームの電話だったり色々来て迷惑だからって呼び出されたんでしょ!」


「はぁ?」


「あんた、学校では手に負えないから退学って話まででてんのよ?ねえ、ちゃんと聞きなさい?

こんな問題になってるってなんで話さなかったの?」


「なんで退学なんだよ?別に悪い事してねえじゃん。警察も来なかったし、未成年だから大丈夫なんだよ。学校も脅してるだけで大丈夫だって」


「そんな訳ないでしょ!謝りに行くわよ!実際迷惑かけてるんだし、ほら!」


母親は大浦を学校に連れて行こうと腕を掴んだ。


「え、嫌だよ。今行くとかクラスの奴らとかだりぃじゃん。それに、危ないって、包丁使ってんの!」


「そんな事言ってる場合じゃないでしょう?ほら、包丁なんて置いて、行くわよ!」


「だから、行かねえって!」


母親に掴まれた腕を振り解いたつもりだった。

しかし、包丁を持ったまま行われたそれは、刃物で母親の肩を切り裂いてしまった。

そして、運の悪い事に突き飛ばされる形になった母親は体勢を崩して、倒れた先には机があり、頭をぶつけて、打ち所が悪かったのか気絶してしまう。


「え、おい、俺はそんなつもりじゃ…」


大浦の言葉に気絶した母親は返事を返さない。


「おい、返事しろよ!」


そう声を荒げる前で母親の肩からは血が流れ、服に赤黒いシミを作っていく。


「嘘だろ…」


自分が、母親を殺してしまった。

気が動転している大浦はその光景だけでそれを断定してしまった。


包丁についた母親の血を見つめる。


なんでこんな事に?

今日は警察が来るかもしれない恐怖から解放された清々しい日だった。


なのになんでこんな事…。


母さんがつかみかかってこなければこんな事になってなかったんだ。

学校が退学だとか言ってこなけりゃこんな事にはならなかったんだ。

誰が悪い?俺?俺は悪くない。


母さん?学校?それとも俺を悪者にしたクラスメイト?

そうだ。そもそもアイツらが俺の写真をSNSに上げなければこんな事にはならなかったんだ。


いや、その前に冒険者が居なければデモも起こる事は無かった。

それじゃやっぱり全部あの犯罪者達が悪いんじゃないか!


そうすれば俺が母さんを殺す事なんて無かった。

そうだ。アイツらが全部悪いんだ!


気が動転した大浦の中で悪い方に思考が偏っていき、そして、何かがプツリと切れた。


警察は冒険者排除派です。なので冒険者に何をしようと警察は動きません。


未成年なら犯罪を犯しても犯罪者になりません。


冒険者排除は国の方針です。


自分に都合のいい情報だけがフラッシュバックしていく。


深く考えずに体は動き出していた。


幸か不幸か、道中人にあわなかった。


道場の中には師範代がいた。


この師範代は説教くさく、いつも自分のする事にケチをつけて来た。

俺がデモに参加する前も、冒険者を擁護する様な発言をして。

こう言う大人が居るから冒険者なんて犯罪者が蔓延る世の中になっていくんだ!

そのせいで俺は…!



そして、包丁から日本刀に持ち替えた大浦は歪んだ思想の元に冒険者ギルドへと復讐に向かう。


俺が習って来たのは人斬りの剣術だ。

魔物と戦っていようがこちらに分があるんだ。

俺を貶めた奴らへの復讐なんだ!


その後、大浦は冒険者ギルドの前に居た人に無差別に斬りかかり、一般人3人と冒険者1人に重傷をおわせた後、冒険者によって簡単に取り押されられてしまう。

一般人が重傷で済んだのは、取り押さえた冒険者とは別の冒険者が大浦と重傷の一般人の間に割って入り、一般人を庇ったからであった。



その日のニュースや新聞の見出しは『デモ参加者の暴走。市民を守ったのは善良な冒険者!』であった。





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