130話イギリスの1日
谷口一家は黎人の母、譜に案内されて黎人が所有するマンションまでやって来た。
「皆さんが住むのはここですよ」
そうして案内されたのは家具家電付きの部屋だった。家族4人が住むには十分以上な広さがある部屋に、志歩は圧倒されていた。
それは黎人が日本で言っていた一言。
「向こうの家はこちらで用意するよ」
と言う何でもない様な一言だった為、こんな立派な家が用意されるとは想像していなかった。
勿論黎人は自分所有のマンションだと伝えていない為、谷口一家は借りてもらった借家だと思っているが、それにしては豪華な部屋で志歩以外も驚いて言葉を失っていた。
「黎人の弟子の1人が将来冒険者の為の会社をしたいらしくてね、経験の為にお2人はその子とその相棒の子が面倒を見てくれるそうだわ。
大丈夫よ。2人ともいい子だから」
譜の説明に志歩の父親は喉を鳴らして決意を口にした。
「日本に帰った時に生活レベルが落ちない様に頑張るよ。目標の1年間、なるだけランクを上げられる様にしよう」
決意と緊張の入り混じったその言葉に志歩の母は夫の肩に手を置き「私も頑張るわ」と呟いた。そしてその母の反対の手を志歩はギュッと握り「私も」と笑った。
それを志歩の祖母は微笑ましく見守っている。
あの日、イギリスに来る事を決めた日から数日、谷口一家は真剣に話し合った。
その結果、志歩の母は志歩がダンジョンでどの様な経験をしたのか。旦那がこれからどの様な経験をするのかを理解する為に一緒にダンジョンへ潜る事にした。
黎人が話していった「冒険者になったからと言って娘が変わったのか」と言う言葉はモヤモヤした部分を拭って冒険者と言う物を自分で考えるきっかけになった。
その結果少しづつではあるが、志歩と母親の仲は修復されていっている。
「さて、それじゃ食料品とかの買い出しに関しては火蓮ちゃんに頼もうかしら?あの子が1番マーケットに詳しいから」
「譜、火蓮ちゃんなら朝からダンジョンに出掛けて行ったよ。紫音ちゃんも今日は休みだし、一緒にダンジョン探索するみたいだ。だから、僕達で案内しようか」
「あらあら、そうなのね。火蓮ちゃんのが詳しいんだけど、それじゃ皆さん次はマーケットを案内しますね」
こうして、谷口一家のイギリス生活はスタートしていく。
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イギリスにあるCクラスダンジョンで、火蓮、紫音は無双していた。
「今日、師匠とエヴァちゃんがこっちに来るみたいだ、ね!」
火蓮はそう言いながら最後の魔物を切り飛ばした。
「火蓮、最後まで集中」
「だって、楽しみじゃない?」
ワクワクが止まらないと言った様子の火蓮に、紫音はやれやれ、と言う風に笑った。
しかし気持ちがわからないでもない。
レベッカさんから伝えられた言葉。
「イギリス政府がね、黎人はイギリスの英雄としての功績と能力を認め、イギリス政府が管理するダンジョンなら冒険者資格が無くとも特例として入場を許可する。だから弟子の成長が見たければダンジョンを自由に使いなさい。だってさ」
黎人にダンジョンで成長を見てもらい、足りない所を指導してもらえる可能性があると言う意味であった。
勿論妹弟子のエヴァとまたダンジョン探索するのも楽しいだろうが、それに勝る気持ちが2人にはあった。
今日の黎人がイギリス王室に招かれている事は知っている為、2人ははやる気持ちを抑える為にダンジョンの魔物を狩り尽くしていった。
その結果、ダンジョンには魔物が一時的に居なくなり、紫音はCランクへ昇級の提案をされる事になったのだとか。




