126話それぞれの行動5
昨晩、谷口志歩は母親と大喧嘩した。
家族と気まずくなりおばあちゃんの家にやって来て数ヶ月。
両親がそろそろ戻ってこないかと迎えに来てくれたのだ。
そこまでは良かった。
しかし、父親に説得されて母親はついて来ただけでまだ納得していなかったようで、時間が進むにつれて小言が増えたのだ。
やれ世間様に顔向け出来ないだの何だなと、娘が既に犯罪を冒したかの様な言い方であったが為に親子喧嘩にまで発展したのである。
しかし、母の言い分もわかる所がある。
父が私を責めていないのが不思議なのだ。
父は私のせいで次の人事で左遷される事が決まっているのだから。
それを母に言われて私は何も言い返せなかった。
冒険者や冒険者の家族に対しての差別、迫害は少しずつ始まっていたのである。
私はその後、日本から逃げ出したくなって、この間出会った外国人の少女に電話をしてしまった。
すぐに逃げ出すのは私の悪い癖だと思う。
電話にでた少女は私の話を親身に来てくれた。
そして今日…。
「ごめんください」
少女は家にやってきたのである。
少女ともう1人日本人の男性が家を訪ねて来た。
両親はお茶を出して緊張しながら2人の対面、私の隣に座った。
「突然の訪問申し訳ありません。
この子がどうしてもこちらに伺いたいと言うもので」
「いえ、それで、どう言ったご用件で?」
そう返事を返した母親は私の方をチラッと見た。
「エヴァ」
「それでは私からお話させていただきます。
お嬢さんから相談を受けました。
家族と上手く行っていないのが辛いと。
そして私が以前お誘いした様にイギリスに行きたいとおっしゃいました。
しかし、それは逃げる事であり、家族が壊れていくだけだと感じました。
ご家族だけではきちんと話し合いが出来ない様子。ですのでお節介を焼かせていただきたいと参上しました」
「は、はぁ」
母はその勢いに押されている様だ。
「お母様は冒険者になった娘さんにご不満な様子。これは間違いありませんか?」
「ええ。大学で一人暮らしをしていて、気づいたら冒険者になっていました。
そのせいで大学を休学して帰って来たかと思えば、どこから知ったのか娘が冒険者と言う理由で夫は左遷。不満も言いたくなります」
「そうですか。お父様も?」
「私は娘が無事で本当に良かったと。
ダンジョンで命の危険があったと聞いていますから」
「はい。ダンジョンはとても危険な場所です。
しかし、もう人の暮らしと切っても切り離せない。世界は冒険者に支えられています。
日本以外の国では冒険者は名誉ある仕事です。
私も先日冒険者になりましたが、お二人は私が世間で言われている様な野蛮人、犯罪者に見えますか?」
志歩の両親はすぐに返事は返さなかった。
そして、少しの沈黙を破ったのは志歩の祖母であった。
「やっぱり、テレビで見たとおりしっかりしたお嬢さんだねえ」
その言葉に谷口家は顔を見合わせた。
昨日のケンカのこともあり、テレビは見ていなかったからだ。
「おばあちゃん、テレビって?」
「つけてみたらわかるよ。今日の朝からテレビで見るお嬢さんさ」
そう言って志歩の祖母はテレビをつけた。
ちょうど時間的にお昼のワイドショーがながれ、デモ隊が冒険者をプラカードを持って挑発したり、エヴァに石を投げているシーンが映し出されていた。
「これはネットで流れた動画の一部ですが、デモ隊が冒険者に対してデモを行っているシーンとされています。これがデモの様に見えますでしょうか?行きすぎた行為ではないでしょうか?
そして、こちらの石を投げられた冒険者はイギリスのエヴァンジェリン第3王女だと言う事がわかっています____________」
そのテレビの内容を見て、志歩を含めて谷口家はエヴァを見た。
「あ、どうか気になさらないで下さいね。
私はイギリス王室の一員としてではなく、ただのエヴァとして冒険者になる為にこの師匠に師事しに日本まで来ました。なので変に気を使う必要はありません」
エヴァがそう言っても志歩達はギクシャクとしてしまう。
「えっと…」
「…代わりに私が話をしましょう。
私はイギリス王室と何の関係もない日本人ですから少しは気が楽でしょう」
どの口が言うのかとエヴァは黎人を見るが、何も知らない志歩達にとっては王女様とはなすよりは日本人なだけマシだと思えた。
「皆さん、日本は今、変化する時に来ています。
政府は冒険者排除をうたっていますが長くは続かないでしょう。
次第に冒険者が居なくなった影響が生活に現れ始め、日本人は不満を表します。
そして、近い内に冒険者と手を取り合う日が来るでしょう。
冒険者は職業です。
警察、教師、政治家でさえ、過去には犯罪を犯してしまった人達がいます。
しかし、その職業全てが信用できなくなったわけではありませんでした。
その後にも素晴らしい活躍をした同じ職種の人は沢山いらっしゃいます。
要は職業、職種で判断するのではなく、人を見極めなければいけません。
娘さんが冒険者になったからと言って性格が変わって暴力的になった訳ではないでしょう?
そう考えると、失礼ですが、旦那さんの会社は冒険者の参入に乗り遅れてしまう可能性が高い。そして、そんな娘さんを差別する会社で働きたいと思いますか?」
「それは、しかし私は家族の為に左遷されてもお金を稼がなければいけません」
仕方がないのだと声を漏らした志歩の父親に黎人は笑いかけながら優しく言った。
「なにも貴方が働いている会社だけが全てではありません。他にも会社は沢山あります。
例えば、こうしてお会いしたのも何かの縁でしょう。
娘さんはエヴァの提案でイギリスを見たいと仰られています。
ご両親、それにお祖母様も日本の外を見てみてはいかがでしょう?
そしてお父様、私、実は会社をしていまして、これから人手が必要になる予定です。
なので、私の出すノルマ。これは私の会社の社員に義務付けている物なのですが、それをクリアしていただければ高待遇で引き抜かせていただきます。
詐欺みたいな誘い文句ですが、一応、私の身分はイギリス王室のお墨付きですよ」
その後、色々と話す事になるのだが、費用は黎人が全部出す(福利厚生)と言う事で、志歩の父親はイギリスでノルマであるEランク冒険者、あわよくばCランク冒険者を志歩と一緒に目指す事になる。
勿論黎人がサポートできる冒険者を用意するとの事だ。
そして、黎人達の拠点はイギリスへと移って行くのである。




