123話それぞれの行動4
「たく、貧乏くじ引いた上に飯までこれとは…まあ美味いねんけどな」
坂井五郎はそう愚痴をこぼしながらチェーン店の牛丼を美味そうにかきこんで食べていた。
「いいじゃないですか。現役の時はこうやって気軽に来れなかったんですよ。ああ、豚汁が美味しい」
そう言って満足そうに坂井の対面で豚汁を啜るのは60代初老のおじさん。
何を隠そうこの人物、黒川秀造前総理大臣である。
「あのな、あんたがもうちょっと上手くやってくれたら俺はこんな貧乏くじ引かんでよかったんやけど?」
「ほら、箸で人を指すのは行儀が悪いですよ」
ビシッと文句を言ったにも関わらず、この男には暖簾に腕押しの様で五郎はため息がでた。
「しかし、日曜の夕方からこんな所で飯食ってても気づかれやんとは、本当に元総理大臣なんやろか?」
「オーラや覇気なんかは出そうと思って出すものです。私服を着て、髪型を変えればこんなおじさんに興味を持つ人は少ないですよ」
ニコニコと笑う黒川には確かに威厳など感じられない。
そもそもなんでこの2人がこうして2人でご飯を食べているのか。
それは____
「お、ちょっと待ってくれ、電話や。
おう、なんや?お前から連絡してくるなんて珍しいやないか?
ん、おう。それはすまんかったな。いや、そもそもアイツらもプロやねんからお前が見抜く方が凄いねんて。
で、お嬢ちゃんには気づかれてないんやろ?
そもそも何でそないな事に…。
あー、ほーん。なるほどなぁ。そらえらいこっちゃやわ。石投げるまでは想像してなかったな。
まあアイツらには気合い入れろってこっちから言うとく。でも、考えようによってはええ物手に入れたわ。
まあ根回しはまかしとき。貧乏くじ押し付けたねんからまた今度奢りや?ほなな」
電話を切った五郎に黒川が眉毛をクイっと上げる。
「黎人やわ。《闇夜の道化師》から紛れさしたんに気づいてもっと上手くやれってお叱りが来たわ。アイツらもプロなんやから普通の奴らでは気づかんやろに、アイツ俺には厳しいねんから」
そう言って五郎は笑う。黎人と五郎には兄弟弟子だからこその気軽さがあった。
《闇夜の道化師》は《黄昏の茶会》の下部クランで主に諜報活動を得意とする五郎直属のクランだ。《黄昏の茶会》解散後には五郎がクランリーダーに就任している
話はそれたが、《黄昏の茶会》の中で諜報、暗躍に携わる為に五郎は日本に残る事が決まっている。
目の前の黒川もその一環である。
元々黒川は日本を世界の基準に合わせる為に冒険者の地位向上を掲げ、総理大臣になってから7年間尽力してきた。
しかし同党にも否定的な人間が多く、遂に成就する事は叶わなかった。
しかし黒川は志半ばで諦めたわけではない。
日本をより良い国にする為、再当選を目指している。
黒川は再当選するならばそれは日本が変わる時だと考えている。
そして、《黄昏の茶会》が動いているのだからそれが近いだろうと言う事も。
なので、政治家としての禁忌を犯す事にした。
冒険者になって、これからの冒険者の必要性を示す事。
その為に以前から交流のあった五郎に弟子入りしたのだ。
勿論、今回落選した元内閣の賛同者を連れて。
その結果、負担が大きくなったのが五郎と言うわけである。
しかし、五郎もこの黒川達を手駒にできる事でこれからの計画の為の十分なメリットを見出しているわけである。
だからこそ、貧乏くじと言いながらもおっさん達の面倒を見ているわけである。
「さて、飯も食ったしそろそろデモ隊も大人しなる頃やろ。流石にデモの前におっさんを放り出す訳にはいかんからな」
そうして、お会計を済ませてダンジョンへと向かう。
ちなみに残りの元議員の弟子達は昨日の今日で筋肉痛等で家で唸っている。
一応ハットで気持ち程度に顔を隠し、おっさん2人はGクラスダンジョンへと消えていった。