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『11月15日2巻発売!』願ってもない追放後からのスローライフ?  作者: シュガースプーン。
第四章海を渡った五番弟子

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121話それぞれの行動3

私達は今、山を越えて東京に向かっている。


私達は長野で冒険者を目指し、冒険者になれるだけのステータスになれた。

後は冒険者ギルドで免許交付を受けるだけ。


だけどその前に、東京で家族に報告をする事を3人で話し合って決めた。


夜の暗闇の中、車のガラスに映る私の顔にはもうあの大きな傷はなく、以前と変わらない、いや、魔法で活性化された為以前よりきめの細かい綺麗な肌が映っている。


紹介してもらったお医者様の腕は物凄く、魔法を併用した施術の為にダウンタイムさえなかった。

そのおかげで瑞稀と雫を待たせる事なく、長野で冒険者を目指す事ができた。


正直な話をすると、私の目指していたステータスのマージンはまだ取れていない。

ただこれは、雫が連絡を取っている黎人の弟子の火蓮ちゃんから聞いた黎人が弟子に冒険者免許を取らせる時に設けるマージンで、ほぼEランクの実力と言えるそうだ。

なので私のステータスでも十分Fランクの冒険者としてはやっていける。これまでと同じ様に3人で力をあわせれば。

事を急いだのには理由があった。

今の日本は冒険者を差別する方向へどんどんと向かっている。

私達はここで立場をはっきりさせる為に予定を前倒しさせて冒険者免許を取る事を決めたのだ。


今のご時世こんな話をすれば家族に拒絶されるかもしれない。以前は快く長野に送り出してくれたけど、今は状況が変わってしまった。

だから、少し怖い。


そう考えていたら遠心力で体が引っ張られた。


「おばあちゃん、スピード出しすぎ!」


「おじいさんとの青春の車はそんなやわじゃないよ!」


「そう言う事じゃないってば!」


今、運転しているのは雫のおばあちゃん。

長野からおばあちゃんも一緒に来ているのは、私達はしばらく東京で冒険者として行動する事になると思う。

冒険者の家族が差別を受ける可能性があるので、できるだけ家族のそばにいたい。

そうなると、同じ理由で長野に1人残るおばあちゃんが冒険者の家族として差別を受けるかもしれない。

だからこうしてついて来てもらった。

いや、1番楽しみにしていたのはおばあちゃんかもしれない。

ちなみにおばあちゃんは私達が頑張る姿を間近で見て応援してくれている。


「このミッドシップの農道のポルシェが今でも動いてるのは私とおじいさんが改造したからなんだよ。ほら、後ろも踏ん張りな!一気に峠を抜けるよ」


おばあちゃんの笑顔が眩しい。

この車は雫のおじいちゃんが若い頃に買った100年以上前の車を今の燃料で動く様にした物だそうだ。


魔石の電力でEV化が進む中、車やバイクだけは化石の車と呼ばれるガソリンエンジンが生き残った。

それは当時からEVを凌ぐカーボンニュートラルとして話題を集めていた人工石油が軌道に乗ったから。

だから静かなEVに対してスポーツや趣味嗜好として今でもガソリン車は日本の産業として作られている。

エンジンの改良により排ガスに含まれる二酸化炭素は以前よりもグッと少なくなり、人工石油で還元される二酸化炭素の量の方が大きくなった為に、より地球に優しいとまで言われる。

これが完全実用化された背景には魔石のステータスアップがあるのだが、この事はあまり知られていない。

ただ、日本の車は世界で人気だと言うことだけは一般人の知る所だ。

この人工石油があるからこそ今の総理大臣は火力発電を動かすと言っているのだろうが。


閑話休題(それはさておき)


おばあちゃんはいつもはこんな無茶な運転はしていない。多分私達が考え込まない様に少し荒い運転をしているのだろう。


…多分。



そして朝方には東京に到着した。



私の心配を裏切り、家族の反応は何を今更と、あっけらかんとした物だった。

雫と瑞稀の家族も同様に。


冒険者の家族だからこそ、今巷で言われている様な犯罪者予備軍ではないと分かると笑い飛ばしていた。


家族の了承を得て、遂に私達は冒険者免許取得の為にギルドへと向かった。



____ギルドの前で、最近話題の冒険者アンチの一般人に話しかけられた。


「お前、こんな所で、そんな底辺まで落ちたか。ざまあないな!」


その話しかけて来た人物は酒臭く、ボロボロの服で髭も生え放題の浮浪者の様だった。


「何もできないお前にはお似合いじゃないか。それに傷も綺麗に消えて、また俺が拾ってやろうか?香織」


その浮浪者に自分の名前を呼ばれた事にゾッとした。

一緒にいた雫と瑞稀も私と浮浪者の間に立って庇ってくれる。


「なんだあ?テメェら、てめえらも俺を馬鹿にすんのか?」


そう暴言を吐く浮浪者の顔に面影を見つけて衝撃を受けた。


「まさか、克樹さん?」


「ええ?」


瑞稀も驚いている。ギルド職員の彼と似ても似つかなかったから。


「ああ?そうに決まってるだろ。俺が犯罪者から守ってやった恩も忘れたってか?薄情な奴だ。

底辺の犯罪者だった彼氏から助けてやったのに俺の金を食い潰しやがって!

傷が治って綺麗になったならまた俺の元に戻ってこい。

お前より良い女を見つけたと思ったら詐欺野郎だったんだ」


だいぶ酔っている様で言葉からは理性が感じられない。

しかし、その話からわかる事は、女に騙されたから私に戻ってこいと言う事。

それも、傷が治ってたから。

彼と離婚して(わかれて)一年ほど経っているのだから別に彼女ができていても、別れていても、それはこの人の勝手だが、だからと言って、この様な考えの人とやり直そうとは到底思えない。

それに、魔石を吸収してステータスを上げた結果、この人が言っていた事がどれだけうわべだけの言葉で、何でこんな人と結婚までしたのだろうと疑問に思うほどだった。


それほど、私は世間知らずな人間だったのだ。


「なあ、お前が俺の金を使い込んだ事も許してやる。俺の言う事さえ聞いていればいいんだ。簡単だろう?」


「ふざけないで!貴方が私にしてくれた事ってなに?

彼氏(黎人)の事を馬鹿にして自分の自慢話をしていただけ。

当時の世間知らずな私はそれが大人の格好良さだと思って憧れたけど、色々と世間をしって、魔石を吸収して常識を知ってきちんと理解したわ。

ダンジョンを探索した今だから分かる。

黎人が私の為に使ってくれたお金はとても大変な思いをして稼いだお金だった。連れて行ってくれた場所は貴方が自慢げに連れて行った所よりも凄いところだった。そこに連れて行ってくれる為に命をかけてくれていた。

私はこれから誰とも付き合わないし、誰とも結婚しない。

もう彼よりも素晴らしい人なんて現れないだろうから。

だからと言って彼にやり直そうなんて言えるわけがないから」


「な、俺を馬鹿にするな!底辺冒険者が!」


「それに、私が使ったお金だって通帳が一つになってただけで私の貯金で足りるくらいでしょう!それと同じ位貴方も飲みだなんだと出歩いてたじゃない!」


「黙れ!」


私の言葉に逆上した克樹が掴み掛かろうとしてこっちに向かってくる。

それを私は思いっきりビンタして弾き飛ばした。


私のステータスは男性の格闘家より少し高い為、克樹はビンタでも思いきり殴られた様に吹き飛んだ。

相当痛かったのだろう。頬を両手で押さえながら涙を流し、こちらを睨んだ。


「お前、これは犯罪だ!冒険者が一般人に手を出した!誰か、警察を呼んでくれ!」


克樹はそう言って周りにアピールしている。

少し前から騒ぎを見に来た野次馬が居たので、ざわついてきた。


「残念ながら私はまだ冒険者じゃないわ。だからこれは正当防衛よ。これ以上付き纏うなら逆に貴方を警察に訴えるわよ!」


私の怯まない態度に分が悪いと思ったのか克樹はビクリと震えて言い返さなくなった。


「それじゃ、私はこれから1人でも生きていける様に冒険者になるから」


「香織、1人でもなんて寂しい事言わないの」


「だって2人はこれから結婚するかもしれないから」


「それでもよ」


「相澤さん、(あたし)は今、貴方を香織に紹介した事をとても後悔してるよ。貴方の話に影響を受けて周りの人に迷惑かけた事もすごく後悔してる。

反省したからって許される訳じゃないけど、私達はちゃんと悪い事をしたと反省して前に進んでるよ。

何にも成長しない貴方は男としても人としてもとてもかっこ悪いよ。


あ、香織ー、勿論私も一緒だよ?」


そうして、相澤克樹を置いて3人は冒険者ギルドに入って行く。


その光景を、写真に収められていた事には野次馬も含め、誰も気づかなかった。




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