120話それぞれの行動2
楓と翠の二人は、葉一に呼び出され翠の実家まで来ていた。
とは言っても、楓を婿にと決めてから葉一は以前より頻繁に京都に帰って来て、楓に色々と教えている。
今日の様に、椿家で会食をする事も多い。
しかし、今日はいつもと少し違った。
「今日は食事の前に皆に聞いてもらい事がある」
葉一の雰囲気がいつもより固い事に、楓以外の家族も背筋を伸ばした。
「もう知っているかとは思うが、総理大臣が変わって日本は冒険者排斥の方向に進んでいる。
楓くんと翠は勿論のこと、朱音も冒険者を目指しているわけだが、これからの日本は一度、とても住みにくい場所になるだろうと思う」
集まった家族は口を挟まず、真剣に葉一の次の言葉を待った。
「そこで、私は決断しようと思う。
楓くんと翠の師匠である春風さんや、朱音の師匠である菊池さんに手伝ってもらい、家族全員で一旦イギリスに移住しようと思う。
楓くんは将来の夢の為に冒険者と国が上手く行っているイギリスを見てくる事はとても勉強になると思う。
そして、将来の為に私と紅緒もダンジョンに潜って魔石を吸収しようと思うんだ。これまで会社の運営で忙しかったがしばらく休暇にしようと思う。その時は、楓くんと翠、朱音に助けて欲しい。
会社に関しては、春風さんと色々と相談済みだ。
椿家一同はこれから変革が起こる日本で春風さんに付こうと思う」
そう言い切った葉一に紅緒が拍手を送ると話を引き継いだ。
「この人は硬い話し方しかできないのかしらね。つまり、日本がゴタゴタする間少しイギリスでバカンスしましょうって事よ。
貴方達も勉強が全てではない事は理解してるでしょう?だからちょっと学校を休学していらっしゃいな」
紅緒はそうニコニコと告げた。
その後は朱音が初海外に興奮して話し出したり、楓と翠は予想していた様で、もう休学の手続きを済ましている事を報告して、イギリスへ行くまで葉一の仕事を手伝い、社会勉強すると言って驚かせたりした。
勿論、椿家の使用人も一緒にイギリスへ向かう様で明日から慌ただしくなりそうだ。
次の日、翠はある人物とランチをしに1人で出かけた。
楓は葉一を手伝うそうなので今日は別行動だ。
待ち合わせのカフェに着くと、既にある人物は到着していた様だ。
「こっちですわ。土方くんと来ると思っていましたけど1人ですのね」
「うん。楓くんはお父様の手伝いをしてるから」
「はあ。そんな所でも見せつけてくれますのね。まあ、もう慣れましたけど」
そう憎まれ口を言ったのは日野万里鈴だった。
「万里鈴ちゃんも準備は順調に?」
「いきなり話を何個か飛ばして来ますのね」
「まあ、家には朱音がいるしね」
そう。朱音は楓と翠の2人に憧れて冒険者を目指し、菊池玲子に弟子入りしたのだ。
なので万里鈴は朱音の姉弟子と言う事になる。
「私は少し不安ですのよ。ずっと日野として日本の為にと育てられて、縁は切られても日本を見捨てるのかと思うとどうしても不安になる…」
「なんだ。そんな事か」
「貴方、そんな事って…」
あっけらかんと笑う翠に万里鈴は見放された様な寂しさを覚えた。
「だって私達は日本を見捨てて出ていくわけじゃないもの」
「え?」
「玲子さんはまだ詳しく話してないんだね。朱音も知らなそうだったし。
それはね、────」
師匠達の計画を楽しそうに話す翠の言葉に万里鈴はとても驚いたようだ。
ランチが終わった頃には万里鈴の迷いは無くなり、イギリスに行くのが楽しみになっていたとか。