117話意見の大きさ
その日、大浦は道場にて師範代と話をしていた。
「師範代、ニュース見ました?政権交代。
ネットでも話題っすよね。野蛮な冒険者に頼らない脱冒険者。やっぱ新しく選ばれた総理大臣は今までと違いますよね。この前の奴らもいいきみですよ」
そう話題を振った大浦に師範代の中村は困った顔を向けた。
「あまりニュースで判断しすぎない方がいいぞ」
「でも、冒険者ですよ?SNSでも犯罪者集団って話題ですし、他の門下生もムカついてるやつは多いですよ。剣術を馬鹿にしたって」
「大浦、お前は剣術と比べて剣道はどう思う?」
「え?急ですね。剣道なんて遊びでしょ。下半身への攻撃をしないとか、わざわざ攻撃する場所を叫ぶとか意味分からんっすよね」
「俺はそうは思わないぞ、大浦。
剣術をベースにスポーツとしてしっかりとルール化されていて、じゃんけんの様に相手の心理をついて戦う素晴らしいスポーツだ。
対して俺らがやっている剣術は元々人を殺す為に出来た物だ。用途が全く違う。
そしてこの前の彼ら冒険者は人ではなく魔物と戦う。それなら彼らが必要なのは剣術ではなく、他の戦い方だろう」
「でも結局は冒険者でしょ?
犯罪者予備軍だってみんな言ってますよ」
「冒険者と一括りにしてしまうのは良く無いと思うぞ。
だとしたら人殺しの為の剣術を習う俺達はみんな人殺しか?違うだろう?
冒険者の中には力を付けたが故に犯罪に手を染めてしまう人もいて、それが話題になりやすいだけで、一般人だって犯罪者になる人も居る。
冒険者で括るのではなく、個人としてはどう言った人かが重要なんだ。
少なくともこの前の冒険者は剣術を馬鹿にするのではなく、ここに来て、俺達の剣術を見た上で自分達とは方向性が違うと判断したんだ。
お前が誘ったんだろう?
ただ馬鹿にしてるだけならここに来ていないさ」
「なんでそんな冒険者の肩もつんすか?」
「そう言う事じゃない。肩を持つ持たないの話じゃないんだ」
この話は平行線を辿り、交わる事はないだろう。
犯罪を犯した人が見ていたアニメや漫画が暴力的表現があったからと言って、そのアニメや漫画を見ている人全員が犯罪者予備軍ではないように。
どこかのコックやガンマンがタバコを吸っているからと言って皆がタバコを吸い出す訳ではない様に。
確かにそれに憧れて行動に移してしまう人もいるだろう。
だからと言って漫画やアニメなどを見せなければ未然に防げると言うものではなく、見せた上で、いけない事はいけないと注意、学習させてあげる事が大事なのだ。この師範代の様に。
師範代の優しい説得のおかげで、大浦も一旦は納得した様だ。
不満も、ありそうだが、自分の信頼する師範代からの言葉に納得する所もあるから。
しかし、世の中には正しい道を説いてくれる人もいれば、間違った事を話す人間もいる。
時にそれは数という力で正当化される事もあるのだ。
その日の夜、大浦は風呂上がりにスマホを触っていた。
SNSアプリを見ていれば時間などすぐに過ぎていく。
その中では、冒険者を問題視するコメントが多く表示されていた。
昔から怖いと思っていた。
俺は冒険者が犯罪を犯すのを見た事がある。
冒険者に虐められていた。
どうせ冒険者なんて底辺の仕事。
底辺なんだから今更?
などなど、ネガティブな発言が多く発信されていた。
中には何故冒険者が犯罪者予備軍なのか解説と自身の記事に呼び込む物や、冒険者に襲われた時の対処法などを書いた記事まである。
勿論、冒険者を擁護する記事やコメントもあるのだが、そんなコメントは反論意見に埋め尽くされ、陰に隠れてしまっている。
「ほら、やっぱりみんなそう思ってんじゃん」
師範代の説明に一度は納得した物の、不満を持っていた大浦は、記事を読み進め、師範代の様な意見が周りから反論を受けているのを楽しく読み進めて行った。
いろいろな記事を見ていくうちに、たどり着いたのは、脱冒険者を推進する団体のページで、そこには、冒険者を日本から追い出す為に各地でデモを起こす日時が書き記されていた。
その中には、岡山でのデモも予定されていた。
「これ、明日じゃん」
この頃には大浦の中で、師範代の言葉はネットの意見にかき消されていた。
そして、自分と同じ様に冒険者に不満を持つ門下生に声をかける為にスマホを操作するのだった。




