107話移動中
黎人とエヴァはエヴァたっての希望からとある目的地に向けて移動していた。
ちなみにエヴァと合流した空港は関西国際空港。そして向かうのは岡山県。
岡山まで移動する間にエヴァの事について少し話そう。
エヴァはイギリスの王族な訳だが、イギリス王室にはダンジョンができた後からできたある決まり事がある。
それは王族は16歳になったらダンジョンへ潜り、ステータスを上げること。
言ってしまえばこれは今や各国のスタンダードなのだが、イギリス王室の場合は更に力を入れていると言う事。
例えば、今のイギリスのトップはエヴァの祖父であるカールであり、世界ギルドイギリス支部のギルドマスターはその妹であるエリザベートだ。
これはイギリス国民の王族を敬う国民性を生かしてイギリスのギルドを管理する為であり、同時に王族とギルドのトップが対等である為にギルドと国が意見し合える関係を持つ為でもある。
勿論、ギルドマスターが国によりすぎない様にサブマスターは違う国の人物が選ばれ、そしてイギリス王室から次期マスターがギルドマスター補佐として勉強する。
その為にイギリスの王族は冒険者でAやSのランクになる事を求められ、その為に16歳から師を付けて上を目指す。
それだけイギリスでは高位冒険者はステータスであるとも言える。
ちなみに、冒険者が早くから受け入れられた国にはある特徴がある。
それは、日本のアニメ、ジャパニーズ・アニメーションが受け入れられていた国である。
その文化を受け入れていた国はアニメと同じ様にその変化を受け入れ、それを馬鹿にしていた国は変化を拒否したのだ。
勿論これは国単位の話なので、過去の世の中アニメ好き達が主人公を志した時期があるのは否定しない。
閑話休題
エヴァが16の誕生日を迎えてこうして日本へやって来たのはイギリス王室の習わしと言う事もあるが、来日を希望したのは日本、そして黎人への憧れだ。
数年前、イギリスに招かれた黎人の事をエヴァは嫌っていた。
ダンジョン後進国の人間に何が出来るのかと。
それは当時座学でダンジョン歴を習い、教科書だけの知識で考えたエヴァには当然の考えだった。
アメリカやドイツから応援を呼んだ方が絶対にいいに決まっている。そう思っていた。
階級進化を起こしたダンジョンから帰還した冒険者達の冒険者免許に記録されていた映像を王室は確認して状況を把握しなければいけなかった。
後学の為にとエヴァの姉や兄は父や母と同じようにその悲惨な映像を確認していた。
エヴァはまだ幼いからと免除されていたのだが、姉達に憧れていたエヴァは同じように映像を見る事を求めた。
結果はトラウマになりそうな物ばかりで、何度もバケツを汚したが、それは姉達も同じだった。
しかし、これが国を守る王族の責務であり、そこで共に戦えない幼い自分を恨んだ。
そこに派遣されたのが日本の、それも姉と変わらぬ年齢の冒険者。
エヴァは日本に馬鹿にされたのだと思い、日本を、そして黎人を嫌悪した。
しかし、次に見た冒険者免許の映像はそれを裏切った物になった。
その冒険者免許の持ち主はエヴァの叔父の物だった。
目の前で、魔物にやられそうになっているのは自分の大叔母だった。
叔父の、声にならない悲鳴が流れる。
大叔母はもう…。
そう思って目を逸らしかけたその時、大叔母と魔物の間に割って入った冒険者が魔物を殴り飛ばした。
その冒険者こそが黎人であり、今まで絶望的だった状況を1人でひっくり返したのだ。
そこからは一方的な物で、イギリスの冒険者では敵わなかった階級進化の魔物を黎人1人で倒し、ダンジョンから溢れようとする魔物を沈めてしまった。
それから、エヴァの黎人への思いは180度かわって憧れとなる。
そして、黎人が生まれた日本に興味を持ち、今はリアルとなって廃れてしまったダンジョンができる前の日本のファンタジーにハマり、当時の外国人の様に日本に憧れ、そして今回の来日へと至る。
黎人と気安い仲なのは、黎人が帰国する迄の間、黎人の部屋に入り浸って日本の話を聞くうちにこの様な仲になったからだ。
行動力があるのは今も昔も変わっていない。
そうこうしているうちにエヴァの希望の場所、岡山県に入った。
岡山に来たのはエヴァの武器の為。
憧れの、日本の刀。
日本刀を手にする為に。
日本刀の聖地はもうすぐである。