103話楓と翠の《歩く道》
あの日、あの人に会わなければ僕の人生は全く違った物になっていただろう。
赤とんぼが飛び始めた今日この頃、僕は彼女の翠と共に大学の帰りにダンジョンへ向かっている。
あの人、師匠にGクラスダンジョン卒業を言われて1ヶ月が過ぎようかとしている。
師匠はだいぶ過保護だった様で、自分達なりに安全を考慮しながらダンジョンに潜りだしてすぐにEランク昇格の案内を受付でされ驚いたのも記憶に新しい。
最近翠が魔法を使える様になって、一歩先を行かれてるようで彼氏として不甲斐ないとは思うのだが、焦りは禁物だと言う事はしっかり心に刻んでいる。
師匠の教えを守っていれば、僕もいつかは使えるようになるだろうと長い目で見ている。
いや、勉強している参考書を増やしているのは翠にも内緒である。
と言っても、翠にバレていそうではあるが。
何と言っても、あの日、翠の家に挨拶に行った後直ぐに、お義父さんの勧めるがままに翠と同棲を始めたのだ。
だから僕が1人の時間に勉強している内容も翠なら把握していそうではあるのだ。
不思議な気持ちではある。
憧れの女性とバディになって、お付き合いをして許婚になった。
空っぽで、何の目標も無く大学に通い、師匠に師事する時でさえ将来の為になるならと言った曖昧な理由だった僕も、冒険者としてちゃんと活動して、魔石を効率的に吸収したおかげかきちんと将来を考える様になって目標を見つけた。
一つは勿論翠を幸せにする事。
これは正解がある様でないのだが、一生の目標だと思う。
後は冒険者の地位向上。
今の日本では冒険者と言うだけで世間の目は冷たい。
自分は冒険者として活動して人として成長して今の自分があるのだし、海外の様に冒険者にならなくても魔石を吸収して社会全体の成長を促す事もできると思う。
その為にお義父さんにお願いして将来的に冒険者に関わる部署を立ち上げさせてもらう約束もしている。
その為にお義父さんの会社の関連会社に下積みとして入社も決まっている。
そう思って師匠から弟子卒業のお祝いに貰ったブレスレットを見て、今日も意気込んだ。
これはもうダンジョンへ入る前のルーティンになっているのだから。
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私達は今、Eクラスダンジョンへ向かって歩いている。
師匠から弟子卒業を言い渡され、冒険者として自立してからも大学後は楓くんとダンジョンへ行くのが日課である。
2人の目標は大きいから、まだまだ魔石を吸収してステータスを伸ばそうと2人で決めた。
そういえば、あの日、お父さんに楓君との仲を認めてもらった後。
楓君は帰り道にキチンと私だけに私の為の言葉をくれた。
これは、恥ずかしいのもあるけど、私だけの大切な言葉だから誰にも内緒だ。
付き合ってから許婚になるまで1週間くらいと早かったが、同棲生活は順調で、毎日2人で台所に立つのも楽しみの一つだ。
お父様が張り切って家を用意したものだから、何故か一軒家で掃除も大変なのだが、2人ですればまあ何とかなる。
あ、一回だけ喧嘩をした事がある。
そう、玉子焼きの味付けについてだ。
楓君が卵に砂糖を入れた時は驚いた。
そのまま出汁を入れずに醤油と旨味調味料。
出来上がったのは醤油と砂糖のおかげで少し焦げた玉子焼き。
まあ、食べてみれば美味しくて、今日のお弁当にも入っていた私の好物の一つになった訳だが、口に入れる迄は私の固定観念と食わず嫌いで喧嘩になってしまった。
師匠に師事した時もそうだったが、私は固定観念で決めつけてしまいがちなところがある。
楓君と過ごして、マシにはなってきていると思うが、これからも気をつけようと思う事の一つだ。
ちなみに、玉子焼きは、お弁当を作る人によってだし巻きか砂糖か違うから日替わりで二度美味しいと言った感じで落ち着いている。
私の玉子焼きも美味しいって食べてくれるんだからね?
ふと左を歩く楓君を見ると、楓君はまたブレスレットを見ている。
私も左手首につけたブレスレットを見る。
これは、師匠が卒業記念と私達の未来を思ってプレゼントしてくれたお揃いのブレスレットだ。
このブレスレットは他の弟子と違って私達2人専用だそう。
1対になっていて私の左手と楓君の右手を合わせる事で一つの形になる特注品だ。
《twilight.M》の特注品。
インナースーツの例があるから値段なんて考えない様にしているが、楓君はこれに見劣りしない指輪を用意するって頑張ってくれている。
楓君がくれるならそれだけで嬉しいんだけどね。
キラリと光る緑の宝石が付いたブレスレットを楓君の物と対になる様に合わせて手を繋ぐ。
楓君がこちらを見てくるので何も言わずにニッコリと微笑んだ。
私の目標も楓君と同じだ。
私と楓君の縁を繋いでくれた冒険者をもっと皆んなに知ってもらいたい。
みんなが思う様な人達ばかりじゃない素晴らしい人達が沢山いると知ってもらいたい。
だから私達は2人で、2人の道をこれからも進んでいく。
第三章完
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