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『11月15日2巻発売!』願ってもない追放後からのスローライフ?  作者: シュガースプーン。
第三章三番弟子は冒険者

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99話実力の差

和馬と孝久の脱獄から1週間ほどがたった。


ここまで2人が逃げ切れているのは偶然が重なったと言える。

一つは警察の動き。脱獄の事は世間に伏せられ秘密裏に動いている為後手に回っている事。

そしてその捜索の為の人員も冒険者の抗争に対応する為人数を割けない。まあ脱獄の事自体外に漏れない様に一部の警察官にしか知らされていないのでそこはあまり関係ないのかも知れないが。


ちなみに、この冒険者同士の抗争の話が長引いているのにも原因がある。

服部達夕暮れ塾を受講生達が闇討ちした事件から始まったこの話題は服部達が被害にあって終わりかと思われた。


しかしそこで終わらなかったのは和馬と孝久の仕業だった。


脱獄した2人は人気のない所で一般人を襲って金を手に入れようとしたのだが、襲ったのがたまたま自分達と同じ低ランクの冒険者だった。

この冒険者は黎人が教えている様にギルド内で魔石を吸収するのでは無く、黎人の父の様に家に帰ってから吸収するタイプの冒険者だった様だ。

そこで金銭と共に魔石まで手に入れた和馬と孝久はそこで味をしめ、この1週間ギルドから出てくる冒険者を何回か闇討ちして魔石を集めて復讐の為にステータスを上げようと目論んだのだ。

力をつければ女の翠位は簡単に抑え込めると言った浅はかな考えと、冒険者の闇討ちが今まで上手くいった結果、世間的には冒険者の抗争が続く危険な状況が続いていると言った風になっている。


ここまで行動すれば警察に捕まるかと思わなくもないが、抗争を担当している警察官も一般人な為、冒険者の抗争に介入して止めるのでは無く、一般市民に被害が出ない様に避難誘導などが主で、冒険者同士の抗争を見つけても終わってからやられた方の介助と言う警察と言うよりは警備会社の様な行動をしている為に捕まらないのである。


和馬と孝久はこの1週間のステータスアップで襲う冒険者を簡単に闇討ちできる様に力が上がったのを実感して、遂に復讐の為に動く事を決めた。


夕方になり、2人が拠点にしていた郊外の主人のいなくなった民家の納屋から、孝久が知っている翠の家へと移動する。


作戦としては1人帰宅した翠を背後から襲い、翠の部屋で無茶苦茶に犯した後、楓を呼び出して翠を人質に楓をボコボコにして目の前で翠を犯して精神的にも壊す。

その後、志歩の家に乗り込んで志歩も…。

と言った具合だ。


物陰に潜んで翠の帰宅を待つ2人だったが、2人の予想外の出来事が起こる。


1人で帰宅すると思っていた翠が楓と連れ立って帰って来たのだ。

その光景を見た孝久は今にも飛び出しそうだったが、和馬が腕を引っ張って止めた。

しかし、予定とは違う物の、今のステータスの上がった自分達ならば闇討ちすれば2人だろうと何とかなると言った根拠のない自信と、楓の前で翠を犯すにしても守れなかったと言う事実があれば、復讐はもっと楽しい事になるだろうと言った考えから2人はこの状況で、2人同時に襲う事を決めた。





楓は、背後からの気配を感じて隣にいた翠の肩を抱き寄せて庇う様にして後を振り向いた。

その動きはダンジョンから帰って来た所だったからこそ起こった直感的な行動だったかも知れない。


たけどそのおかげで、背後から攻撃を仕掛ける2人の人物に気づく事ができた。


瞬間的に判断した楓は自分に攻撃してきた方の持っていた木の棒を受け止めると、そのまま力に任せて引っ張り、翠に攻撃をしようとしていた為に一歩遅れた攻撃をその棒で受け止めた。


受け止めたのと同時に見た襲撃者の顔は、驚いた顔をした和馬と孝久の顔だった。


何故2人がここに居るのか疑問に思い顔を顰めた楓だったが、その考え事をしている間に2人は背後に飛んで距離を取った。


「てめえ!手を離しやがれ!」


そう叫ぶ孝久の言葉は何を言っているのか分からなかったが、腕の中から「土方くん、少し苦しいです」と翠の声が聞こえて、咄嗟の行動とは言え翠を抱き寄せたと言う状況を理解した。

しかも必要以上に力強く。


翠から手を離すと翠は「ありがとうございました」と言って少し離れた。


そのやりとりを見て逆上した孝久の言葉は止まらない。


「なんでお前がここに居やがる!調子に乗ってんじゃねえぞ!翠から離れろ!」


その孝久の言葉にそれはこっちのセリフだと思いながら、何も答えずに先程奪い取った木の棒を構えた。


「なんで、お前が翠と一緒に帰ってんだ!

俺でも送るって言ったら断られたのに!」


なら、なんでお前は翠の家を知っているんだ。

そうツッコミたくなったが孝久の言葉は続く。


「陰キャのクセに目障りなんだよ!なんでお前なんだ!俺の方がお似合いだろう!俺の方が、俺の方が!」


孝久の身勝手な叫びは続くが、そこに口を挟んだのは翠だった。


「こんな事をしでかす様な人を避けるのは当然でしょう。女性として恐怖を感じます。陽キャだとか陰キャだとか、関係ないんですよ。

私は土方君の方が信頼できますし、土方君なら一緒に居たいと思います。これからもずっと、ね、《《楓くん》》」


そう言って楓を見てニッコリと笑う翠を見て、楓は男を見せなければいけないと思った。

ここが勝負の場所なのだと気合いを入れた。


「勿論、僕はこれからもずっと《《翠》》を守り続けるし、《《私生活でも支え続けるよ》》」


それを聞いた翠も後半の意味を理解して顔が赤く染まる。


その言葉を聞いた孝久は絶句してわなわなと震えるが、和馬は安い三文芝居を見せられた様につまらなそうだ。


「そんなお前らはこれから俺らに無茶苦茶にされるんだけどな、おら、行くぞ孝久!」


和馬の呼びかけと同時に孝久と2人で襲いかかるが、この1週間、多少ステータスが上がろうが数ヶ月鍛えられた楓と翠に敵うはずもなかった。


翠が前に出て向かってくる孝久の手首を掴み、捻りながら攻撃を逸らすと同時に孝久の顎を掌底で撃ち抜き、脳を揺らした。


楓は翠にできた隙をカバーする様に和馬の攻撃を掴むと、その攻撃の力を利用する様に肩を使って放り投げた。

受け身も取れずに地面に打ち付けられた和馬は肺から一気に空気が抜ける程の衝撃を受けた。


「もう私達の前に姿を見せないでくださいね、迷惑ですから」


この言葉が孝久に聞こえたかどうかは分からないが、翠ははっきりと拒絶の言葉を口にした。

以前にも言った気はするが、もう一度口にした。


その後、あれだけ孝久が喚いた事もあって、近隣の目撃者が警察に通報しており、和馬と孝久は警察に引き渡された。

この事で、2人が脱獄していた事が知らされていなかった警察官にも知れ渡り、一悶着あるのだがそれはまた別の話。


2人を引き渡して警察への事情説明も終わった後、楓は翠を家まで送った事で別れの時間となる。


「土方君、さっきの話は本当でしょうか?」


先に質問をしたのは翠だった。

勿論、楓も有耶無耶にしてはいけないと思っていたが、先を越されてしまった。


「も、勿論本当だよ。僕はこれからも椿さんを支えていきたいと思ってる。だ、だから、僕とお付き合いをしてくれませんか?」


「はい、よろしくお願いします」


楓の告白からは緊張が伝わってきて笑いそうになったが、翠はニコリと笑って端的にそう答えた。そして、言葉を続ける。


「さっきみたいに名前で呼んでください。楓くん」


「翠さん…」


「さっきは呼び捨てでしたよ?」


「翠」


この調子だと翠の尻に敷かれそうな気もするが、幸せならそれはそれで良いと思う。


奥手な2人はここでドラマの様にキスするでもなく、せっかくなのでこの後食事に出かける事になった。


並んで歩く2人の様子はいつもと違い、どちらともなく手を繋いでいた。

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