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97話薬

土御門の家に来客があった。

日野に仲介してもらって五行の復讐の為に家に招き入れたのだ。


当主の土御門晴留は早くに妻を亡くしたが故に息子の五行をそれはそれは可愛がって育てた。

可愛がり、何もかも与えたせいで我儘な性格に育ってしまったが、それはそれで可愛いと思っている。

そんな大切な息子が冒険者共に深刻な怪我を負わされた。

それを咎めようにも、ギルドと警察からは相手方の行為は少々行き過ぎてはいるが正当防衛で事件性は無く、けしかけた五行の方が脅迫罪に当たり、罰金を支払わなければ懲役数年になると言われてしまった。

なので、息子の為にと端金を払ったが、冒険者共を懲らしめてやらねば腹の虫は治らなかった。


裏稼業の奴らもお茶会だのなんだのと名前を聞いた途端に手を引きやがった。


結局、頼れるのは昔からの家の繋がりだった。

日野家は特に冒険者を嫌っていて、日本を乗っ取る簒奪者扱いしている。

個人的には上手く使ってやるのがいいと思うのだが、まあ今回は力を借りる訳だし日野家の思想を肯定しようではないか。



そうしてやって来たのは黒服の胡散臭そうな2人組だった。


「いやぁ、ご紹介に預かりました赤坂です。こっちは田沼」


「アニキ、また名前が変わってますぜ」


「ん?田中に鈴木だったか?まあいいじゃぁないか」


「そんな事はどうでもいい!本当にアイツらをめちゃくちゃにできる力が手に入るんだろうな?」


黒服がごちゃごちゃ言っているのにイライラした五行はベッドに腰掛けたまま癇癪を起こして叫んだ。


傷はだいぶマシになり、痛みも引いた様だが、まだ手足の包帯は取れていないし、麻痺が残っている様で1日の大半を自室で過ごしている。


「おやおや、そんなに急かさなくとも大丈夫ですよ。

今からお出しするのは冒険者(ばけもの)から世界を救う為に人間を進化させる為の魔法の薬です。まあ、試験薬ではありますのでまだ実験中の所もありますが。なので、安全性は完璧だと言えたわけでは____________」


「五月蝿い。長々と、俺の体をこんなにしたアイツらを許せる訳がない!よこせ!」


黒服の説明の話半ばに五行は薬を要求した。

晴留が「本当に大丈夫なのか?」と心配するが、こうなった五行は言う事を聞かない。


黒服の男はため息を吐いて説明を止めると、持って来たジェラルミンケースの中からアンプルとそれをセットするであろう注射針のついた銃型の器具を取り出してアンプルを器具にセットした。


「こちらを首にプスリとすれば使用できます。何度も言いますが、注意して____________」


「よこせ!」


五行はまたもや話の途中で奪い取ると、話も聞かずに器具を首に当てて引き金を引いた。


その途端五行の体はびくりと震え、カクンと意識が途切れた様に首から力が抜け、持っていた器具も地面に落とした。


「だ、大丈夫なんだろうな?」


晴留の質問に黒服はニコリと笑いながら「さあ」と返した。


「さあとはどう言う事だ!」


「言ったじゃありませんか。試験薬だって。

それに、危険性の説明も聞かずに使ったのはご子息ですよお」


その言葉に震えながら晴留は五行に近づくと「大丈夫か、五行!」と肩を揺さぶった。


すると五行はガクガクと震え始めて、下がっていた頭はそれにつれて上に上がり、大きくビクンと震えたかと思うと海老反りに上を向いた。


「こ、五行?」


心配の声をかける晴留に五行はガクンと音が聞こえそうなスピードで顔を向けると、その瞳は焦点がグラグラと揺れて、涙の様に瞳から血が吹き出していた。

そして、麻痺して動き辛かったはずの手を素早く動かし、目の前の晴留の首を両手で掴むと人なのか獣なのか分からないうめき声を上げながら立ち上がった。


力の入った息子の手に首が絞まって息ができない晴留は必死になって五行の腕を叩くが、その腕の力は増していくばかりだった。

そしてついに力が人の力を振り切り、ゴギッと嫌な音を立てたと同時に晴留の体から全ての力が抜けて地面に汚い水溜りを作った。


五行はそれを焦点の合わない瞳で見つめながら、化け物の様な雄叫びをあげると同時に全身の皮膚が裂け、筋繊維が千切れて部屋中に血飛沫が飛び散った。


そしてそれが断末魔だとでも言う様に腕から力が抜け、晴留を地面に落とすと、血に染まったベッドに後ろ向きに倒れ込んだ。



それを正面からがたいの良さに似合わない素早さで前に出て大きな傘をひろげて血飛沫をかわした黒服達はゴミを見る様な目で見ていた。


「ありがとうございます」


そう言って傘で自分を守った男に黒服は礼を言った。

「うす。アニキ」と返事が返ってくると満足そうに頷き、しかし。と話を続ける。


「しかし、体が耐えられずに死んでしまいましたか。やはり、核として魔石を埋め込まないといけないんでしょうかね?

でもそれだと魔物に近い物に変わってしまったようですし、この辺りはドクターに報告でしょうかねえ」


血で染まった部屋の中、黒服はそう言って笑った。


「それで、これはどうしますか?」


「日野に処理させれば大丈夫でしょう。連絡しておいてください。

あれも、古き日本を盲信する道化ですからねえ。

ククク、人を騙す時は信じる物に縋らせるのが1番です。宗教と一緒だ。

盲信すればこそ、目的の為ならば些細な事は気にしない。

自分の理想を創る為の薬が自分の嫌っている冒険者(ばけもの)の力と同じ魔石が材料になってると気づいた時はどんな顔をしてくれるでしょうねえ。

まあ人が神に近づくにはその位のスパイスは必要と言う事です」


クククと笑いながら黒服は堂々と玄関から家を出て行った。


しかし、この出来事はメディアに出る事も無く、この日の夜に起こった火事により使用人もろとも土御門家は潰えた。


普通の火事のニュースだけが小さく取り上げられたが、他のニュースに埋もれてそれさえも人々の話題には上がらなかったとか。



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