表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

即興短編

屋根裏から見えた楽園

 僕は息を潜めて外を見た。

 白い砂浜を越えて、鮮やかな色の海がどこまでも広がっている。

 太陽はあかるく声をあげて笑うように眩しかった。

 縦縞模様たてじまもようの魚たちが波の下に泳いでいるのが見えたような気がした。



 飛び出していきたい。


 この薄暗い屋根裏から、あそこへ飛び出していきたい!



 そう思うのはいけないことだった。

 僕は太陽に触れると焼けて消えてしまうんだ。だから母さんが僕を屋根裏に閉じ込めていたんだ。

 それは母さんの愛だから、それに背いちゃいけない。

 僕は必死で我慢した。



 でも不思議なことを思わない自分が不思議だ。

 こんなにも汚れたものしかないはずの町にある僕の家から、なぜあんなにも綺麗な海が見えるんだろう?

 誰もいない海だ。まるで誰も知らない楽園のように。



 犬が駆けていった。

 僕はあの犬を知っている。

 3年前に熱射病で天国へ行った、ビーグル犬のスミスだった。

 彼は楽しそうに白い砂浜を蹴り、僕のほうを振り向いた。

 尻尾を振って僕を呼ぶ。ワン! ワン!

 なんて楽しそうな声を出すんだろう。

 僕は思わずコウモリの羽根を広げ、あそこへ飛び出していこうとした。



 母さんが家を飛び出していくつむじが見えた。

 母さんは犬に追いつくと、その首をはね、二つに分かれたそれを、それぞれの手に抱き上げた。するとそれは途端に腐肉の正体を現す。

 母さんがくるりと振り返り、僕を見上げる。

 白く膿んだ目が僕を見つめた。赤く歪んだ唇が無言で僕をたしなめる。

 コウモリのような黒いマントが、母さんを太陽からまもっている。

 太陽は霞がかかるように曇っていて、背景は確かに薄汚れて無機質な、町だった。




 僕は膝をつき、諦めるしかなかった。

 僕にはもう、明るいあそこへ飛び出していって元気いっぱいに走り回ることはできないんだ。

 すべてを諦めて、この屋根裏で、太陽の光から自分を守り続けるしかないんだろうか?

 いや、違う。僕には夜があった。


 夜になれば、静かに揺れる黒い海辺に立つことができる。

 うっかり遊びに出てきてしまった可愛い女の子を餌食にして遊ぶこともできる。

 世界は僕のものになる。

 それは果たして楽園と呼べるものなのかはわからないけど。



 でもこの屋根裏よりは美しい。



 早く夜にならないかな。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] これは・・・やべ~~。(いい作品で鳥肌が立つ) 軽く読んだら童話ぽくて感想で童話でもイケるのでは? 等と書き込もうとして違和感を感じジャンルを確認したら更に違和感を感じたんですよ。 …
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ