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訓練

「のどかだねー」


「そうだね、長閑だね」


 広い草原の真ん中にシートを敷いて、ラフィーとモルタニアはそこに座っていた。


 温かな日差しと心地よい風が吹くこの場所はピクニックをするには絶好の場所だった。


「あれが無ければね……」


「そうだね」


 鳥がさえずる声に混ざって、木剣同士がぶつかる音が響く


 時折、力を籠める音も聞こえてきた。


二人が視線を向けた先にはレイゼンとマルセルが飛び回るように剣をぶつけ合っていた。


「ほらほら、切り返しが遅くなってるぞ!」


 マルセルは木剣を両手で持ち、ついていくのがやっとであるのに対し、レイゼンは片手で軽々と剣をはじく。


 汗の一つもかいていない。


 マルセルの剣術は決して低いわけではない。


 魔法の使えないマルセルにとって、剣術は他の人と肩を並べることのできる唯一のものだったからだ。


 学校で1、2番の剣の腕前だったマルセルではあるが、学校で習得できる剣術はせいぜい初級程度。


 それ以上の技術を学ぶのは、騎士の仕事に就くか、剣での戦いをスタイルとする者ぐらいである。


 上級になるほど魔法も織り込んだ剣術が増えてくるため、純粋な剣術のみで高みを目指すマルセルにはいばらの道であった。


 しかし、パーティーで足手まといにならない方法はこれぐらいしか思いつくものがなかった。


 「ハアッ!!」


 マルセルの渾身の一振りにレイゼンは一瞬反応を遅らせたが、次の攻撃は簡単に受け止める。


 その後レイゼンは1歩、2歩と間合いを詰めてくる。


 その圧にマルセルは後ずさりすると、脚をもつれさせ、尻もちをついた。


「いてっ」


「よーし終わり、なかなかよかったぞ。学校では強いんじゃないか?」


 レイゼンは剣を肩に担ぎマルセルに尋ねる。


「はぁ、まあ、これしかないので」


 マルセルは地面に寝そべり息を整えた。


「今日はそんなに細かいことは教えなかったが、あしたからちゃんと教えるからな」


「ありがとうございます!」


 これほど実力のある人に指南してもらえるなんて、とても幸せなことだ。


 立ち上がろうとしたとき、手に鈍い痛みを感じた。


 手の平を見てみると、数か所マメが潰れて皮がめくれていた。


「あ、マメができたのか。いてえからラフィーに治してもらいな」


 レイゼンに促され、マルセルはラフィーたちの居るところへ向かった。


「ラフィーさん、これ治していただけませんか?」


「うわぁ、痛そう。そんな手でよく剣を振ってたわね」


 怪我の様子を見たラフィーは半分呆れているようだった。


 普段から剣を振っていればこんなことにはならないのだが、学校以外で剣は振らないのでこの有り様だ。


 ラフィーの前に手を差し出す。


 ラフィーはその上に手をかざして治癒の魔法をかけた。


 水属性の青い光がホウと手を覆う。


 このまま待てば傷が治って、治って……いかない。


「……あれ、何で?」


 ラフィーは眉間にしわを寄せて治癒を続ける。


「ラフィー、もしかして魔法の腕落ちたかー?」


 遅れてやってきたレイゼンが茶化した。


「うっさい!そんなわけないでしょ。でもなんでだろう」


「マルセルの体質と関係あるんじゃないかな?ほら、欠けたお皿に治癒魔法かけても直らないのと同じで」


 ギルドで生物じゃないと言われたことからの考察なのだろうが、


―――欠けたお皿と一緒にされちゃったかあ。


「そうなの、マルセル?」


「いや俺も魔法で治癒してもらうの初めてで、こんなことになって驚いてます」


 つい最近この体について驚くことはさほどないと思ったばかりだったが、まだあった。


 しかも割とデメリットの方で。


「治癒が効かないのはちょっと痛いな」


「陣形は考え直した方がいいね」


 モルタニアはそう言いながら持っていた書物に何かを書き込んだ。


 いよいよ最強のカバン持ちが現実味を帯びてきてしまった。


 早く上達しなければとマルセルは思った。


「ごめんねぇ、力不足で……」


 ラフィーはしょぼんと下を向いた。


「そんな、ラフィーさんが謝ることは何もありませんよ」


 マルセルは慌ててそれを否定する。


「じゃあ応急処置だけでもしとこうか」


 モルタニアは荷物の中から包帯と固定用のテープを取り出した。


「持って来てたんですね」


「どこでも治癒魔法が受けられるとは限らないからね、いつも持ち歩いているよ」


「マメな方ですね」


 マルセルは感心する。


「あ、いま手のマメとかけたよな!」


 ニコニコしながらレイゼンが話に入ってくる。


「ちがっ、たまたまですよ」


「マルセル、こういうのはほっといていいからね」


 ラフィーはスパンと言い放った。


「手だして」


 モルタニアに言われ、マルセルは手を差し出す。


 モルタニアは右手に包帯を持ち左手でマルセルの手を支えた。


 その手が柔らかくてマルセルは思わず身を固める。


「痛くしないから」


「はい……」


 笑うモルタニアにされるがまま処置を受けた。

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