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いざダンジョンへ

 物事には順番があって、人生はおおよそ誰でもその通りに進んでいく。

 

 だけど俺はいくつかの過程をすっ飛ばしていたようで、誰かと足並みを揃えようとした時にスムーズに行かないことがよくある。


「え、ギルドに登録してないの?」


 レイゼン隊に正式に入ったことを証明するためにマルセルはモルタニアと共に街のギルドへと向かっていた。


「はい……。こんな体なので」


 中等学位法校に入学した者はギルドへ自分を登録するというのが文化として根付いている。


 しかし自分はこんな体のため、最も基本的な情報である属性に関する事柄を検査することが出来なかった。


 これがないとギルドへの登録ができないというのだから、入りたくても入れないわけだ。


「その検査を受けたのっていつ?」


 モルタニアはマルセルに尋ねる。


「えっと、6年前ですかね」


「それなら検査の方式が今は変わってるからもう一度受けてみたらどうかな?」


「え、新しく開発されたんですか?」


「誰かの特異能力の術式から作ったらしいよ。なんでも触れた対象のステータスを見ることができるみたい」


「へえ、随分と便利な能力ですね」


「もしかしたらマルセルについて新しいことが分かるかもしれないね」


 モルタニアは何故か嬉しそうに隣を歩いていた。




 木の扉を押すと付けられたベルが心地よく響いた。


 中は意外と賑わっており、それぞれ会話を楽しんでいるようだ。


「あら、モナちゃん。こんにちは」


 カウンターの向こうでギルドのスタッフとして働いていた女性がモルタニアに声をかけた。


 茶色の長い髪を緩やかに伸ばし、随分とグラマラスな印象だ。


「こんにちは、ルータさん」


「そっちの男の子はボーイフレンドかしら?」


 目を合わせられ、マルセルは一瞬ドキッとしてしまう。


「この人は私の実験た……。違った。レイゼン隊の新しいメンバーのマルセルだよ」


―――なんか凄いこと言いかけなかった!?


「それはおめでたいわね」


「まだギルドに登録してないから、検査をお願いしたいの」


「おーけー。準備するから少し待って」


 そう言ってルータはカウンターのバックヤードへ消えていった。


「あの、モナさん。実験って?」


「マルセルは他の人と違う体質みたいだから、検査が終わったら私にも色々調べさせてね」


 どうやらモルタニアにとって自分は観察の対象であるようだ。


 この探究心がもたらした莫大な知識量がこのパーティーに大きく貢献しているのだから、尊敬するところなのだろうが、今回は不安の方が勝っている。


―――痛いことはやめてね。


 しばらくして、ルータが道具を持って戻ってきた。


 ルータは準備したモノクルをかけて、魔法陣の書かれた石版をカウンターに置いた。


「じゃあマルセルはその石版に手を置いて」


 マルセルは言われた通り石版に手を乗せる。


 するとうっすらと魔法陣が光った。


 ルータはモノクル越しにマルセルの周りに浮かび上がるステータスを見る。


「うーん。へえー。・・・あれ?」


「どうですか?」


 あまり良いとは言えない反応だったけど心配だ。


「君はよく見るとなかなかに色男だね。私はタイプだなあ」


「んーー、ん?」


……なんか嬉しい。


「いやいや、そうじゃなくてステータスの方ですよ」


予想とは全く別の角度から回答されツッコミが遅れる。


「ああ、ごめんごめん。結論から言うとね、君って生物じゃないみたいだね」


「は?」「え?」


 意味がよく分からないが、それはモルタニアも同じようだ。


「えーと、なんて言うのかな。生物が例外なく持っているものがマルセルには備わってないのよ」


「というと?」


「君の体には魔力の出入口がない。それに加えてひとつの属性も体内で生産されていないみたい」


「モナさん、これは深刻ですか?」


「え?うーん。深刻かって言ったら超深刻なんだけど。情報多寡で頭がパンクしそう……」


 なるほど、そんなに深刻なのか。


「要するに、俺が魔法を使えない理由はそこにあると」


「多分そうだね。他にも弊害はありそうだけど君は特異中の特異だから、何も分からないっていうのが今言えることね」


「わかりました」


「この情報で登録するけどいいかしら?」



「お願いします」


 一通りの登録を済ませ、マルセルとモルタニアはレイゼンとラフィーに合流するためギルドを後にした。


「マルセル、あまり落ち込んでないみたいだね」


 隣を歩くモルタニアが聞いてきた。


「まあ、予想していたことなんで」


 もうこの体とは17年も付き合っている。


 聞いて驚くことはさほどないだろう。



「お、きたきた。どうだったー?」


 集合場所に姿を現したマルセルたちにラフィーが声をかけた。


「生物じゃないって言われました」


「えぇ、何それ。いじめ?」


 ラフィーは怪訝な顔をする。


「かくかくしかじかで―――」


 先ほどギルドであったことを説明する。


「分かってはいたが本当に魔法が使えないとはなあ」


 話を聞き終えたレイゼンは腕を組んでマルセルを見た。


「この後の予定はどうするんですか?」


「ああ、ダンジョンに入る。早速マルセルには役に立ってもらおうと思ってな」


 ―――ダンジョン、だと。


「守ってやるから心配すんな」


 不安感が表情に出ていたのかレイゼンにそう言われた。



 ダンジョンとは宝が眠っているであろうとされる場所だ。


 ある時は先祖やモンスターが使っていた洞窟、ある時は城の成れの果て。


 大きさも難易度も様々だ。


「レイゼンさん、ここってどれくらいのレベルのダンジョンですか?」


 洞窟ダンジョンの入り口の前に立ったマルセルはたずねた。


「確か、6だったかな」


「まじすか」


 ダンジョンの難易度は10段階に分けられ、ここは6番目。


 学校で習える初心レベルの剣術だけを身につけたマルセルが本来入れるダンジョンのレベルは1や2であるので、如何に場違いであるかが伺えた。


「ほら、とっとと入るぞ」


「お、お……」


 レイゼンに背中を押され、マルセルはよなよなと歩き出す。


 先頭にはレイゼン、右後方にラフィー、左後方にモルタニアという陣形でガッチリマルセルを囲む。


 ダンジョンに入り数分、未だモンスターには遭遇しない。


「モンスターっているんですか?」


「そりゃダンジョンだからな、もう少ししたら出てくるぞ」


―――えぇ。


「なんかマルセル見てたら、私まで心配になってきた」


 ラフィーは杖を両手で持ち肩をすぼめる。


「ブハッ!!なんでお前まで怖がるんだよ」


「あんたは逆に怖がらなさすぎなのよ!このダンジョンだってレベル低いわけじゃないから」


 噴き出すレイゼンにラフィーは突っ込む。


 二人のやり取りを見て、マルセルの緊張は少しだけ和らいだ。


 と思ったのもつかの間。


「―――あ、なんか来る」


 ラフィーが不意に声を出した。


 その声にマルセルは前方を見たが何も見えない。


 しかしレイゼンは剣を構え、もう前方に飛び上がっていた。


 レイゼンの向こうに弾丸のような速度で飛んでくる黒い影をマルセルは確認した時、


「ギギャャャャァ!!」


 けたたましいモンスターの断末魔がマルセルのすぐ隣で響いた。


 恐るおそる横を見ると毛深い巨大コウモリのモンスターが血をまき散らして横になっていた。


 頭は跳ね飛ばされ、命は既に無い。


「あ、あ……」


「ヤミハジキだな。まあ、よくいる奴さ」


 放心状態のマルセルにレイゼンは話しかける。


 ビッと血の付いた長剣を払い鞘に納める。


 その後も次々とモンスターに遭遇するが何ら問題なく目的地まで進んでいく。


 ほぼ全てのモンスターはラフィーが敵の位置を教え、レイゼンが先陣を切って討伐するという決まった形のコンビネーションで討伐された。


「あの、さっきから気になっていたんですがラフィーさんはどうして敵の位置がそんな正確に把握できるんですか?」


「空間認知っていう魔法で生物の出す魔力を感じ取っているの、私の場合半径30メートルにいる生物の位置はすべて把握してるよ」


「す、すごい」


「マルセルは相変わらず何も映ってないけど。迷子にならないでよ」


 探すの大変なんだから。とラフィーは続ける。


 こんなにがっちりと囲まれたら迷子になりたくてもなれないんだよなあ。


 そんなことを考えながらマルセルは歩いた。


「さて、ついたぞ」


 レイゼンが足を止めたその先には、部屋のようにぽっかりと広い空間が広がっていた。


 そしてその空間の中央にはあからさまに宝箱が置いてあった。


「え、こんな堂々とある物なんですか?」


 こんなにわかりやすい場所にあったら、他のパーティーに取られていてもおかしくない。


「ここにはトラップがぎっしり詰まっていて、誰も宝箱に近づけないの」


「ちょっと見てろ」


 レイゼンはそう言うとおもむろに足元を這っていたダンゴムシ風の生物をつかみ、宝箱めがけて投げた。


「投げた!?」


 虫は弧を描いて宙を飛んでいくが、その途中で姿を消してしまった。


「転移魔法のトラップが作動したんだ」


 レイゼンが宝箱の手前を指さす。


 先程までは何も無かったが、今は術式が光りトラップが発動したことが分かる。


「あの虫は今ごろ洞窟の入り口に放り出されてるはずだ」


「この術式は解除できないんですか?」


「できないことは無いんだけど―――」


 マルセルの疑問に答えたのはモルタニアだ。


「術式は直接触らないと解除できなくて、そこに行くまでに別のトラップが作動しちゃうの。それにこの術式は互いに監視し合ってるみたいで無理やり壊すと、私たち生き埋めになっちゃうのよね」


「なす術がないじゃないですか」


 マルセルは三人の顔をキョロキョロ見て、どうするのか答えを伺う。


「マルセル、自分の役目忘れてないか。言っただろ役に立ってもらうって」


 あ、そう言えば。


「あはは、そうでした」


 マルセルは宝箱の方をむく。


「もし転移されちゃったら待ってて。迎えに行くから」


「お願いします」


 マルセルは恐るおそる1歩目を踏み出す。


 そして2歩目3歩目と歩いた。


 術式が光る様子はなく、床は暗いままだ。


「大丈夫そうですよ」


 そうしてついに宝箱に到達。片手で持てるほどの小さな宝箱だ。


 マルセルは宝箱を持ち、3人のいる所へ戻った。


「こんなにすんなりと行くもんなんだな」


「マルセルったらトラップ泣かせね」


レイゼンとラフィーは口々に言った。


「開けてみますか?」


「よし、開けるか」


 4人は息を飲む。


 マルセルは宝箱の蓋に手をかけて蓋を開ける。


 錆びた蝶番の音と共に蓋が開くと、中から眩く光が溢れ出た。


「う、眩しい」


 一瞬視界が真っ白になったが、それも直ぐに慣れて宝箱の中身を確認する。


「金のインゴットですかね?」


 宝箱の中はビロードが詰められ、その真ん中には金色の長方形の物体が鎮座していた。


 重さは金に比べたら軽く、何より勝手に発光しているのだから金ではないと思うが一応言ってみた。


「これは、光樹の材木だね」


 モルタニアが聞き馴染みのない単語を発した。


「コウジュ?」


「魔力濃度の高い場所で育つ超高級木材。光り続ける性質を活かして色んなことに利用されてるんだよ。それだけで5万ベールくらいするんじゃない

かな?」


「かー、たったこれだけの木材が5万ベールか。そりゃお宝だな」


「それ、マルセルがもらっていいよ」


 ラフィーが笑って言った。


「え!いいんですか。こんなに貴重なもの」


「初仕事だったからな。それにこっちも楽にダンジョンを攻略できたし、お互い様だ」


 レイゼンもマルセルの肩をたたいた。


「ありがとうございます!」


 初めてのダンジョンは無事に終了した。




 帰宅したマルセルは光樹を部屋に飾った。


 黄色い温かみのある光が部屋を照らしている。


 これからはこうやって彼らと冒険をしていく、そう考えるだけで次の日が楽しみになる。


 今日のこの日がマルセルにはとても大切な日になった。


 きっと良い夢が見れる。


 そんなことを考えながらマルセルはベッドに入った。


「……眩しい」


 やっぱり普段はしまっておこう。


 マルセルはベッドから出ると光樹を宝箱にしまい、もう一度ベッドに入った。

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