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出会い

「今日は将来の夢について話してみましょう。皆さん将来の夢はありますか?」


「「はい!はい!」」


 先生の問いかけに児童たちは勢いよく手を上げる。


「パン屋さん!」「騎士!」「鍛冶師!」


 そして、思い思いに話を始めた。


「順番に当てるので静かに手をあげてくださいね」


 先生は注意を促すも、児童たちは静かにならなかった。


「もう。……あれ?」


 皆楽しそうに話をしている中、一人だけ静かに下を向く少年がいた。


「マルセル君、どうしたのかな?」


 先生の呼び掛けにマルセルはハッと顔を上げた。


「せんせー、マルセルは将来の夢無いんだよ。魔法使えないもん」


「こら、それは関係ないでしょ。魔法が全てじゃないんだから」


 児童らしい突発的な発言に先生は注意をする。


「マルセル君、将来の夢は何かな?」


「ぼく、ぼくの夢は―――」





「―――楽して生きたいかな」


「はあ?まあ、応援はするけどよ。大変だぜお前が楽に生きるのは」


 高等学位法校に入り、そろそろ進路も考えていかなくてはならない時期になった。


 同級生の友達に進路を聞かれ、マルセルはそう答えたのだ。


「大変なら、実現した時に達成感がすごいね」


「お、おう。ポジティブだな」


 友達はマルセルのあっけらかんとした態度に、少し拍子抜けした。


「あ、そうだ。今日レイゼンさんのパーティーが帰ってくる日じゃないか?」


「そうなの?」


「そうだよ、ニュース見てないのか?攻略不可能だって言われてたダンジョンを攻略したって」


 友達は声に熱を帯びさせて話した。


「へーすごいね」


「すごく興味無さそうだなあ」


 マルセルとの温度差に友達は方を落とした。


「いや、帝国内最強のパーティーとなると次元が違いすぎて感想が上手く出ないだけ」


 彼らは一体どんな景色が見えているのだろうか。


 マルセルには想像もできなかった。


「学校が終わったら見に行こうぜ。パレードがあるみたいだから」


 マルセルは頷いてそれに賛同した。



 グランザイム帝国の王都の正門には多くの人が集まっていた。


 パーティーがダンジョンから帰ってくるだけだというのに異様な盛り上がり方だ。


 それだけにこのパーティーが特別であり、成した功績が素晴らしいものであるということなのだろう。


 人混みの中央に道が作られている。


 レイゼン・ロットマン率いる通称レイゼン隊は正門を抜けその道を歩き始めた。


 拍手、歓声が嵐のように鳴る。


 実際に見るのは初めてだったのでマルセルも楽しみに、人混みの中から彼らを見た。


 レイゼン隊の構成は男1人、女2人の少数精鋭といった感じた。


 歳はさほど自分と変わらないが、女2人を従えるレイゼンは物語の主人公のように見えた。


「かっこいい……」


 自然と感想がもれる。


 自分はたどり着けない、彼らだけの世界。


 嫉妬も憧れもなく純粋な敬意だけがあった。


「なあ、マルセル。あの人めっちゃこっちの方見てない?」


 確認すると確かにメンバーの少女一人がこちらの方をチラチラと見ていた。


 初めは満遍なく笑顔を振りまいていた彼女だったが、こちらに視線をおくる割合が増えてきていた。


「まさか、俺のことが気になっているのか!?」


「それは無いから心配するな」


 どうしてその考えに至ったのかは置いておくとして、確かにどうしてこっちを見ていたのだろうか?


 明らかに目が合っていたけど……。



 レイゼン隊が通り過ぎたあとも混雑は収まらず、家に戻れたのは随分と時間が経ってからだった。


「人の量が凄かったなあ」


 独り言を言いながら家に入りリビングのドアを開ける。


 すると目の前には、膝の上に両手を乗せ、背筋をしっかりと伸ばして椅子に座る母の姿があった。


 そして、テーブルを挟んだ向かいには、


「お、帰ってきたな」「お邪魔してまーす」「あ、お邪魔します」


 レイゼン隊の3人が居たのだ。


―――どういう状況?


 マルセルは全く理解できずその場に立ち尽くす。


「えっと、皇帝陛下へご報告する予定では・・・」


「逃げてきた」


 椅子の中央に座る青年、レイゼンは即答した。


 逃げてきた。なんでだ。


「まあまあ、そんな警戒しないで座りなよ」


 レイゼンに促され、マルセルは母の隣に座った。


 あれ?ここ自分の家だよな。


 完全に向こうのペースに飲まれている。


「今日はどうしてここへ来たので―――」


「待てい!その前に自己紹介をさせてくれ、初対面だし俺たちの名前は知らないだろ」


「知ってると思うよ」


 レイゼンの右隣に座っている少女、ラフィーはレイゼンに言った。


「え、そうなのか?」


「知らない人の方が珍しいかと」


 マルセルのその言葉を聞いた途端、レイゼンは額に手を当てて下を向いた。


「そうか、俺達も有名になったんだなあ」


―――なんか、暑苦しいなこの人。


 マルセルは苦笑いした。


「ちょ、ちょっと、困ってるから勝手に感極まらないでよ」


 今度は左隣の少女、モルタニアがレイゼンを正常に戻そうと努める。


「だが、彼との今後のことを考えると大事な事だ。改めて自己紹介を」


―――ん?今後ってなんの事だ。


 マルセルがそれを聞こうとする前に自己紹介がはじまった。


「隊長のレイゼン・ロットマンだ。基本的には剣を振っている。よろしくな」


「はい、よろしくお願いします・・・」


 マルセルはぺこりとお辞儀をした。


「ラフィー・フランク術師だよ」


「モルタニア・ルイーズです。モナって呼んでね。えっと、参謀みたいなことをしてます」


 自己紹介が一通り終わると3人は、次は君の番だとマルセルの方を見た。


「マルセル・ワイバーグです。よろしくお願いします」


 それを聞くとレイゼンは頷く。


「では、俺たちがここへ来た理由を話そう」


 随分とかしこまった様子でレイゼンは続ける。


「マルセル、君をスカウトしに来た。パーティーに入ってくれないか?」



「え?」


 今日二度目のサプライズだ。


 自分の家にレイゼン隊が来たことも十分驚いているが、これに関しては驚きを通り越して意味が分からない。


 思わず母の方を見るが、母も初耳らしくあわあわしていた。


「り、理由はどうしてですか?」


 他の人なら二つ返事でOKするところだが、マルセルは素直に受け止められない。


 誰かと間違えているんじゃないのか?自分は魔法が使えないせいで成績最下位の平均にも達していないやつなんだぞ。


「聞いた話だと魔法が使えないそうじゃないか?」


「それを知っていて―――」


 スカウトしたのか。


「だけどそれ以上驚いたのは、魔力感知に引っかからなかったことだ」


「そう!そうなの!!」


 レイゼンに続いてラフィーが声をあげる。


「パレードの時にマルセルだけ何も映らなかったの。こんなこと初めてでガン見しちゃった」


 そうか、それでこっちを何度も見ていたのか。


「それをレイゼンに話したら仲間にしようってなって、皇帝陛下への挨拶も放ったらかして君探しだったよ」


「そ、即決すぎませんか・・・」


「レイゼンはほとんど思いつきで行動するからね」


 モルタニアは半分呆れた様子だ。


「よく家の場所が分かりましたね」


「ちょうどマルセルの隣にいた人を見つけたから教えてもらったの。顔真っ赤にしてたけど具合悪かっ

たのかな?」


 ラフィーは心配そうに友達を思い出す。


―――良かったな、話ができて。


「マルセルのその力は他の誰にもできない事だ、生かさないなんて勿体ない。是非俺たちのパーティーで使ってくれないか?」


 レイゼンは再度マルセルにたずねた。


 マルセルは彼の目の奥に強い熱を見た。




 一生役に立たないと思っていた。


 こんな自分が役に立とうなんて思うこと自体がおこがましいとまで思っていた。


 だけど、こんなにも力強く誘われてしまったら嬉しいじゃないか。


「こちらからもよろしくお願いします。パーティーに入れてください」


 ちょっと声が震えてしまったかもしれない。


 その言葉を聞いてレイゼンは快活に笑い、ラフィーはにっこり笑い、モルタニアは優しく微笑み、声を揃えた。


「ようこそ、レイゼン隊へ」

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