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 廊下に出てすぐ、メイド服姿の女性に話しかけると、私の姿を見てかなり戸惑っている様子だった。

 ライラのクローゼットには、いかにもお姫様な服ばかりだったから、普段と違う服のチョイスに驚いたのだろう。


「急に話しかけてしまってごめんなさい。今いいかしら?」

「も、もちろんでございます、ライラお嬢様!」

「あのね、急にこんなことを言ったら驚くかもしれないんだけど、私はライラではないの」

「は、え?それはどういった……」


 より一層混乱しているのが見てとれる。

 うーん、そりゃそうよね。


「嘘だと思うかもしれないけど、私は別の世界の人間なの。たぶん転生したんだと思うんだけど、今までライラとして生きてきた記憶がないの!」


 自分で言ってても意味不明だ。でも、ライラはあくまで悪役令嬢。ゲームの中で掘り下げられることがなかったから、どんな生活をしていたのか私には情報がない。

 ましてや、私の推しキャラはヒロイン一択!この状況でライラのフリをしてやり過ごすのは絶対に無理。それなら先に記憶がないことを言ってしまった方が楽だろう。


「も、申し訳ございません!!」


 何故か真っ青な顔をして土下座せんばかりの勢いで謝るメイドさん。何故?!


「私の何がお気に障ったかわかりませんが、どうか許してくださいませ…!!」

「え?!いや……あのう……」

「そのような演技をされなくとも、ライラお嬢様の命令でしたら何でもやりますので……どうか、どうかお許しください……!!」


 今にも泣き出しそうな顔でガタガタ震えるメイドさんに、ライラが普段使用人たちにどんな振る舞いをしていたのか想像ができる。ヒロインをいじめるように、使用人たちにも相当な嫌がらせをしていたんだろう。


「しばらく食事は取りません、ですが、どうか……どうか水だけは飲ませていただいてもよろしいでしょうか……」

「ちょっ、何言ってんの?!全然飲んでいいわよ!ていうかご飯もちゃんと食べてよ!!」

「ああっ!何と慈悲深い!ありがとうございます、ありがとうございます……!」


 まさか気に入らない使用人には水も与えないなんてこと、平気でやってたんじゃないでしょうね……。意地悪どころの騒ぎではない、それは虐待よ!ライラ、最低すぎる。

 この反応を見ると、使用人たちに話を聞くのは難しそうだ。そうなると、やはり身内に聞くのが一番だろう。


「ところで、食堂の場所をど忘れしちゃったんだけど、案内してもらってもいいかしら?」

「は、はい!かしこまりました、こちらでございます」

「食事は両親と私で取るのよね?」

「え?ええ……旦那様がいらっしゃる時はそうでございますね。本日もその予定となっております。奥様は旦那様と一緒に行動されてますから、ライラお嬢様だけでお召し上がりになることも多いかと存じますが……」


 何でそんなことを聞くんだ?という顔をしているけれど、困惑より恐怖の色が濃い。私の意図が見えなくて怯えているんだろう。


「こちらでございます。さあ、お掛けくださいませ」


 一刻も早く解放されたい!!とヒシヒシと感じながら、メイドさんが引いた椅子に腰掛ける。


「どうもありがとう。下がっていいわ。お仕事の邪魔をしてしまってごめんなさいね」

「はっ……!あ、ありがたきお言葉です」


 戸惑う様子を見るからに、どうやらライラは日常的にお礼を言うようなタイプではなかったらしい。


「……あの、差し出がましいようですが、先程のような冗談は旦那様のいる前ではお控えになった方がよろしいかと。で、では失礼いたしますっ!」


 あっという間に食堂を去る後ろ姿に、自業自得とはいえ、ライラの嫌われっぷりをしみじみと感じた。


「それにしても、ライラの父親って冗談が嫌いなタイプなのかしら。あれだけ怖がりながらも忠告してくれるなんて、よっほどのことよね」


 とはいえ、おそらく使用人全員に嫌われてる状態で、理解者を確保するのは困難だろう。ならば、やはり血縁者に頼る以外に方法がない。


「せめてゲームでいうと今日がいつなのかわかればいいんだけど……まあ、ライラが実家にいるってことは入学前なんだろうけど」


 『Magical School Heart』、通称『マジスク』はその名の通り、魔法学校での学校生活の中で恋愛をするゲームだ。主人公のエレナは学校に通えるような裕福な家庭の生まれではなかったが、魔法の才能があることがわかりメルヴェイユ魔法学校に入学する。

 魔法というのは国民全員が使えるものではなく、その強さも種類もランダムに発現する。この国・ルフェーブル国では、統計的に身分が高い者に魔法が宿りやすい。おそらく遺伝的な要因だろうと言われているけれど、実際のところどういう仕組みなのかはわかっていない。なので、庶民の中に急に協力な魔法の使い手が現れることも、極々稀だがあることはあるのだ。

 そんな上流階級の子どもたちが集まるメルヴェイユ魔法学校にウン10年ぶりに庶民が入学するということで、主人公のエレナはかなり注目される。それが気に入らないため各攻略キャラのルートで邪魔をするのが、ライラのポジションだ。

 メルヴェイユ魔法学校は全寮制のため、ライラの嫌がらせイベントは朝から晩までいつ起こるかわからない。これを回避するのがこのゲームのミソだったのよね。


「メルヴェイユ魔法学校は9月入学だったはずだから、目を覚ました時に寮じゃないということは、入学前または卒業後よね。鏡を見る限り、まだ15〜6歳だろうし……やっぱ入学前よね」


「何をブツブツ言っている」


 威圧的な声にハッと顔を上げると、目の前に威圧感たっぷりでいかにも貴族って感じのオジサンが不機嫌そうに立っていた。


説明パートが続いてしまい、申し訳ありません。

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