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6. 愚かな人類を洗い流してやる

「あづぃ~」


 こっちの世界に戻って来てから最初の夏。

 日本の夏ってこんなにも暑かったっけか。

 外に出ようものなら猛烈な日差しと湿度のダブルコンボで元勇者の俺でさえもぶっ倒れてしまいそうだ。


 とはいえ家に籠っていたらエアコン代がつらたん。

 苦しみに耐えながら家電量販店とかに移動して涼むしかないのか……


『大変そうッスね』

「クソガエルもこの地獄の苦しみを味わえ!」

『カエルじゃないッス。熱魔法を使うのは止めて欲しいッス』

「うお、部屋がさらに暑くなってしまった」

『馬鹿ッスね』

「うっせ」


 あまりの暑さで脳がやられかけてるんだよ。

 この時期だけ向こうの世界に避難するとか出来ないのかな。


『こっちの世界に涼しいところは無いッスか?』

「んあ? あるにはあるぞ」


 オーストラリアとかに行けば季節が逆だしな。


『ならそこに移動すれば良いじゃないッスか』

「金かかるんだよ」

『えぇ。飛べば良いのに』

「不法侵入になるだろうが」

『悪逆非道は何処に行ったっすか』

「うっせ」


 それに長い間飛び続けるのは魔力を馬鹿食いするからキツイんだよ。


『じゃあ冷気系の魔法で周囲を冷たくすれば良いじゃないッスか』

「お前はこの暑さを知らないからそんなことが言えるんだ。魔法で空気を冷やそうが一瞬で元通りだぜ」

『そんなにヤバイッスか……』

「お前にもようやく事のヤバさが分かったようだな」


 ずっと魔法を使い続ければ良いだろうが、それだってエアコンと同じだ。

 カロリーを消費し続けるから疲れるし飯も多く必要になるし結局金がかかる。


「はぁ……地獄だ」


 向こうの世界と簡単に行き来が出来ればなぁ。

 秋になるまで王宮でくっちゃ寝してるのに。


『水浴びでもしたらどうッスか』

「水浴びねぇ。水道代が勿体ないし、大して涼しくならねーんだよな」


 海やプールなら女の子の水着が見られるから興味はあるが、それには灼熱の外に出なければならない。

 人生ままならんのぅ。


 いや待てよ、水か。


「くっくっくっ」

『悪そうにしているつもりなのに全く悪く見えない顔が出たッスね』

「はぁ? 悪の親玉みたいな極悪人の顔になってるだろ!」

『そうッスね』


 チッ、これだから悪を知らない良い子ちゃんは。


『それで何をやるッスか?』

「この世界には打ち水ってやつがあるんだ」

『打ち水ッスか?』

「ざっくり言うと、地面に水を撒くと砂ぼこりがあがらなくなったり涼しくなったりするんだよ」

『へぇ~そうなんスか。でも直ぐに蒸発しそうな気がするッスけどね』

「カエルの癖に良く分かっているじゃないか」

『カエルじゃないッス。前に晃さんが敵の毒水攻撃を蒸発させたことがあったじゃないッスか。それを覚えてたッス』

「あ~あったなそんなことも」


 別にあの程度の毒なら当たっても平気だったんだが、なんか汚く見えたから熱で浄化させたんだっけ。

 その後に空気中に毒が蔓延してパーティーメンバーから顰蹙ひんしゅくかったな。

 今となっては懐かしい話だ。


「もちろんちょっとした水なら大した効果は無い」

『ということは?』

「くっくっくっ、大雨を降らしてやるのさ!」

『おお、悪人ぽいッス』

「だろ?」


 雨が降ったら困る人が沢山いるだろうからな。

 俺の快適な生活のための犠牲になってもらおうか。


『でも雨を降らすなんて疲れないッスか?』

「それが魔法の不思議なところでな、小技を延々と使うよりも大技一発の方が遥かに楽なんだよ」


 自分の周囲に一時間冷気を纏わせ続けるのよりも楽なんだよな、これが。


「今日は快晴で夕立の気配すらない。突然雨が降ったら困惑するだろうな」


 外で作業をしている人は慌てるだろうな。

 洗濯物を干している人は困るだろうな。


 いやぁ、俺って極悪人だわ。


『まさか本当に悪いことが出来るなんて』

「おいコラ、どういうことだ」


 何度も悪逆非道な姿を見せていただろうが。


「さて、早速やらせてもらおうか」


 極大水魔法、レイン。


 向こうでは雨が降らなくて困っている村で良く使ったものだ。

 攻撃系の魔法なのに人助けにも使える便利魔法。

 今回は攻撃極振りだがな!


『おお、雨雲が広がったっす』


 広い範囲にまとまった雨が降らないと気温は下がらないだろうから、かなり大規模な雨雲を召喚した。


「さぁ愚かな人類よ、惑い苦しむが良い。レイン!」


 ポツ、ポツ、と小雨が降って来た。


 この魔法、細かい調整がクッソ難しいんだよな。

 もうちょっと強く、ああ、強くなりすぎた。

 程よい雨量で……うし、こんな感じだ。

 

「はい完成。しばらく降らせるか」

『まさか本当にみんなが困ることをやるとは思わなかったッス』

「このくらい容易い事だ」

『それで今回は何の裏があるッスか?』

「う、裏なんてないし」


 どうしてもこのクソガエルは俺の事を善良な人間と思い込みたいようだな。

 だが今回こそは俺の本性が伝わったはずだ。


 自分本位で他人が困ることをする悪逆非道な男、それが俺なのさ!




『次のニュースをお伝えします。先日の異常な大雨により、全国のダム貯水量が大幅に増加し水不足の可能性が解除されました』

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