2. 商店の商品を根こそぎ奪おう
「やっぱり卵は日本が誇る最高の食材だな!」
なんといっても、生で食べられるのが素晴らしい。
向こうで生卵なんて喰った日には、聖女のお世話になる事間違いなしだからな。
あいつ絶対裏で爆笑するから関わりたくないんだよ。
『あんなに良い子に対して何言ってるんスか。普通に心配すると思いますよ』
「無い無い、あーいうのに限って裏では俺をバカにしてるんだよ」
『……聖女ちゃん可哀想に』
可哀想なのは勇者なのにまともに敬われない俺だっつーの。
「さぁって今日は何にしよっかなぁ」
卵焼き、目玉焼き、ゆで卵、スクランブルエッグ、シンプルに卵かけ御飯ってのも良いな。
『凝った料理はやらないんスか?』
「はぁ?何言ってるんだよ。全部凝った料理だろ。簡単に見えて奥が深いんだぜ」
決して俺が他の料理を作れないわけではない。
作ったことが無いだけで作れるんだよ。
作る気にならないだけだから。作れるから。ほんとだぞ!
「確かとろけるチーズが余ってたから今日はそれを入れて……あれ」
『どうしたッスか?』
「ない」
『何がッスか?』
「卵がないいいいいいいい!」
そうだ、昨日のゆで卵で最後だったんだ。
ゲームに夢中で忘れてたわ。
「しゃーない、買いに行くか」
安売りしてないかなーっと。
あれ、今日って水曜日だよな。
待てよ、カレンダーカレンダーっと……
お、第三水曜日じゃないか!
『おや、何か悪い事考えてる顔になってるッスね』
「分かっちゃう?」
『似合わないにやけ顔になるから分かるッス』
「似合わない言うな」
人の容姿を貶めるのはいかんぞ。
んじゃちょっと遠いけれど隣町のスーパーまで行くか。
『バレても足がつきにくいようにするためッスね』
「ちげーよ!」
『アイテムボックス使って盗めばバレないと思うッスけどね』
「お前……万引きは人としてやっちゃダメだろ。カエルでもダメだぞ」
『カエルじゃないっす。というか、盗みも悪事に入れられないんスね……』
当然じゃないか。
万引きしたら店の人がガチで困るだろうが。
ほんとこのカエルは極悪非道なことばかり考えるな。
悪事は働けども人の道は外れてはならない。
これは常識だろう。
『なんの常識ッスかね……』
「おい、俺の思考を読むな」
『(単純すぎるッスからね)』
今回の悪事は俺の生活がかかっている。
本気で取り掛かるぞ。
目的のスーパーに着いた俺は、目当てのブツがあるか確認する。
『よし、まだ沢山残ってる』
『卵一パック30円。お一家族様一パック迄ッスか』
このスーパーは、第三水曜日だけ夕方にこの卵安売りセールをやってるんだ。
普段は百円を大きく越える卵が半額以下で買える。
これを逃すわけには行かない!
『あー大体分かったッス』
『俺の崇高なる計画をカエル如きが予測できるわけが無いだろうが』
『カエルじゃないッス』
さて、まずは一旦トイレに入ろうか。
今回使う能力は、地味だけれども割と良く使われることがあるチート能力だ。
ドッペル生成。
俺と瓜二つの存在を生み出す魔法である。
ゴーレムで似たようなことをする作品の方が多いかもな。
俺もゴーレムを作れるが、ここには素材となる土が無いから今回はドッペルに活躍してもらうことにする。
『やっぱり予想通りッス。これで何個も卵を買おうって魂胆ッスね』
『チッチッチッ、甘いよ。甘すぎるよカエルくん。マッ〇スコーヒーより甘いよ』
『カエルじゃないッス』
このままでは卵を二つ購入するのはハードルが高い。
何故なら、俺とドッペルは瓜二つであるため、同じ人物が二回買いに来たと思われるかもしれないからだ。
『バレたら出禁の可能性もある。そんな危険は犯せない!』
『魔法を使ってまで出禁喰らったら末代までの恥ッスもんね』
その通り。
だから俺は考えた。
それなら見た目を変えれば良いんじゃね?
チェンジ!
よし、これでドッペルの見た目を変更出来たぜ。
幻影魔法を覚えておいて良かった。
服装は俺と同じだが、見た目が明らかに違うから大丈夫だよな。
『伝説級の魔法を連発してやることがみみっちすぎるッス』
うっさいな。
異世界に行く前から魔法で分身して購入制限のある商品を複数買ってみたいなって思ってたんだよ。
夢が叶うんだから黙ってろ!
『よし、ドッペル達、時間をズラして卵を買いに行け!』
くっくっくっ、これで格安卵を大量ゲットだぜ!
『でも何でこのお店って、こんな採算取れないことやるんスかね』
『そりゃあ、これを期にこの店を気に入って貰って普段も買い物して欲しいとか、後は他の商品も買って貰ってそっちで売り上げ補填するとかじゃねーの、知らんけど』
『じゃあ今日卵を買うだけの晃さんはこのお店にとって嫌なお客ですね』
『……お、おうよ。どうだ、俺って悪いやつだろ?』
『(動揺しすぎッス)』
恨むなら企画した自分自身を恨むんだな。
俺はルールに従って卵を購入しただけ。
怒られる謂れは無いのさ。
はっはっは!
『そういえばそろそろ醤油が切れそうって言ってなかったッスか』
『……………………あ~そうだな。また買い物に出るの面倒臭いし、ついでにここで買っておくか。そういえば最近パスタ食べたかったんだった』
『(結局、罪悪感から予定外の無駄な買い物もしちゃうんスよね。面倒臭いのはこの人ッス)』