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1. 飲食店を荒らそう!

「はぁ~腹減った」


 腹からぎゅるぐると盛大な音を鳴らしながら、俺は都会の雑踏の中を彷徨っていた。

 財布の中には小銭が少々。ICカードのチャージ残高も雀の涙ほどしか残っていない。


『仕事バックレるからッスよ』

『うっせぇ、誰があんな暴力店長の元で働くかっての』


 この会話は思念によるものであり、口にはしていない。

 言葉を発するのも億劫なほど疲弊しているからではなく、会話の相手が一般人には見えず、普通に口にしたら妙な独り言を呟く変人として見られてしまうからだ。


『アレはあきらさんの行動が原因では?』

『ちょっと味見しただけなのに、叩いたり罵声浴びせるのはヤバイだろ』

『店の商品を勝手に食べる晃さんが完全に悪いッスよ。それに店長さんは軽く肩を叩いて丁寧に叱ってくれてたと思うッスけどね』

『あぁ?お前カエル鍋にしてやろうか』

『カエルじゃないッス。精霊ッス』


 グチグチと煩いこいつは異世界で契約した精霊で、俺の右肩付近でふわふわと浮いている。

 大きさは握りこぶしよりも少し大きいくらい。

 全身が鮮やかな緑色でカエルのような姿をしているため、俺はカエルの精霊だと思っている。


 カエルと言っても某ケロケロな可愛らしいアレとか、軍曹的な感じではなく、ワ〇ャンに似ている感じだ。

 まぁ、〇ギャンはカエルではないが。

 ワギャ〇が分からない人はググってくれ。


 しかしまぁ、まさか地球に戻ってくるのについてくるとは思わなかった。

 俺のやることにダメ出しばかりしてウザいから契約解除したいんだが、誰もやり方を教えてくれなかった。


「ダメだ、このままじゃ空腹で死ねる。日雇いのバイト探さないと」

『世界を救った英雄が金欠とか、聖女達には聞かせられないッスね』


 くそぅ、あっちの世界じゃ食べ物に困る事なんて無かったのに。

 街や村を襲っているモンスターをちょちょいと撃退するだけで、感謝感激飯だらけ。

 まぁ肝心の飯は俺の口には合わないのが殆どで辛かったけど。


 日本料理さいこー!ジャンクフードさいこー!

 てな感じで日本に戻って来てから散財しまくったから金欠になってしまったわけだが。


『そもそもこっちに戻ったら悪い事するんじゃなかったッスか?』

『してるだろ。ほら、昨日もバイト先で勝手に味見したし』

『スケールがしょぼすぎるッス』


 俺は異世界では勇者として正義の味方をやっていたが、日本に戻ったら勇者の能力を使って悪逆非道の限りを尽くし欲望のままに生きると決めた。

 だってせっかく、他の誰もが持っていない超絶チート能力もってるんだぜ?

 悪事を働いても誰も俺を止められない。


 だったらやるしかないだろう!


『そもそも何でまともに働いてるッスか。欲しいものがあれば盗めば良いじゃないッスか』

『おま!なんて凶悪なこと考えてるんだよ!それは流石に人としてやっちゃダメだろ!』

『えぇ……』


 まさかこいつは邪悪な精霊だったのか?

 やはりなんとしても契約解除しないと!


「はぁ……流石に腹が減りすぎてヤバイな。このままじゃ日雇いのバイトすらもまともに出来そうに……お」


 困窮している俺に神が救いの手を差し伸べたのかと思える程のタイミングで、俺の目に素晴らしい文字が飛び込んで来た。


 カツカレー大食いチャレンジ。一時間以内に十キログラム完食で、賞金十万円!


「これだ!」


 お腹いっぱい食べて料金が無料になるだけでなく、金まで貰える夢のような企画だ。

 ありがとう、カレー屋さん。

 十万円、頂きます。


『晃さんって大食いでしたっけ?』

『いや、普通だぞ』

『ええ、大丈夫ッスか?失敗したら八千円って書いてあるッスよ』

『大丈夫大丈夫』


 俺には世界を救える程の力がある。

 カレーの大食いくらいどうってことない。


 意気揚々と店に入り、早速注文する。


「大食いチャレンジをお願いします」

「かしこまりました」


 ふふふ、他の客がチラチラとこちらを見ているぜ。

 俺の雄姿を目に焼き付けるが良い。


「お待たせ致しました」

「おお、これはインパクトあるな」


 とりあえず写真とっとこ。

 スマホスマホ。


「あ、他の方も撮りたければどうぞ」


 こういうのは皆にも共有してあげないとね。

 でもカレーにワラワラと人が群がってる姿、傍から見ると笑えるわ。


「んじゃいっただっきまーす」


 もぐもぐ。

 おお、味も良いじゃん。

 まぁ腹減ってるから何食べても旨く感じるんだけどな。


 今なら異世界のあのクソマズジャーキーにもがっつくかもしれない。

 ……それはないか。


「カツも揚げたてでサクサクだ。うまーい!」


 おっと危ない、最初にがっついて少しお腹が満たされたからか、ペースを落として味わって食べてしまった。

 制限時間があるからペースはもっとあげないとな。


「ふぅ……」


 うん、お腹がもう一杯だ。

 まだ三分の一も減って無いが、想定通りだ。


 ここからが力の使いどころ。

 今回は異世界チートの定番のアレを使うぞ。


 アイテムボックス。


 口の中にアイテムボックスへの入り口を設定。

 カレーを口の中に入れると、自動的にアイテムボックスの中に入るって寸法さ。


 これで俺はカレーを飲み込むことなく消費することが出来る。

 しかも傍から見たら口に入れているので食べているように見えるはず。


 ふははは!

 十キロだろうが百キロだろうが俺にとっては余裕だぜ。


『無駄な力の使い方ッスね』


 何言ってんだこのカエル野郎。

 こんなにも有意義な力の使い方はないだろうが。


 カラン。


 皿が空になった後、わざとらしく音を立ててスプーンを置いてみる。


「か、完食おめでとうございます!」

「すげぇ!」

「マジかよ!」


 店員さんや観客が驚いている。


 そうだ、それで良い。

 褒めろ褒めろ。

 我の偉業を褒め称えろ。


 ふははは、なんちて。


『ズルしてるのに、酷い喜びよう』

『ふん』


 俺の力で達成したことに間違いはあるまい。


「記念に写真をお撮りしてもよろしいでしょうか」

「おう、イケメンに撮ってくれよ」

「お客様ならそのままで大丈夫ですよ」


 おお、この店員さん良いこと言うね。

 俺に気があるのかな?


『絶対にお世辞だから真に受けたらダメッスよ。何回痛い目見たと思ってるんスか』

『い、言われなくても分かってるよ!』


 店員に少し優しくされただけで惚れるような勘違い野郎からは卒業したんだ。

 ああしまった、勘違いした俺を馬鹿にしたあいつらに復讐するのを忘れてた。

 後で呪っとこ。


『まだ根に持ってたッスか……』


 うるさいうるさい。

 俺はこの綺麗な店員さんにイケメンスマイルを向けるので忙しいんだよ。


 その後、無事に写真を撮り終え、チャレンジした人向けのサービスである食後のコーヒーを頂いていたら、待望のアレがやってきた。


「こちら賞金になります」

「…………」

「お客様?」

「あ、ああ、うん。ありがとう」


 賞金袋を手にした俺は、中を開けて念のため十万円がしっかりと入っていることを確認する。

 その場で開けて卑しいとか言うなよ。

 店員さんからも念のためご確認くださいって言われたんだからな。


『ズルして賞金貰うの躊躇するくらいならやらなきゃ良いッスのに』

『躊躇してねーし!』


 何を言ってるんだこのカエルは。

 バレなきゃズルじゃない。

 正当な報酬だよ、正当な。


『めっちゃ挙動不審ッスよ』

『さっさと店を出るぞ!』


 はぁ、お腹が膨れたし、財布も膨れたし、精神的なゆとりが出来たぞ。

 さぁ次はどんな悪事を働こうかな!







 ……この店美味しかったし、また来ようっと


『罪悪感あるから、通ってお金落としたいんスね』

『お前もう黙れよ!』

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