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『73 天雷』

謀反軍サイドからスタートです。

帝都がエリック公の謀反で混乱している最中、

エリック派の貴族、リンド伯爵は、帝都に向けて進軍していた。


明らかな謀反に対して兵に動揺が走っていたが、その不安を打ち消す様に活を入れる。


「正義は我らにある!ここ数年の我々への冷遇!断じて許せる物では無い!」


しかし、この言葉は兵に対して、あまり効果が無かった。

それでいい。予測通りだ。

あえて、兵に直接関係ない言葉で、一旦感心を削いで冷静にさせた。

それでこそ、本命が生きて来るという物だ。


「すべては、ルクスが現れてからだ!あの男が現れてから、この帝国は変わってしまった!」


この言葉に兵達は息をのんだ。

良くも悪くも、その通りであったのだから。


「今の帝国は、ルクスとバイデルによって背後から操られている傀儡政権だ!

いずれは、我々も排除されるだろう!お前達はそれを座して待つというのか!」


この言葉に、兵達は喰い付いた。

その中に、リンド伯爵の息のかかった者も加わり、勢いに追い風を吹かせる。


「じ、冗談じゃねぇぞ!」

「そうだ!それに、ルクスは元々平民だろう!何故皇女のセレス様が嫁いでいるのだ!」

「それを言うなら、ティナ様はどうなる!」

「男として許せねぇよな!!」


兵の反応も理想的だった。


嫉妬。

ルクスは、男が欲しい物をすべて持っている男だ。


端正な外見、子爵という地位、そして帝国が誇る美女2人を妻にしている。

加えて、皇帝陛下とバイデル侯爵という、帝国の中心にいる人間からの信望も厚い。


恐ろしい程に恵まれた男だが、これ以上に男の嫉妬心を煽れる男は他にいない。

敵の指揮官から見れば、部下を御する時に、この上なく都合がいい男なのだ。


「我々は、皇帝陛下をルクスの毒牙からお守りする為に決起したのだ!断じて謀反では無い!ルクス達の横暴を許すな!!」

「「「おおおおおお!!!」」」


ルクスのお陰で、士気は最高潮に達した。

これで、次のステップに移る準備が整ったというものだ。


「そして、今回は魔族の力強い協力もある。我々に恐れる物は何もない!」


「うっ!?」

「ま、魔族・・・」


そう、この軍団の一角に、魔族がいるのだ。

人間の天敵とも言える存在・・・

魔王軍に、家族や親しい者を殺された兵も少なくない。

上がった士気に冷や水をかける形になるが、これをクリアする必要があった。


更に、リンド伯爵の言葉に、魔族の将グレアスが難色を示す。

魔王軍の魔族は、人間を餌や家畜としか思っていない。

その家畜から、いかにも同列の存在という態度を取られたのだ。

思わず、屈辱と怒りで歯噛みする。


「我々は魔王様の指示に従っているに過ぎん。それだけは忘れるな」

「心得ております、魔将グレアス殿。魔王様には感謝しております」

「小賢しい奴だ」


魔王・・・グラース様は、帝国領に行ってから行方知れずとなっていた。

今はその事実を隠しているが、万一の時は、新たな魔王を立てなければならぬ。


そして、狙ったかの様なタイミングで、エリックという人間から持ち込まれた休戦協定だ。

忌々しい限りだが、エリックという男の軍勢は強い。

魔王様不在の今、総攻撃を受ければ、無事では済まないだろう。

故に、残された魔将で考えて出した答えが、今回の参戦であった。


「グレアス殿は魔王軍の中でも魔将と恐れられる御仁!仮にルクス自身が出て来ても容易く葬ってくれるだろう!」

「裏切らぬ限りは、貴様らには手を出さぬ。兵にも徹底させている。これで良いか?」

「有難う御座います。これで兵達も安堵するでしょう」


そして、リンド伯爵は、ここぞと言わんばかりに兵に訴える。


「聞いたか?今その目で見ただろう!魔族にも話の分かる者がいる!我らは手を取り合う事が出来るのだ。

そして、それを出来る御方はエリック様を置いて他にいない!

我々は偉大な指導者がいるという事を、陛下に知って頂かねばならないのだ!!」


リンド伯爵は、兵の動揺が収まっていく手応えを感じた。


「す、すげえ・・・本当に魔王軍と戦わずに済むのかよ・・・」

「エリック様の方が、皇帝に相応しいのではないか?」

「血筋も公爵様だ。初代皇帝陛下の血を引いているのだろう?」


理想的な反応だ。

しかし、ここで調子に乗って迂闊な言葉を出すのは、愚か者のする事だ。


「迂闊な発言は控えよ!エリック様は皇位の簒奪を望んでおらぬ!あくまで陛下に目を覚まして頂くだけだ!これは正義の行軍と心得よ!」


「「「ははっ!!!」」」


兵の士気は上々、そして魔族の存在も受け入れさせた。

あとは、皇帝陛下にこの世から退場して頂くだけだ。


あの気位の高い、エルスト4世であれば、捕虜になるくらいであれば、自害を選ぶだろう。

もっとも、大人しく捕虜になれば、魔族が不幸な事故を起こす事になる。

それも含め織り込み済みの進軍だった。


「腹黒い男だ・・・」

「ふふ、何の事ですかな」


魔将グレアスは、この茶番を酷評したが、リンド伯爵は何事も無かった様に躱す。

そして、歪な関係を保ちながらも順調に軍を進めていた。


***


「帝都が見えて来ました!」

「いや、誰かいるぞ!」

「たった1人?自殺願望の馬鹿か?」


そして、リンド伯爵はその姿を見て驚愕した。


「あれは、ルクス!」


何と言う僥倖だ!

一番殺したい相手が、一人で目の前にノコノコ現れてくれた!


しかし、リンド伯爵が歓喜に顔を歪めた瞬間、

複雑な模様の魔法陣が、ルクスの周囲に展開される。

そして、その魔力に、いち早く反応したのは、魔将グレアスだった。


「な、なんだ!あの馬鹿げた魔力は!!」

「グレアス殿?」

「魔王様を遥かに上回る魔力だと!?あ、ありえん!!」

「魔王より遥かに!?全軍!魔法に備えろ!何かマズい物が来る!!」


憎き相手を討ち取る絶好の機会だが、命の危険の直感が、軍を停止させてしまうのだった。


***


そして、視点はルクスに戻る。


俺は、敵軍を前にして、一人で考え込んでいた。


陛下に出ると言ったはいいが、具体的なプランは何も考えていなかった。

とはいえ、神龍の武器は地形が変わるので、論外だな。

ここは帝都だ。都市を更地にする様な、馬鹿げた威力の武具は使えん。


そして、前方に見覚えのある顔を見つけた。

リンド伯爵か。

俺の顔を見つけて、随分と嬉しそうな顔だ。

余程に、俺を殺したいと見える。


そして、魔族・・・魔力量から察するに、ギグラスと同等の魔王軍の幹部だろう。

この構図は、どう考えても陛下を殺しに来たとしか思えん。

あの魔族に殺させて、事故で片付ける算段だろう。

きっとそうだ。いや、そういう事にしておこう。つまりは死刑確定だ。

俺の身内に手を出すならば、あの世で後悔させてやる。


攻撃手段は、久しぶりではあるが広域魔法を選択した。

大軍であれば、雷の雨を降らせば、地形に影響を与えずに程よく削れるだろう。

何より、的が目視出来る場所でニヤケているのだから、使わない手はない。


とはいえ、俺も広域の攻撃魔法を最後に使ったのはいつだったか覚えていない。

概念のせめぎ合いに頼り過ぎたようだ。まったく俺らしくない。

昔の感覚を取り戻すためにも、念入りに、魔法陣を幾重にも構築して、威力を増幅させる必要がある。


俺は積層型の魔法陣を、周囲に複数展開して魔力を増幅させた。

積層型魔法陣は、発動に時間がかかるが、集束度はピカイチだ。


俺の魔法陣を見てから、敵が何やら慌てふためいているが、やる事は一切変わらん。

さて、準備は整った。


『ゴッドブレス(神の吐息)』


シュゴオオオーーーーーッツ!!!ビシャアアアアン!!!


『ぬぁ!?』

『ひぐぅ!』

『ぎゃっ!!?』


次の瞬間、凄まじい轟雷が敵陣に降り注いだ。

雷光の中心は一瞬で蒸発し、周囲にも雷の余波が拡散する。

感電でショック死する者、火だるまで黒焦げになる者が次々と倒れて行った。


そして、リンド伯爵と幹部らしき魔族は、悲鳴を上げる間も無く地上から蒸発した。

指揮系統に威力を集中させるのは、当たり前の事だろう。

頭を潰すのは戦術の基本だ。


戦場で俺を見て、殺意の篭った気持ち悪い笑みを浮かべる奴が悪い。

殺してくれと、盛大なアピールをしている様な物だ。

懺悔や後悔は、冥府でやってくれ。


さて、これで指揮系統は麻痺したと思うが、まだ数千という敵兵が残っている。

イグニスから会得した技だが、俺のそれは制御と威力がお粗末な代物だ。


「随分残ったな。やはり俺が使うと決め手に欠ける。次は、念入りに・・・」

「もうよい、ルクス!これでは虐殺だ!!」


俺が、次の詠唱に備えて、更に特大の魔法陣を展開した所に、陛下が割って入って来た。


「陛下?ここにいては危険で御座います」

「目の前をよく見よ!!」


陛下の言う通り、敵軍を見ると、完全に戦意喪失して、白旗を振る敵兵がいた。

どうやら、指揮系統は前方に集中しており、予備の指揮官はいなかったらしい。

そして、問題の魔族は、将を失い散り散りになって逃げていた。

確かに、これ以上の戦闘は無意味だ。


「謀反に加担したとはいえ、元は余の臣民なのだ!これ以上の血は見たくない!」

「配慮に欠けておりました。この場は陛下にお任せします」


こうして、帝都襲撃は失敗に終わり、首謀者リンド伯爵は消滅。

領地についてはエリックの謀反の事もあり、一旦保留となった。


そして、投降した兵は、陛下の恩赦で軽い刑罰で済む事になった。

連中の陛下を見る目が、尊敬と忠誠に、そして俺を見る目が、恐怖と畏怖に変わった気がするが、

恐らく気のせいだろう。

久々に主人公が暴れました

哀れリンド伯爵

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