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『43 再会』

奴が再び登場します

一方、その頃、グラッセ王国の、冒険者ギルドは混乱に陥っていた。


「帝国ギルドからの上納金が届いてないだと?!」

「はい!打診しても連絡が取れません!」


「何が起きている?まさか、帝国がギルドに介入したのか!」

「ありえません!国がギルドに喧嘩を売るなど正気ではありません!」

「確かに、あの皇帝がその様な愚かな事をするとは思えん・・・一体、何が起きている?」


国家権力の冒険者ギルドへの介入はご法度だ。

これは、大陸各国の共通の認識でもある。


それを破れば、ヴァルム小国を始め、各国のギルドを敵に回す事になる。

国家権力がギルドに介入するのは、絶対の禁忌なのだ。


もっとも、帝国のエルスト4世も、グラッセ王国にだけは、言われたくないだろう。

組織悪という物は、自分達だけは、許されると勘違いしているから始末が悪い。


そして、冒険者ギルドに、一組のパーティーが現れた。

それは、グラッセ王国が掲げる、勇者パーティーだった。


「何を騒いでいるんだい?」

「こ、これは、勇者アレン様!」


「今日は、野蛮な帝国ギルドから上納金が来る日だろう?金はどこにある?」

「それが、届いておらず、一向に連絡が取れません!」


「何?まさか、僕達の命令を無視しているのかい?」

「帝国ギルドと連絡が取れないのです!何かがあったとしか思えません!」


アレンの豪遊の資金は、まさにこの上納金だった。

帝国から搾取した金は、本来であれば使い切れない額だが、

高級娼館や、貴族とのパーティーで豪遊しているアレンは湯水の様に使い切っていた。


そして、今では些細な事にも癇癪を起す様になってしまったアレンは、背後の仲間に命令した。


「それはムカつくな。ダーク」

「何だ?アレン」

「ユミルを連れて、帝国ギルドを調べて来て。邪魔者は殺して構わないよ。僕が許可する」

「国境を超える事になる、それにアレンは行かないのか?」


「僕は忙しいんだ。雑用はダーク達で片付けてよ」

「分かった。ユミルもそれでいいか?」

「ええ、アレンは新しい神官の子に夢中らしいからね」


ユミルの言葉の棘に、アレンが反応する。

しかし、ユミルは諦めにも似た達観した顔をしていた。


「何だ、皮肉か?ユミル」

「負け犬の呟きくらい許してよ。魔法しか取り柄の無い私は、アレンには到底釣り合わないもの」


ユミルが自らを負け犬と言った事に、溜飲を下げたアレンは冷静さを取り戻した。

しかし、コイツも僕の女の一人だ。一応釘を刺しておこう。


「身の程は弁えているようだね。暴言は不問にしてあげるよ。ユミルは大切な恋人だからね」

「ありがと。早く帝国に行きましょう。ダーク」

「ああ、分かった」


「二人共、頼んだよ」


素っ気なく答えるユミルを見て、アレンは違和感を覚えたが、

すぐに、他の女の事を考え出した。


その中で、ダークは、平静を装う事に必死だった。


***


アレンから離れて、ダークが、ユミルに口を開く。


「ユミル。先程は冷や汗物だったぞ?心臓に悪い事はやめろ」

「別に何も起きないわよ。それよりもダークは私を守ってね。お腹にはあなたの子供がいるんだから」


「何!聞いて無いぞ!?」

「流石にアレンのいる所では言えないわよ。ダークも冷静でいられないでしょ?でも、お腹が膨れたら隠せないわね。アレンは裏切った私を許さないから。私も身を隠す準備が必要ね」


「お前とお腹の子は、俺が命を懸けて守る」

「頼りにしているわ。未来の旦那様」


こうして、グラッセ王国から、勇者パーティーのダークとユミルが帝国ギルドに調査員として派遣される事になった。


***


俺は、曙光の伝令を聞いて、珍しく取り乱していた。


「勇者の仲間が、帝国領に入っただと!?」

「はっ!ギルドの調査員と言っております」


まさか、帝国で勇者の名前を聞く事になるとは思わなかった。

過去の記憶というのは怖い物だ。思わず、取り乱してしまった。

俺は、呼吸を整えて、心を落ち着かせた。


「奴らはグラッセ王国の私兵だろう?何故、ギルドの調査員として帝国に来ている?」

「勇者アレンが、帝国ギルドからの横流し金の受取先だった様です。それで勇者アレンが調査を理由に仲間を送って来た次第です」


もはや中立という言葉は飾りだな。

まさか、ギルドの腐敗に勇者が絡んでいるとは思いもしなかった。


アレンの奴は、どこまで堕ちるつもりだ?

昔のアイツからは、想像出来ない屑に成り果ててしまったな。


しかし、今は、感傷に浸っている場合では無い。


「それで、来たのは誰だ?」

「ダークとユミルと名乗る2名です」

「勇者アレンはどうした?」

「王国で新しく、勇者パーティーに加入した女神官を口説いている最中との事です」


アレンは、もう魔王を倒す気など、欠片も無いだろう。


アレンについては、帝国でも悪い噂しか聞かない。

美女と見ると、相手に夫や恋人がいても、剣で斬り殺して奪い、飽きたら捨てるらしい。


ティナとセレスに聞けば、この大陸で一番出会いたくない、最低の男と酷評を貰った。

俺も、あの二人をアレンに会わせる気は微塵もない。


それにしても、ダークとユミルか。


懐かしい顔ぶれだが、エイルの耳に入れる事は阻止しなくてはならない。

エイルは、今が一番幸せな時だ。

過去の苦い記憶で、それを台無しにする事は、俺が絶対に許さん!


「俺が直接会いに行く。ディックでは分が悪い」

「ルクス様、御自らですか!?」


「ディックも相当の手練れだが、相手は勇者パーティーだ。流石に旗色が悪過ぎる」

「確かに。すぐに準備致します」


「それで奴らは、今どこにいる?」

「すでにギルドに到着したとの事。動きが早過ぎて伝令が遅れました」

「何だと!?」


腐っても勇者パーティー

いや、腐っているのはアレンだけか。

となると、ユミルが転移魔法を使ったな。相変わらず有能な奴だ。

俺を、完全に出し抜くとは、やってくれる。


「準備は不要だ。俺も魔法を使って移動する。このままでは間に合わない」

「し、しかし、国境とは、馬車でも数日かかる距離です!」

「転移魔法を使う。これなら一瞬だ」


「転移魔法!一握りの賢者のみが使用出来ると言われる魔法を会得されておられるとは・・・流石は至上の御方」

「その一握りの賢者がユミルだ。もはや一刻の猶予も無い!後の事はセスに任せる」

「はっ!」


俺は帝都エクレティアへ転移で移動した。


***


丁度、その頃、ディックはダークとユミルに詰問を受けていた。


「ギルドは国が介入してはいけない組織。なぜ帝国の息がかかった者がギルドを仕切っている?」

「以前はグラッセ王国の息がかかった、犯罪者の巣窟だったぞ?この通り、金品の横流しの証拠もある。これはどう言い訳するつもりだ?」


「ここの職員が勝手にやっていた事だ。俺達は依頼を受けて調査に来たに過ぎん」

「ならば、そちらこそギルドへの干渉は止めて頂きたい。俺は帝国民だが、帝国に横流しなどしていない。冒険者ギルドは中立のはずだ」


「私達は勇者パーティーなの。そして、帝国ギルドからの上納金も立派な資金になっているわ。いきなり止められると行動に支障が出るのよ」

「それこそ、本来ギルドが行う事では無い。なぜ帝国のギルドが上納金を王国に渡さなければならない?筋違いにも程があるだろう」


「私達もそう思うけど、勇者アレンはそう思わないのよ。悪いと思うけど、上納金を止めたら、最悪彼が来るわ。そうなったら私達では止められないわよ」

「思い通りにならなければ暴力か。まるで子供の癇癪だな。勇者は幼稚な餓鬼か?」


「貴様もそれくらいにしておけ。俺達はお願いに来た訳では無い。これは勇者からの命令だ。これ以上は実力行使になる」

「話にならないな。やはり、餓鬼のお使いではないか」


俺は、ギルドの外から一通りの会話を聞いてから、建物の中に入った。


懐かしい雰囲気だな。数百年ぶり・・・いや、この肉体では初めてか。

とはいえ、いつまでも聞いている訳にはいかない。

ダークの殺気が、高まっているのを感じる。

このままでは、ディックが始末されるだろう。


「随分と物騒な話をしているな」

「ルクス様!いつこちらへ!」


「お前は誰だ?」

「貴様!この御!」


俺は、ディックの言葉を手で遮った。

ディックでは、ダーク達に勝てないという事もある。


だが多くは、俺個人の感傷だ。

どの様な形であっても、こいつ等との再会に水を差されたくなかった。


「いい。ここは俺に任せて、ディックは下がれ」

「ははっ!」


「さて、自己紹介が遅れたな。帝国貴族のルクス子爵だ。そういうお前達こそ何者だ?」

「勇者パーティーの斥候ダーク。そしてこっちの女が賢者のユミルだ」

「初めまして。ユミルです」


「話は途中まで聞かせてもらった。中立の冒険者ギルドが、グラッセ王国に金品を横流ししていると聞いて驚いている。どういう事か聞かせて欲しい物だ」

「魔王を倒す為に必要な経費だ。それに帝国貴族がどうしてここにいる。余計な口出しをしないでもらおう」


お前、分かっているのか?言っている事が支離滅裂だぞ?


「おかしな事を言う。帝国領内のギルドに、帝国貴族が依頼に来るのが不思議な事か?グラッセ王国の私兵であるお前達こそ、ここにいるのは不自然だろう」

「我々はグラッセ王国の援助を受けているが私兵などではない。勇者パーティーだ。失礼な発言は取り消してもらおうか」


ああ、数年前なら納得しただろう。だが今のお前達はそれを言う資格があるのか?


「今の勇者は王国貴族と豪遊三昧、気に入らなければその場で剣を振り回し、女子供でも容赦なく斬り捨てると悪い噂しか聞かないぞ。

その金が帝国の民から搾取された金とあっては、貴族としても見過ごせないだろう。

貴族の俺が言うのも可笑しな話だが、いい大人ならば遊ぶ金くらい自分で稼いだらどうだ?」

「正論だけど、アレンのご機嫌を取るのも必要経費なのよ。彼以外、魔王を討伐出来る人間なんていないのだから」

「魔王か・・・」


魔王程度なら、領地ごと簡単に滅ぼせる奴は、ダンジョンに山程いる。

もっとも、あんな狂った難易度のダンジョンの事を言っても理解出来ないか。


それに、王国西部で暴れている魔王の事を言っているならば、俺が相手をしても弱い者イジメにしかならん。

実に下らん枷だ。


「確かにそんな奴がいたな。安心しろ。帝国に攻めて来たら、俺が徹底的に滅ぼしてやる」

「貴様が魔王を倒すだと?」

「流石に自惚れが過ぎないかしら」


魔王の城など、難易度で言えば、多く見積もってもダンジョンの上層がいいところだろう。

グリムホルダーを1体プレゼントすれば、魔王も含めて、数日で掃除が完了する。


「ならば、勇者パーティーのお前達が俺の力を試してみるか?」

「そこまで言うなら受けてたとう」

「後悔しないでね」


正直、勝負にならないと思うが。こいつ等には聞きたい事がある。

今のこいつ等の真意を見せてもらおう。

次回はルクスvs勇者パーティーです


評価していただけると、嬉しいです。

モチベに繋がります。

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