『39 友達』
奥様同士の会話回です
私は、自室で自己嫌悪に陥っていた。
考えれば、考える程、悪い方に陥ってしまう。
こんな考え方は、コノール様と結ばれてから、止めようと思っていたのに・・・
「私って駄目だなあ・・・」
「何が?」
いきなり、セレス殿下、本人が目の前に現れて、心臓が飛び出るかと思った!
「うひゃあ!せ、セレス殿下?!い、いつの間に!」
「扉から入って来たわよ?悩んでいて聞こえてないみたいだったけど」
振り返ると、お部屋の扉がしっかり開いていた。
「そ、そうだったんですね!は、恥ずかしいです」
「それで、何が駄目なの?」
「あの、それは・・・」
「当ててあげようか?」
「えっ!?」
言い淀んでいる、私の前でセレス殿下は、自信に満ちた顔をしていた。
「私なんかが第1夫人でいいの?皇女殿下が第2夫人だよ?私なんて平民で何の血縁もないよって所?」
「っ・・・」
「それで、色々持っている私に嫉妬して、自分の心が醜いと自己嫌悪中と」
図星過ぎて、言葉が無い・・・
あの時に、そこまで見抜かれてたの?
それとも、私って、そこまで分かりやすいのかな・・・
「セレス殿下は、読心術を使えるんですか?」
「似たような物かな?宮廷にいると、色々な視線を浴びるからね。さっきのエイルの表情で色々分かっちゃった」
「流石は皇女殿下ですね。私とは物が違い過ぎます」
「そう?勘が良過ぎるのも考え物よ。おかげで世間からは非常識だの阿保だの言われるからね」
思ってもいなかった言葉に、面を食らってしまった。
この聡明で愛らしい皇女様が、非常識に阿保?いやいや!そんな事は無いよ!
でも、セレス殿下は、そのまま話を続けた。
「いや、自覚はあるのよ?!落ち着きのない勢い任せの女だって!さっきの贈り物の時も盛大にやらかしたじゃない」
「確かに、あの時は驚きましたが、殿下はきちんとすべてを話して頭を下げられたではないですか」
周りのみんなも、セレス殿下の必死で真摯な姿に、感銘を受けたくらいなのに・・・
でも、セレス殿下から帰って来た答えを聞くと、思わず納得してしまった。
「普通はあの場面でやらかさないでしょ。エクスポーションを渡して、はい終わりのはずよ?事前に中身を確認していない時点で信じられない失態だわ。私は他国への使者とか、絶対に任されないわね」
「言われてみれば・・・」
冷静に考えれば、贈り物を間違うなんて、相手によっては大問題だよね。
それは、貴族になって日が浅い私でも分かる。
皇女様と思って、萎縮していたけど、話してみると、裏表が無くて
とてもサッパリした女性だった。
こう言っては失礼かもしれないけど、セレス殿下は、あまり貴族らしくない気がする。
***
私は、セレス殿下と、話をしているうちに、緊張が解けて来た。
とても素敵な人なのに、いきなり、自分の駄目な所を自己申告し始めるんだもの。
思わず、笑ってしまって。嫉妬とか、暗い感情も収まって来た。
本当に、お日様みたいな人。
そして、話の最中に、驚く事を聞いてしまった。
「ティナなんか、私に対する扱いは酷いわよ?ああ、ティナって、ルクスの第1夫人ね」
「ティナ様ですか。確かラモラック伯爵の長女でしたね」
確か、『帝国の白薔薇』と言われている、美しい女性だよね。
私が住んでいたアイシスの街は、ラモラック伯爵の領地。
そしてティナ様は、お嫁さんにしたい女性で、真っ先に出て来る人だ。
でも、身持ちが固くて、縁談の申し出を次々に断っているという噂も聞いていた。
そんな、気の難しそうな人の心を射止めるなんて、あの男は意外とやり手なの?
「あの子は、皇女の私に対して、一切容赦無しだよ?一度、大喧嘩になったからね」
「皇女殿下と、大喧嘩ですか?」
女の戦いかな?側室がいると、こういう事が起きるのね。
口喧嘩や、ビンタの応酬とかするのかな?私はそういうのは苦手だな。
「あれは思い出しただけでも冷や汗物ね。あの子、護身術といいながら、とんでもなく鍛え過ぎたみたい、私も皇族の秘伝を使わなかったら危なかったわ」
「どういう喧嘩ですか!?」
とても物騒な話になって来た。
皇族の秘伝って何ですか?!殺し屋に襲われた。の間違いじゃないですか?
「足を踏みつけながら、肘で殴るわ、目付きをした後に、薄ら笑みを浮かべるわ、もう絶対戦いたくない相手よ」
「そ、それは恐ろしいですね。本当に喧嘩ですか?完全に殺しに来ているじゃないですか」
え、えげつない・・・それに、目付きをして、薄ら笑み!?それってもう、完全に暗殺者の顔だよ!
「かく言う私も、寸勁で動きを止めて、首の骨を折りに行ったから、ティナの事を悪く言えないけどね」
寸勁?!それに首の骨を折る?!それは喧嘩とは言いません!殺し合いです!!
「セレス様も大概ですね・・・寸勁を使った金縛りなんて格闘技の奥義じゃないですか。まさか使えるのですか?」
「皇族の秘伝だからね。でも、ティナなんか一度見て真似してきたわよ、それより寸勁を知っているの?」
「わ、私は、名前を知っているだけで、基本の型くらいしか出来ないですよ」
私にはとても無理。拳法の奥義を容易く使えるなんて。凄過ぎるよ。
そして、一度見ただけで、寸勁を返して来る?どういう格闘センスですか!?
「基本の型?エイルも拳法を使えるの?」
「少しだけですよ?治療中に魔物に襲われた時に、撃退出来る程度です」
エイルが、魔物を撃退?
それに、少し齧った程度で、魔物を倒せたら、誰も苦労はしないわよ。
見るからに無害な子と思っていたけど、この子も修羅場を経験しているのかしら?
「いや、少しだけで、魔物を撃退なんて出来ないと思うわよ?」
「元修道女ですので、一応必須科目でしたよ」
それなら納得かな?エイルは真面目そうだから。
きっと、帝国教会の陰湿なやり方に、嫌気が差して辞めて来たのね。
「少し見せてよ。身体を動かせば、少しは鬱憤が晴れるわよ」
「そうですね。それでは鍛錬場に行きましょう」
そして、鍛錬場で、エイルは華麗な型を披露した。
セレスは、エイルの予想以上の動きに驚いていた。
速い上に、攻撃に力が乗っている。まるでティナみたいね。
というか、あの子も、素手で魔物に勝てるんじゃないの?
思わぬ所に、格闘の天才がいたものね。それも2人同時なんて。
ちゃっかり、自分だけを除外する、セレスだった。
「この服ではこれ以上の動きは出来ませんね。もう少し丈が短ければ蹴りも出せますよ」
「うん。エイルは格闘のセンスがあるわよ」
「そうですか?」
「技のキレ、速さ、重さ、どれを取っても実戦レベルね。魔物に通じるという話も納得したわ」
「そんな。照れます・・・そうだ、セレス殿下の技を見せて頂いてもいいでしょうか?」
「私の場合は、相手がいないと発揮しない・・・丁度、そこに打撃用のダミーがあるわね。あれを使っていい?」
「鍛錬用の人形ですね。廃棄予定なので構いませんよ」
「それじゃあ、行くわね」
そして、数分後・・・
全身を滅多打ちにされた後に、
腕と足の関節を破壊されて、首を捻じ切られた、無惨な人形が横たわっていた。
エイルは、セレスの繰り出すえげつない技に、唖然としてしまった。
「これ以上はドレスが汚れるわね。どうしたの?エイル。唖然として」
こんな物を見せられたら、誰でも唖然とします!これって、冒険者も殺せちゃうんじゃないかな?
セレス様は、こんなえげつない殺人技で、大喧嘩をしたのですか?
「この恐ろしい技の数々を、ティナ様は全て凌いだのですか?」
「ドレスを破いて動いたから、もっと激しかったわよ。加えて、奥の手も出したけど、勝負はつかなかったわね。なんとか足を捻って動きを封じたけど、私も利き腕を持っていかれたわ」
「お、恐ろしい方ですね」
「本当にそれね。貴族令嬢から殺し屋に転職したかと思ったわよ」
『帝国の白薔薇』より、『黒薔薇』の方が似合うんじゃないかな?
セレス様も十分恐ろしいけど、今見せた動きよりも激しい殺人技をすべて捌いて、挙句に覚えてそのままやり返すなんて、凄過ぎるよ。
それに、片足と引き換えに利き腕をへし折る?どこまで覚悟が決まっているの!?
でも、一番恐ろしいのは、目付き・・・そんな事、仕掛ける方も、相当に思い切りが必要だよ。
少なくとも、私は絶対無理!それを、薄ら笑みを浮かべて、平気で突いて来るなんて怖過ぎるよ!!
ティナ様は、いったい何者ですか!?
あの男の領地は、修羅の国ですか!!
***
「エイルも、身体を動かしてスッキリした?」
「むしろ、恐ろしい物を見せられて唖然としましたが、気分転換にはなりました」
うん。ティナ様の事は忘れよう。会った事の無い人を悪く言うのは失礼だよね。
おかげで、悩んでいた事なんか、どこかに飛んで行っちゃったよ。
「頭がスッキリしたならいいわ。ネガティブな頭で考えても悪い方向に行っちゃうからね」
「そうですね。私にも経験がありますので、よく分かります」
「私がエイルに言いたかったのは、夫人になったら、殿下も平民も貴族も無いってこと」
「そうでしょうか?」
「貴族の妻なんて、旦那様の子供を産んで、立派な跡継ぎに育てる事が一番の仕事。それ以外はそれ程重要では無いわよ」
「でも、他にも色々と、出来る事があるのではないですか?」
「それを言われると頭が痛いわね。私は、エイルみたいに回復魔法は使えない。魔法自体、全然駄目ね。才能が無い自覚はあるわ」
「しかし、殿下には人を引き付ける魅力があるじゃないですか?」
「私は、夫に振り向いてもらうだけでいいわよ。私から見れば、回復に秀でたエイルが羨ましいわ」
「そ、そんな事!」
「あるの!いい?赤ちゃんが、旦那様が不在の時に熱を出したらどうする?」
「それは、自分で診て、看病をしますけど」
「私はそれが出来ないのよ。その時は誰かに助けを呼ぶくらいしか出来ないわ」
「でも、殿下が一声かければ、お医者様がすぐに来てくれるのでは?」
「そうね。私の場合はそうするわ。エイルと私では、持ち札が違う。でも違いはそれだけなのよ」
「あ・・・」
「分かった?血筋や家柄なんて些細なものなの。他人と自分を見比べて劣等感を感じる必要なんて無いわ。
跡継ぎを生んで、夫を愛して、愛されればそれでいいのよ。更に、子供の為に自分が何を出来るか考えて行動する事。それをしっかり考えていれば、妻に優劣なんて無いわよ」
「セレス殿下のお話を聞いて、少しスッキリしました」
「エイルとは、長い付き合いになりそうだからね。お互い頑張ろう!」
「はい。こちらこそよろしくお願いします」
こうして、私は、セレス殿下と友達になった。
***
そして翌日
バイデル侯爵の館から出ると、イリスさんが出迎えてくれた。
「お疲れ様です。セレス様」
「うん、ありがとう。イリスさん」
「正直、贈り物を間違えたと聞いた時は、驚きましたよ?」
「う・・・その、ルクスに報告する?」
「私からあえては伝えませんが、曙光という連中がすでに伝えていますね」
「ああ、ルクスの情報網を甘く見ていたわ。これは帰ったらティナからお説教されそうね」
「ふふっ。頑張って下さい」
そういえば、勢いで、エイルにティナの武勇伝を語ってしまったわね。
これは、長い説教になりそうね・・・今から、頭が痛いわ。
帰った時に、妊婦となったティナをいかに刺激しないか、頭を悩ませるセレスだった。
セレスとエイルは、無事に友達になりました。
ティナとは若干誤解がありますが・・・
評価していただけると、嬉しいです。
モチベに繋がります。




