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『27 戦後』

戦後処理

side グラッセ王国

俺が、妻二人の喧嘩で、頭を痛めていた頃、


グラッセ王国では、エルスト帝国へ向けて、

先行したハフマン伯爵の軍への援軍にルーベンス子爵が準備を進めていた。


そして、エルスト帝国に入った本隊と、連絡していた兵が、慌てて戻って来る姿が見えた。


「伝令が慌てている?一体、何があったのだ?」


この戦は、定期的に起こる小競り合いの様な物。

毎度の事ならば、お互いに、大した被害は出ずに、痛み分けで終わる。

いわゆる、模擬戦みたいな物だ。


しかし、大慌てで帰って来た伝令からは、驚愕の事実が告げられた。


「全滅だと!?」

「はい!指揮官のハフマン伯爵、並びに副官のダント男爵は戦死、その他の兵士も、すべて討ち死にです!」


まさか、貴族に被害が出るとは思わなかった。

いや、待て!今何と言った?兵士も、すべて討ち死にだと?馬鹿な!


「それで、生き残った兵はどうした!」

「一人もいません!すべて討ち死にです!」


冗談だろう・・・兵の中には、純粋な兵士ではない、農民や平民もいたのだぞ?

魔王軍に突撃したのではない。帝国に戦争に行ったのだ。


それでは・・・うっ!き、気分が悪い!は、吐き気がして来た。

しかし、確認せねばならないだろう。


「まさか・・・皆殺しにされたというのか?」

「はい!誰一人として、生還しておりません!遠くからすべての兵士が殺される所を確認しました!自分もこの目を疑いました」


嘘の様な悪夢だ。

3万の国民が、異国の地で全て死に絶えた。

それも、小競り合いで済むはずであろう戦いでだ。


「これが戦争と言えるのか?一方的な虐殺ではないか・・・」

「我々が戦端を開いた手前、帝国側に苦情を言う事も出来ず・・・」


確かに、グラッセ王国から仕掛けた。それは認める。

しかし、戦争にもルールがあるだろう!

徴兵で集めた兵士まで、皆殺しにするとは!完全に禁忌の域だ!!


「限度があろう!兵士も皆殺しとは、人の所業とは思えん!」

「はい・・・自分もあの光景を思い出すたびに、何度も嘔吐しました。うっ・・・ま、まさに悪魔の所業です」


しかし、分からない事がある。

何も無い、荒れた平野で小競り合いをするだけだろう。

なぜ、そんな戦闘で、そのような結末になるのか。


「ルーベンス様。これ以上、イーリスの街への侵攻は無理と思われます」

「そうだな・・・待て、何だ?そのイーリスの街というのは?荒野の小競り合いではないのか?」


「ここ数か月で、出来上がった街です。ハフマン伯爵は、ルーベンス子爵にはすでに伝えたと」

「何だと!私は、その様な話は聞いていないぞ!?何だ!そのイーリスの街というのは!詳しく説明しろ!」

「は、はい!」


その後、ルーベンス子爵は、伝令から詳しい話を聞いた。


ここ最近、突然あの荒野に、一人の貴族が現れて、あの荒野にイーリスという街を作り上げたらしい。

そして、その街の防衛力は、王国兵3万を、一方的に蹴散らす途轍もない力を有していた。

何よりも、魔神の様な男が現れ、槍を一振りしただけで、1万の兵が無惨に八つ裂きにされたというから、悪夢とうい他は無い。


「いつの間に、この様な恐ろしい街が・・・しかし、なぜハフマン卿は、私に黙っていたのだ?」

「私は、ハフマン伯爵からは、すでに伝えたと言われただけです。しかし、イーリスの街を納める、ルクス子爵の、妻の名前は絶対に口外するなと厳命されておりました」


「子爵だと?!上流貴族ではないか!しかし、その命令は何だ?意図がさっぱり分からない」

「はい。私も疑問に思いましたが、ハフマン伯爵の厳命であれば仕方なく」


「伝令では逆らえまい。しかし伯爵が戦死しては、最早意味もなかろう、それで、ルクス子爵の妻は誰だ?」

「帝国で美女と名高い、伯爵令嬢ティナ=ラモラックと、第4皇女セレス=エルストです」

「何だと!」


ようやく、すべてが繋がった。

ハフマン伯爵、いや、あの豚野郎は、女目当てで、イーリスの街に突撃して、返り討ちに遭ったのだ。


私に言わなかったのは、確実に反対されて、事が公になるからだ。

加えて言うならば、ゲレッグ侯爵に言わなかったのは、横取りされるからに違いない。


人口は3000程度と聞いたが、逆に考えれば分かるだろう。

数か月足らずで、無人の荒野に、人口3000人の街を作り上げた。

無論、近隣の諸侯と交易を行う、街道も整備したはずだ、そうでなければ、荒野に人は集まらん。

これが出来る貴族が、王国にいるか?少なくとも私には無理だ。


国境沿いの地方領主に、上流階級の子爵位が住んでおり、

更には、帝国屈指の美女が二人も嫁いでいる。

一見、無防備に見えるが、恐ろしく危険な相手だと理解出来ないのか?


何よりも、セレス=エルストは皇族だ。

つまり、あの賢帝エルスト4世が娘を任せても良いと、認めた男だぞ?


どう考えても、入念に下調べを行い、慎重に事を進める必要がある相手だ。

間違っても、数に物を言わせて、無策で突っ込むなど、愚かにも程がある。


それを、目先の欲で、自分を見失い、兵まで巻き添えにして全滅したのか!

何という、度し難い失態だ!!


だが、この事実は、民にはとても言える話ではない。

この様な、愚行に付き合わされ、家族を失った者に、どう説明すればいいと言うのだ!

あまりにも、救いが無さ過ぎる。


それに、今いる国境沿いは、ハフマン伯爵よりも醜悪な、ゲレッグ侯爵の領地だ。

あの豚は、醜い欲望の犠牲となり、消息不明となったエイル殿の心、を著しく傷つけた屑だ。

教会の希望だったあの方は、恐らく生きてはいまい。自ら命を絶っただろう。

・・・いや、今はそれを考える時ではない。


この事実が知れたら、ゲレッグ侯爵は、間違いなく、ハフマン伯爵の二の舞を繰り返す。

二匹目の豚がミンチになるのは喜ばしいが、これ以上の国民の犠牲は避けなければならない。


「とてもではないが、真実は公表出来ぬ・・・ここはゲレッグ卿の領地だ」

「心中お察し致します」


ルーベンス子爵は、グラッセ王国では珍しい、まともな性格の貴族だった。

とはいえ、侯爵と争う程、無謀でも無い。

己の立場を考えて、その場の流れに合わせて行動する、風見鶏と揶揄される人物だ。


ゆえに、ここで事実を美化する事にした。


「本隊が全滅したのであれば、これ以上の侵攻は無理だ。諸侯にはこう告げよ」

「はい、拝聴致します」


「ハフマン伯爵、並びにダント男爵は、イーリスの街に突如現れた要塞に、危機感を覚え、急ぎ3万の兵で破壊を試みたが、名誉の戦死を遂げられた!付き従った兵は、最後の一人になるまで、果敢に戦い散って行った!誠に持って見上げた忠義である!」

「ルーベンス様?」


「イーリスの街の要塞は、一撃で1万の兵を屠る魔神が守護している!3万の兵を無傷で蹴散らす難攻不落の砦と化した!

我々は、戦死したハフマン伯爵の犠牲を無駄にしない為にも、兵を引き上げ、慎重に議論する必要がある!」

「・・・」


伝令はあまりに美化された作り話に、唖然とした。


「そういう事にしなければ、この件は綺麗に収まらんよ。イーリスの街には難攻不落の要塞があり、恐ろしい魔神が住んでいた。分かったな」

「承知しました!その様に、諸侯に伝え広めます!」


伝令が立ち去った後、

ルーベンス子爵は、イーリスの街の方角に目を向ける。


小競り合いで済むはずの戦争で、ハフマン伯爵とダント男爵が、同時に討ち死にしてしまったか。


これから、ハフマン伯爵領で跡取りの争奪戦が始まるだろう。

あの豚は、子供の数は無駄に多いからな。

その上で、帝国の女にまで手を出そうとして、討ち死にしたのだから、まったく持って度し難い。


素直に言おう。本当に死んでくれて良かった。

ダントは、まともな考え方をする奴と思っていたが、買い被っていたようだ。


あの、無能を処理してくれた事には礼を言う。

それに、通例となった、帝国との茶番の戦争もこれで無くなるだろう。

つまり、この近隣の治安が復興するという事だ。


しかし、3万人の王国兵の虐殺は、到底、看過出来る事では無い。

おかげで、やる事が山積みだ。もはや戦争どころでは無いな。


そして、ルーベンス子爵の伝令が各地に渡り。

『イーリスの魔神』は、王国全土を震撼させる、恐怖の代名詞となった。


グラッセ王国は、打開策がまったく見つからず、

加えて、元々荒野だった土地に執着する必要もないので、

国境沿いから、すべての兵を撤退させるのだった。

グラッセ王国サイドの話でした。

腐敗した国家にも、まともで優秀な人がいます。

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