『16 魂の色』
叩くなら本陣
所変わって、黒鷲のアジト。
カルロの裏切りに、幹部達は騒然となっていた。
「裏切り者のカルロを殺せ!」
「ここが黒鷲のアジトか。いかにも暗部といった、随分と辛気臭い所だな」
俺は、カルロに、この場所を教えてもらった。
叩くなら、元凶を直接叩くに限る。
「な、何だ!貴様は!いきなりどこから現れた!」
「あら?いい男じゃない」
「ロゼリア。死体ならくれてやる。余計な事は言うな」
「はいはい。分かったわよ。棟梁」
どこから現れたと言っても、ただの転移魔法だが、この男に説明しても理解出来まい。
そして、目の前の2人は、一目で、手遅れと理解した。
「カルロから聞いていたが。お前らも屑以下のカスの様だ」
「カルロだと?!まさか貴様が、カルロを!」
「手遅れのヤツはいらん。そこの2人。随分と魂が汚れ切っているな。真っ黒だ」
「はっ?私?」
「この、黒鷲の棟梁たる、ゾルゲ様を名指しでいらぬだと?いい度胸だ!」
魂には色がある。
俺はそれを見分ける術を、あのダンジョンで、セロから会得した。
人の心に干渉するのは、闇の暗黒龍セロの十八番だ。
セロは闇属性のスペシャリストだが、決して悪ではない。むしろ思慮深くて慈悲がある。
アンデットにしても、死を冒涜している物ではなく、
死にきれない者の無念が晴れて浄化するまで、セロが気を利かせて留めているに過ぎない。
聖属性の光輝龍アストラの方が厳格で容赦がないだろう。
人は善悪を併せ持つため、大抵がグレーだ。かくいう俺もグレーだからな。
だが、ほんの一握りではあるが、黒一色の漆黒が存在する。
漆黒の魂は善の心が無いため、教育不可能だ。生かしておいても、何もいい事が無い。
そして、棟梁と自己申告したゾルゲと、ロゼリアという不気味な女は真っ黒だった。
「お前達は魂を冒涜し過ぎた。自分が手遅れの自覚はあるか?」
「魂?くだらん戯言を」
「あら、正解。か弱い子が悲鳴をあげて泣き叫ぶのが、一番興奮するのよね。あなたはどんな声で鳴くのかしら?」
「俺の事より、自分の心配をした方がいいぞ、死霊使いの女。特に背後には気を付けた方がいい」
「背後?・・・って、な!何よ!これは!いつの間に!」
俺は一つの拷問道具をロゼリアという女の背後に設置していた。
マジックストレージから取り出して、目的の空間に出すなど造作もない。
「鉄の処女というらしい。使い方は見た目通りだ」
「ま、まさかって!身体が動かない!私に何をしたのよ!」
人がスッポリと収まる形だが、鉄が熱で赤く燃えており、
挟まる所に、鋭い無数の棘がついている。
これをどう使うかなど、見れば馬鹿でも分かるだろう。
「応える義理はない。さっさと挟まれて死んでくれ」
「ち、ちょっと!待っ!」
ガシャン!
俺は、ロゼリアの言葉に効く耳持たずに、鉄の処女を起動させた。
「ピギィ!ギャアアアア!!!」
「全身串刺しで焼かれているのに、悲鳴を出せるのか?流石に死霊使いだけあって、耐性が高いみたいだな」
「ご、ごの!わだじに!よぐも!」
「成程、不死の法を自分にもかけているのか、死霊使いは伊達では無いようだ」
「ご・・・ごろじでやる!」
鉄の処女と会話をする絵面は、なかなかにシュールだ。
だが、俺に拷問を楽しむ、趣味は無い。
さっさと終わらせるとしよう。
「ところで、その灼熱は普通の熱ではないが、そこは理解出来ているか?」
「ご!ごれは!まさが!せ、聖属性!」
残念ながら、大外れだ。
行動阻害の概念で動きを封じて、熱を封じ込める為に次元を隔離、駄目押しにワグナスの剣から種火を出して術式にブチ込んだ。
改変した摂理で身動き一つ取れず、次元隔離された空間で無限に浴び続ける、獄炎竜の業火。
正解はまったくの別物だが、説明するのも面倒だ。
「似たようなものだ。そこから抜け出せると思わない事だ」
「あ、ありえない!わだじが!そんな!ああああああ!!!!」
もっとも、ここから抜け出せるならば、あのダンジョンの上層で生きて行けるだろう。
それ程に、抜け出しようがない地獄を作った。
そして、ようやく、ロゼリアという女の声が聞こえなくなった。
「ロゼリア!て、テメエ!よくも・・・お前ら!何を怯えていやがる!」
「ふ、震えて手が動かねえ・・・」
「棟梁・・・この男は規格外です・・・私も身体が竦んで動けない・・・」
「情けねえ!それでも黒鷲の幹部か!ここは俺が!」
ふむ、この場に似つかわしくない、知的な男がいるな。覚えておこう。
さて、目の前のゴミを処分するか。
「そろそろいいか?雑魚のお前にかける時間が惜しい」
「このゾルゲ様を雑魚だと!?・・・な、何だ!ここは?!」
俺は牛の形をした拷問器具にゾルゲを封じ込めた。
魔力を込めるだけで、相手を収納するという優れものだ。
これもダンジョンで拾った物だった。
あのダンジョンには、この様な拷問器具も、潤沢に置いてあった。
確かに、美術品として見れば、悪くない作りではある。
目の前の拷問器具も、純金や熱耐性の高いミスリル鉱を贅沢に使った逸品だ。
ヴォルクスも何も考えずに、適当に集めたのだろう。
それでも、品質が最高級なのがあいつらしい。
「焼却炉の中の気分はどうだ?お前には勿体ない、特上の処刑場だ、泣いて喜べ」
「焼却炉だとっ!まさか!や、やめろ!」
「お前にかける情けはない。さっさと死ぬがいい」
「びゃああああ!!!熱、熱づい、ダズゲ・・・ヒギャアアアアァァァ!!!」
これは、悲鳴を楽しむという趣向の拷問道具だが、俺にそのような趣味は無い。
よって、ロゼリアに使った獄炎で、即座に灰になるように、上方調節済だ。
程なくして、ゾルゲの悲鳴も止んだ。
この2人を、わざわざ拷問器具に閉じ込めたのは、
他のメンバーへの威嚇もあるが、倒すのに時間がかかるからだ。
始末した2人が、厄介なスキルを持っている事は、最初に見た時に分かった。
このゾルゲという男も、食いしばりという、即死状態から、蘇生するレアスキルを持っていた。
ロゼリアに至っては、最初からアンデットみたいな物だ。
普通に殺す事は容易いが、2人に何度も蘇られると面倒だ。
それで、他の幹部も参戦すると泥沼だからな。
ゆえに、速攻で退場してもらった。
ゾルゲとロゼリアの魂の消滅を確認した後に、
俺は、残った幹部の方を向いた。
こいつらの魂の色は、黒に近いグレー。つまり、まだ使えるという事だ。
「さて、ゴミは片付いたな」
「ひいっ!」
「残ったお前達には、色々と喋ってもらう。さあ教育開始だ」
「な、何なんだ!お前は!」
「お前?口の利き方が、まるでなっていないな。まずはそこから叩き直すとしよう」
俺は、残った4人の黒鷲の幹部を、まとめてダンジョンに放り込んだ。
***
そして、ダンジョンから帰って来た時には、精悍な顔付きの男達が目の前にひれ伏し、
頭を垂れて俺の言葉を待っていた。
「さて、諸君。生まれ変わった気分はどうだ?」
「最高の気分であります!ルクス様!何なりとご命令を!」
「我ら!ルクス様の恩情で生かされているゴミ屑であります!」
「魂をかけて、絶対の忠誠を誓います。尊き方」
「神。ご命令を!」
誰が神だ。
しかし、元のステータスがいいのか。目の前の連中も、カルロと同等の素質の持ち主だった。
今では、Sランク冒険者として、充分通用する力を付けている。
もっとも、あのダンジョンで鍛えたのだ。それくらいになってもらわないと困る。
「この中で統率に優れているのはセスか。お前が黒鷲のリーダーとなれ。カルロにも追って伝える」
「恐れ入ります。拝命仕りました。神よ」
こいつは、黒鷲のアジトに来た時に、見所があると感じていた男だ。
セスは武術の達人だが、参謀をこなす知恵と管理能力に加えて、
黒鷲では、上流貴族と繋がりを持つパイプ役を担っていたため、
貴族にも劣らない立ち振る舞いを身に着けている。
暗部でも、ここまで有能な実力者は、貴重な人材だっただろう。
実際に黒鷲でも、処分した2人に次ぐ、No.3だったらしい。
そして、セスの忠誠心は、信仰の域に達していた。
良い人材を確保出来たので、喜んで熱を入れて教育し過ぎてしまった。
「我ら黒鷲はルクス様の為に存在しております。御心のままに、何なりとご命令を」
「今回の黒幕、バイデル侯爵について詳しく話せ」
「あの豚は、ラモラック伯爵殿と同世代の中年でありながら、
ティナお嬢様を無理矢理側室とし、慰み者にしようと企む。
貴族の風上にも置けぬ外道であります」
「是非、我々に汚名を雪ぐ機会を!」
「主よ、どうか慈悲を!」
伯爵と同世代の、豚の様に肥えた中年が、娘の様な年のティナに欲情したのか。
絵に描いた様な、悪徳貴族だな。誠に持って度し難い。
「どのように処する?具体的なプランを述べろ」
「僭越ながら、生きている事を後悔するほどの拷問で苦痛を与えた末、
醜態を帝国全土に晒す末路がよろしいかと具申致します」
「私もセスに同意します。すぐに処理致しましょうか?」
思わず同意しそうになったが、上流貴族を暗殺というのも物騒な話だ。
俺は暗部のやり方を継ぐ気は無い。悪目立ちする事この上ないからな。
黒鷲の連中も、元が元だけあって、考え方が物騒でいかん。
ここは、マイルドな大人の対応を見せて、連中に学習させる事にしよう。
バイデル侯爵には、テストケースになってもらおう。
「相手が外道でも、一度は話し合うべきだろう。急ぎ話し合いの場を用意せよ。
加えて、バイデル侯爵の身辺情報も詳しく調べ上げて、俺に報告するのだ。
処分はそれから決める。必ず生かして、ここに連れて来い」
「はっ!直ちに!」
黒鷲の幹部達は速やかに行動を開始した。
ひとまずは、黒鷲の教育は完了したと思っていいだろう。
忠実な僕が増えていきます。
次回は自分のお気に入り回です。