『10 腐敗の王国2』
王国は手遅れ・・・
そして、街を出て国境まで行こうとするが、ゲレッグ侯爵の私兵が待ち構えていた。
「何か用事でも?」
「その娘を渡してもらうもん!」
こいつ、競りで卒倒してから頭がおかしくなったのか?文脈が色々と酷い。
「競りは俺の勝ちだ。これは立派な犯罪行為だぞ?」
「貴族であるワシが負ける訳に行かないんだブヒッ!」
グラッセ王国では豚でも貴族が務まるらしい。
おとなしく豚肉になってろよ。
「話にならないな。誇り高い貴族ならば、約束は守るものだ」
「貴族は下賤な平民に何をやっても許されるんだ!グヒッ!」
会話が成立しない。こんな奴と慣れあっていたら、アレンも頭がおかしくなるか。
正直、話すのも不愉快になって来た。
「目障りだ。消え失せろ」
「な、なんだと!無礼な!お前ら、こいつを殺せ!」
「「「はっ!」」」
そして、兵士達が俺を取り囲もうとする。
「殺せか。ならば俺もお前達を殺す気で抵抗するしかないな。それが道理というものだ」
「な、何だと!」
俺はエイルを脇に抱えた。そこいらを歩いて相手に捕まったら面倒だ。
パタパタと手足を動かして抵抗しているが、邪魔にはならん範疇だろう。
それに、俺を守る障壁にエイルを入れる必要がある。少し熱いだろうからな。
そして、マジックストレージから一振りの剣を出す。
ヴォルクスに挑む前に、ワグナスから貰った、紅蓮を纏った炎の剣だ。
獄炎剣ワグナス。
自分の名前を武器につけるのは、センスの賛否が分かれるところだが、
ワグナス自身の力を封じ込めた、例のダンジョンでも最高峰の攻撃力を誇る魔剣だ。
こんな物騒な剣を渡して来るあたり、ヴォルクスは守護者達から嫌われているのか?
「な、何だ!?その燃えている剣はっ!?」
「証拠を隠滅するには最高の魔剣だ。塵も残さんからな」
「ひ、ひいっ!」
「選ばせてやろう。ここですっぱりエイルを諦めるか、それとも俺に挑んで領地ごと灰になるかだ」
俺の周りにいた兵士も、俺の剣から発する強烈な熱気で、すっかり戦意を喪失していた。
「な、なんて剣だ・・・触れた地面が沸騰している」
「地面を溶岩にする剣など聞いた事も無いぞ!」
「見ているだけで倒れそうな熱さだ・・・とてもじゃないが近寄れない!」
「俺は自分の剣を見せただけだぞ。さて久しぶりに軽く振ってみるか」
「ばっ!止せっ!」
ブォン!
ゴオオオオオォォォォーーーー!!!
剣先から、凄まじい熱量の塊が放出されて、近くの岩場を融解させた。
そして、軌道にあった地表に、溶岩の道が出来上がる。
ワグナスが放つ灼熱のブレスに比べれば、マイルドな攻撃だが、
貴族の私兵程度なら、戦意を挫くには十分過ぎるだろう。
「久々に使うから、本調子ではないな」
「あの威力で!?」
「100回くらい、素振りをすれば、感覚が戻るだろう。ここいら一帯が溶岩の海になるが、自業自得というやつだ」
「ま、待て!エイルは諦める!だからその剣を仕舞ってくれ!」
やっと、ゲレッグ侯爵から、人間の言葉が出てきた。
こいつ等は追い詰めないと真面目に生きようとしない。
俺が一番嫌いなタイプだ。
「それでは、通らせてもらう。分かっていると思うが、この事は他言無用だ。
下手な真似をすれば、この剣を貴様の領地に向けて全力で打ち込む」
「わ、分かった!ワシも領地を火の海にされてはたまらないっ!もう手は出さないっ!ワシはお前達と会っていない!」
「いい答えだ」
こんな豚でも必死になれば少しは知恵も回るらしい。
俺はエイルを小脇にかかえて、帝国を目指した。
***
「ん・・・」
「ああ、もういいか。今離してやるから暴れるなよ」
小脇に抱えるといっても、彼女の身体に抱き着いている形だ。
柔らかく、そして暖かい感触が手に残っていた。
無抵抗の女の子の身体に触れるのは、紳士的ではなかったな。
そして、帝国との国境に来た。
「帝国へ行く。この奴隷もだ」
「通行料は金貨100枚だ。2人で200枚だな!それでなければここは通すなとアレン様・・・」
「金貨200枚か。ならばここに置いて行くぞ」
「から言われって!えええ!!!」
「これで、文句は無いな。通るぞ」
「いや、ま、待った」
「きちんと払っただろう。言った事は守れよ」
「いや、金貨200枚と言ったが、誰も通すなと勇者様のご命令だ」
「なんだそれは?無茶苦茶だな」
「無茶でも何でも、ここは通さん!」
「では、金を返せ。なぜ懐に入れている?」
「これは預かっておく!不審な奴め!」
「まるで賊だな」
「な、なんだと!?」
「命令で仕方なくなら、見逃そうと思ったが、お前達は喜んで悪事に加担しているな?」
「だったら何だ?役人に手を出したらどうなるか分かっているのか!?」
「面白い事を言う。ならば俺の言う事を聞くように、軽く調教してやろう」
「な、何だと?」
「すぐに、俺に従う事に喜びを感じる様になる」
「ち、近寄るんじゃねえ!」
「そうだな、コレなんてどうだ?ペンチという器具らしいが、これで指を挟んで反対側にクイッといってみるか?」
「ヒ!ヒイッ!」
ダンジョンには太古に使われたとされる拷問器具もあった。
中には聖遺物と言われる物もあったが、まあ、ロクでもない物なのは確かだ。
マジックストレージに余裕があるので、念のためにいくつか収納してある。
そして、その使用方法もご丁寧にスクロールに書いてあったので、ついでに習得した物だ。
ついつい、何でも覚えておくクセが悪い方向に働いてしまったと思っていたが、意外と便利かもしれない。
俺は手頃な拷問を、目の前の腐った連中に施した。
***
「もう一度聞いてやろう。通っていいか?」
「ハイッ!どうぞ、お通り下さいッ!」
すっかり従順になった。効き目は抜群のようだ。
全身を動けなくした後に、四肢の先端を徹底的に責めては治療するという、初歩の拷問だったが。あっさり陥落した。
多少、発音がおかしいが、精神崩壊はしていないはずだ。多分。
「今日は、誰もここを通らなかった。いいな」
「ハイッ!今日は誰一人、検問を通っておりません!」
「勇者に聞かれてもそう答えろよ?」
「もちろんであります!教官殿!」
誰が教官だ。
まあいい、骨の髄まで調教が行き届いたと判断した。
こいつ等が俺を裏切る事は無い。そういう思考はすべて叩き壊した。
俺はエイルを連れて、堂々と検問を越えて、帝国領に入った。
***
数日後、アレンは、ゲレッグ侯爵の元に来ていた。
「エイルの具合はどうでしたか?ゲレッグ侯」
「アレン殿!話が違うではないかぁ!金貨300枚で買えなかったですぞ?」
「何?あんな傷物の小娘に金貨300枚以上の値をつけるヤツがいたのですか?」
「ルクスとかいう男が金貨1500枚で連れて行きおった」
「せ、1500枚!その男、馬鹿か?」
「ワシも大恥をかいた。勇者殿が任せろと言っていたが、話が違うではないかっ!」
「気が狂っているとしか思えない。エイルに金貨1500枚?」
「聞いているのか?侯爵であるワシが民衆の前で大恥をかいたのだぞ?すべてお前のシナリオとやらに乗ったらこうなったのだぞ?」
「う、うるさいっ!僕も困惑しているんだ!」
「な、何だね!その態度はっ!ワシの方が爵位は上なのだぞ?身の程を弁えたまえ!」
「黙れよ、死にたいのか?」
「ぐひっ!?」
「爵位は低くても、僕は勇者なんだ。そっちこそ身の程を弁えろよ」
「わ、分かった!いや分かりました。だから剣を仕舞って下さい!」
「しかし、ルクスって誰だ?僕に恥をかかせるなんて。お前は何か知っていないか?」
「し、知らない。あんな男にはもう関わりたくない!」
「オークションの後に帝国の方角へ消えたらしいが、そこはお前の領地だろう」
「来てない!わざわざオークションで負かせた貴族の領地を通る馬鹿はいない!恐らく回り道をしたか別の国に行くはずだ!」
「それもそうか、国境の警備兵に聞いても、誰も通していないらしいからな」
そして、アレンが不愉快な事に顔をしかめている所に、勇者パーティーの2人、ユミルとダークが現れる。
「そんな、正体不明の男なんてどうでもいいじゃない」
「・・・次の依頼が来ている」
「とにかく、教会にゴミの代わりを寄越せと伝えろ。次はもっと従順で抱ける女にするんだ」
「アレン・・・ユミルの事も少しは気遣ってやれ」
「ダークは僕に意見する気?」
「流石にユミルが気の毒に思えてな、俺は2人に幸せになって欲しいんだ」
「ふん!ボクは欲しい物は何でも手に入れる。二度と口出ししないでもらえるかい?」
「分かった。これが最初で最後だ。もう言わない」
機嫌を損ねたアレンは高級娼館へ遊びに出かけてしまった。
最近は、ユミルの身体に飽きたのか、ユミルの事は眼中にすら入っていなかった。
***
「ねえ、ダーク。アレン変わっちゃったね」
「俺の気持ちは変わらない。俺はアレンが助けてくれなければ死んでいた男だ」
「さっきの言葉。嬉しかったよ」
「本当の事を言っただけだ。俺はお前達が幸せになってくれれば、それでいい」
「でも、アレンはエイルを襲った。嫌がるあの子の服を破り捨てて、無理矢理・・・」
「アレンは酒に酔っていた。あれは不幸な事故だ」
「あの子、隠し持っていた短刀で自分の喉を刺した。純潔を守る為に」
「そうだな・・・」
「でもアレンは、そんな健気な子を、ふざけるな!血で汚れたじゃないか!と言って蹴り飛ばした」
「・・・」
「首から血を流して、泣きながら動かなくなっていくエイルを見て、ショックだった。
アレンはそんなエイルを何度も踏みつけた。あんなのアレンじゃない・・・人間のやる事じゃないよ・・・」
「それくらいにしておけ・・・お前を庇いきれなくなる」
「アレンの事は好きだったよ。でも、あの日からアレンが怖くなった。エイルみたいに捨てられる事に怯えているの。
半年前に将来を誓い合ったのに、今ではアレンが何を考えているのか分からない。もうどうしていいか分からないよ」
「俺は変わらない。いつかアレンも分かってくれる日が来る」
「そんな日は来ないよ。アレンはもう私を女として見ていないもの」
「ユミル・・・」
「ねえ、ダーク。慰めてよ」
「や、やめろ・・・俺はお前にだけは手は出せない!」
「もう疲れちゃったよ。いつまでも変わらないダークの傍が一番落ち着くの」
「待て、冷静になれ!自分が何を言っているか分かっているのか?俺も男だぞ」
「ねえ。ズルいかもしれないけど。知っていたよ?ダークって私の事好きだよね」
「!」
そして、エミルは服をはだけさせた。そしてユミルに似合う白く清楚な下着を見せつける。
「今なら、この身体をダークの好きにしてもいいんだよ?アレンは私を女として見ていないんだから」
「だ、駄目だ!俺はアレンとエミルに幸せになって欲しいんだ」
「強情なんだから。本当にいい男ね。でもダークだって、私の下着姿に興奮しているじゃない」
「獣だ・・・」
「ん?なーに?」
「俺も獣だ!惚れた女にこんな姿で誘惑されて我慢出来るかっ!今夜は寝られると思うな!」
「いやん。ケダモノ♪」
今の勇者パーティーに、かつてのチームワークは欠片も残っていなかったのだった。
次からは、帝国での話になります。