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『1 追放』

連載に挑戦します


主人公が追放されてから、鍛えまくって戻ってくる物語です

たのしんでいただければ幸いです

グラッセ王国

大陸一の国土と歴史を持つ国であり、度重なる魔族の襲撃にも防衛出来る強国である。


この国は、魔王を退けた伝説の勇者、グラッセルによって建国された。

勇者とは教会によって選ばれた、特別な存在で、神に祝福された人間。


しかし、皮肉にも、国が建国から時が経つにつれて、人の欲望が政治を蝕み、

貧富の差の激しい、腐敗した貴族社会と成り果ててしまった。


そして、勇者もその例外ではなかった。


***


俺の名はリック。

冒険者ギルドから、勇者パーティーに勧誘されて参加した魔法戦士だ。


魔法戦士という職業は、剣と魔法を使えるが、剣は剣士に及ばず、魔法は魔法使いに劣る。

何でも出来るが、突出した能力が無い器用貧乏と言われる職業だ。

その為に、冒険者ランクを上げるのも一苦労だが、Aランクまで到達できた。


しかし、剣を魔力で強化するなど、工夫次第で色々な戦い方を編み出せる、戦いの幅の広さは気に入っている。

俺は、努力をすれば報われる職と思っている。


そんなある日、俺は勇者アレンに呼び出された。


「リック。君はこのパーティーには必要ない。今日限りで出て行ってもらうよ」


俺は、突然戦力外通告を突きつけられた。

自分で言うのは、自惚れかもしれないが、俺はある程度の実力はある上に、

このパーティーでも十分役に立っていると自負している。

正直、アレンの言っている事が分からなかった。


「なぜ、いきなりそんな話になる?」

「ゴブリン如きに苦戦する奴は、このパーティーにいらないって事さ」


確かに俺は前の戦いで、ゴブリンと交戦して怪我を負った。


だが、相手のゴブリンは、「ギグラス」という呼称を持つ、ゴブリンロードの変異種だ。

とてもゴブリン族とは思えない程の、高い知性と強靭な肉体を誇る。


魔物のランクで言えば、間違いなくSランク相当。

下手をすればゴブリンキングにも匹敵する。

確実に倒すには、一流の冒険者が討伐隊を組んで、対応するべき相手だ。


しかし、アレンはギグラスを一目見ると。


「醜いゴブリン如き、勇者の僕が相手をするまでもない。リック一人で相手をしろよ」


と言って、戦闘を俺1人に押し付けた。


ギグラスは俺よりも強い強敵だ。ソロなんて冗談じゃない。

防御に徹してなんとか凌いだが、愛剣や装備はボロボロにされて、今は修繕に出している。

しかも、修繕費はすべて俺の自腹だ。

俺もこの扱いには、腹を立てていたので、アレンに反論した。


「ギグラスは別格の敵だぞ。一人で相手をした、俺の身にもなってくれ」

「何?その態度。活躍の場を譲ってあげたのに、それに応えないどころか、逆ギレかい?」


アレンのあまりの態度に、俺もカチンと来た。

ゴブリンロードに固有名詞がある時点で、まったく別物の敵だと気付かないのか?


「そこまで言うなら。お前はギグラスに勝てるというのか?」

「答えるまでも無いね。僕は鑑定持ちだぞ?敵のステータスは完全に把握している。あんな雑魚に防戦一方とは君には失望したよ」

「鑑定だと?」


俺はアレンの言葉に唖然とした。

鑑定を持っている。だから何だというのだ?

確かに鑑定は相手の正体を見破る、人気のレアスキルだ。


しかし、ギグラスに限らず、戦闘時はどのような相手にも能力のブレ幅がある。

そして、強い奴程、通常時と戦闘時のブレ幅が激しい。

姿を変える奴はまだ分かりやすいが、外見を変えずに中身が別物になる敵は厄介極まりない。そしてギグラスは後者だ。


一言で言えば、戦闘時の鑑定ほど、アテにならない物は無い。

俺はアレンの認識の甘さに不安しか覚えなかった。


「本気で言っているのか?戦闘で鑑定に頼るのは危険だぞ?強い奴ほど戦っている時に能力が激しく変化する」

「自分が鑑定のスキルを持っていないから、次は僻みかい?君にはうんざりだね」


いや、持っていようがいまいが、戦闘時に鑑定に頼る自体、ありえないだろう。

鑑定する度に、能力が変わったら。誰でも混乱する。

実戦では鑑定よりも、直感と柔軟な対応力を磨くべきだ。


俺も魔族に故郷を奪われた人間だ。

勇者に活躍してもらいたい、という気持ちに変わりはない。


「アレン!少しは人の話を聞け。お前、戦場を舐めていないか?」

「リックこそ、僕に対して態度が大きいよね?身の程を弁えろよ」


アレンも、かつては仲間想いの、優しさと強さを兼ね備えた奴だった。

しかし、国王から貴族に取り立てられ、怪しげな雰囲気の貴族と付き合い始めてから、性格が変わってしまった。


今では、鍛錬で腕を磨く事を辞めて、毎日、貴族達と高級娼館で豪遊三昧だ。

俺を含め、パーティーメンバーの言葉に耳を貸す事は無く。

勇者パーティーとは名ばかりのワンマンパーティーに成り果てている。


「昔のお前は、仲間の声を聞いてくれる、優しい奴だったがな」

「いつの話をしているのさ。貴族の僕と平民のリックが対等なワケないだろ?常識で考えなよ」


もう、俺の言葉は、アレンに届かないのか・・・


「分かったよ。今日限りでこのパーティーとは、おさらばだ」

「やっと分かったようだね。しかし、君の態度は不愉快だ。ギルドに報告させてもらうよ」


ギルドに報告だと!?

アレンは、俺の冒険者人生をも潰すつもりか!


「待てよ!まさか、俺から冒険者としての道まで奪うつもりか?」

「僕に意見する野獣を野放しにする気は無いよ。リックはそれなりに強いからね。逆恨みで復讐なんかされたらたまらない」

「アレン!お前はそこまで根性が腐っていたのか!」

「次は根性論?君とはとことん合わないらしいね。危ないからギルドに居られなくしてあげるよ」


「ま、待ってください!」


俺とアレンが口論になった所に割って入る声があった。

最近、勇者パーティーに加入したばかりの女神官、エイルだ。


普段は無口でおどおどしている、幼さを残す可愛い少女だ。

自己主張が低い彼女が、アレンに意見する事は、俺にも意外だった。


「エイル?君はこのパーティーに加入して間もないが、勇者の僕に意見するのかい?」

「ギグラスは恐ろしい強敵です。リックさんはそれを一人で抑えて・・・」


エイルには回復魔法で傷を癒してもらった。

この年齢でよくここまでの回復魔法が使えるなと感心する腕前だ。


そして、治癒して理解したのだろう。ギグラスの強さを。

しかし、アレンの態度が変わる事は無かった。


「あのさあ、君の代わりなんて教会にいくらでもいるんだよ?自分の立場を分かっているのかい?」

「アレン様。どうか冷静になって下さい。リックさんの傷は普通のゴブリンと戦って出来る傷じゃありません」


「エイル、これが最後だ。黙るか追放か選ぶといい」

「っ・・・」


アレンに追放されるという事は、エイルの場合は教会に居られなくなる事を意味する。

つまり破門だ。そんな事になれば気弱な彼女は、王国で生きていけないだろう。

それにしても、仲間に対してそこまでするのか!


「待てよ。意見しただけで、追放するなんてどうかしているぞ?」

「リック。まだいたのかい?いい加減目障りだよ?」


「お前!貴族になってから、増長し過ぎじゃないのか?俺達はお前の道具じゃないぞ!?」

「なるほど、そこから認識が食い違っていたみたいだね」


やれやれといった表情をするアレンから

次の瞬間、信じられない言葉が出てきた。


「君達は僕が魔王を倒すための道具だよ。今頃気が付いたのかい?」

「なっ!?」


「そこまで驚く事かい?それならユミルとダークの意見も聞きたいね」


アレンは残った2人の仲間に目を向ける。


ユミルは女賢者で美しい女性だ。かつてはアレンと恋仲だった。

しかし、最近は疎遠となっており、関係を繋ぎとめようと必死になっていた。


「私はアレンの為なら喜んで道具になるわ」


ユミルはアレンの腕に抱き着いて答えた。

しかし、アレンの表情が微動だにしない事に、ユミルは顔に影を落とす。

俺の目には、ユミルの姿が痛々しく映った。


そしてもう一人の男は、斥候のダーク。

寡黙で粗野な印象だが、細かい気配りが出来る優しい男だ。

俺は、ダークの事は、このパーティーで一番買っていた。


「俺は元からアレンの駒だ。好きに使え」


しかし、ダークは、元は義賊で、領主に処刑されそうだった所を、昔の性格が変わる前のアレンが助けた。

それ以来、義理堅いダークは、アレンに恩義を感じている。

俺とアレンでは、どちらを取るかは言うまでない事だった。


「2人は僕の方が正しいと言っているよ?エイルはどうなんだい?」

「私は・・・教会から勇者パーティーに派遣された神官ですので。勇者様に従う様に命令されています」


「納得の行く回答じゃないけど。少なくともリックの味方ではないね」

「す、すみません・・・」


エイルは喋る事はあまり得意じゃない。そして弱気な女の子だ。

教会もアレンに配慮して、見た目が良く、そして逆らう事が出来ない者を寄越したのだろう。

酷い事をする。これではまるで供物か生贄じゃないか。


エイルは俺をチラチラと申し訳なさそうに見ていた。

これ以上、ここに留まっていては、彼女の立場を危うくするかもしれない。


「分かった、アレン。お前とはここまでだ。俺はこのパーティーを抜ける」

「いいや、分かってないね。勇者の僕が冒険者の君を追放するんだ。その意味を噛み締めるといい」


「じゃあな」


調子に乗っているアレンに何を言っても無駄だろう。

俺は一言で別れを告げた


こうして、俺は勇者パーティーから追放された。


まだまだ、序章です

本番はかなり先になります

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