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魔法習得

 冒険者ギルドで簡単な依頼を受けながらお金を稼ぎ、日常を送る心美達。

 そんな彼女達もついに目標の一つに手を伸ばし始めた。


「魔法を覚えるわ」


 ある魔導書に目を通しながら心美は簡潔に呟いた。

 これまで魔法スクロール頼りだった魔法を自力で使えるようになりたい。その思いはあったが、中々修練に踏み出せずにいた心美だったが、こうして新しい生活にも慣れ始めてきたところで、魔法の特訓に着手していくことにした。


「やっぱりまずは転移魔法テレポートね。一番多く使うから早めに覚えたいわ」


(ココミ、魔法覚えるの?)


「ええ、せっかく借りてきている魔法の本もあるわけなので、そろそろ本格的に努力をしてみようかと」


 本がそこにあるだけでは魔法は覚えられない。

 本を読むだけで魔法が使えるようになるわけではない。

 いつか使えたらいいなと思うだけでは、何も進歩しない。


 心美は先程まで目を通していた転移魔法の項目を思い起こしながら立ち上がる。

 一度目を瞑りイメージするのは、己を飛ばす感覚。


 幸いにも魔法スクロールで魔法を行使するのをこれまで繰り返したおかげでその感覚は身についている。

 そして、魔法を発動させる際の魔力の動き。

 心美はその不可視の力の働きでさえ、目視できる力があった。


「転移が発動する瞬間、魔力が全身に行きわたる。それと同じようにして私も……」


 心美は魔法が身体を巡るイメージで動かす。

 手の先からゆっくりと、全身に引き延ばしていくように行きわたらせる。


「テレポート! ……だめですね」


 心美の感覚としては間違っていない。

 スクロール使用時と同じような感覚だが、魔法発動に至るまでの何かが足りていないのか何度やってみても発動しない。

 依然として心美の立ち位置は変わっていない。


「魔法は想像力。私の転移に対するイメージの構築が不完全だから発動しないのかしらね」


 心美は足りないものを考え、もう一度本を読みなおそうと席に戻ろうとした。

 そこで目に入ったのは、器用に前足を使って本のページを捲るユキの姿だった。


「何をしているの?」


(んー。ココミが魔法を覚えるなら私も覚えてみようかって)


「そう、懐かしいわね。でも、文字を覚えるのとは違うのよ?」


(分かってるって。そんな簡単に出来たら苦労しないよねー)


 心美が文字を習う際にユキもこっそり教わっていた。

 そのことを思い出し、それとは訳が違うと忠告する。

 ユキは心美の心配を軽く流すとそこで本を閉じ、テーブルの上から飛び降りたユキは、そのまま心の中で発動させたい魔法のことを思う浮かべる。


(えっと、こんな感じかなー? ウォーター!)


 その心の様子からユキが何をしようとしているか分かっていた心美は、ユキの動向を見守っていた。

 動物とはいえ他者の魔法発動に関するプロセスを見れるのだ。

 一動作からその際の思考、魔力の流れさえも見逃さないようにじっと見つめていた。


 そして発動の意を込めた人には理解できない鳴き声。

 上げられた右前足からはちょろちょろと水が放出されていた。


(あっ! できたよ! ココミ、見てた?)


「……見てたわよ。すごいじゃない。初めてなのに成功させるなんて、あなたには魔法の才能があるのかもしれないわね。そして――――あなたのおかげで私も多分分かったわ。テレポート!」


 少し離れたところからユキの魔法発動の様子を眺めていた心美だったが、その様子から何かをつかみ取ったのか再度魔法を発動させる。

 シュッと掻き消える心美の姿。


 次の瞬間にはユキの隣へしゃがみ込むようにして移動しており、そのままユキを抱き上げた。


「本当にすごいわ。あなたのおかげよ」


(えへへー。もっと褒めてー)


「ええ、言われなくてももっと褒めちぎるわ」


 他人が見ればただのひょろひょろ魔法に、使いどころの少ない失敗転移と思われるだろう。

 それでも彼女達にとっては価値のある魔法だ。


 思いがけずきっかけを得て、それほど時間をかけることなくテレポートを習得した心美は喜びを表すようにユキを撫でまわした。

 そして、これを機に心美にたくさん褒められたきっかけとなる魔法をもっと覚えようと、ユキはココミ以上に魔導書を読み漁るようになったのだった。


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