お買い物タイム
冒険者ギルドで冒険者登録を終え、少しギルドから離れて人通りが少なくなったところでようやく心を読む瞳を開くことができた心美は、ペット達の心を読み取って安心感でほっと胸を撫で下ろした。
初めて訪れる場所。見知らぬ人が多く集まる冒険者ギルドで、実は心細い思いをしていた。
ヴィオラが柔らかくのんびりとした口調で、心美の緊張をほぐすように話をしてくれたから幾分かマシだったものの、心を読めることが当たり前な状態に慣れつつある今。それを封じられた状態で人と接するのは、目を瞑って歩くのと同じような感覚だ。
「無事に冒険者登録もできましたので、お買い物に行きましょう。取り急ぎ必要なのはお洋服や食料。あとは……日用品も揃えたいですね。一緒に暮らすあなたたちの意見も取り入れていきますので、何でも言ってくださいね」
(うん!)
(おいしいもの……!)
「さて、ルミナスさんが書いてくれた簡易的な地図では……あそこが服屋さんみたいですね。私の服を買うのであなたたちは暇かもしれませんが、よければ意見の一つや二つ、くれてもいいんですよ?」
(任せて! 私が素敵にコーディネートしてあげる!)
心美がまず入ったのは服屋。
服といっても人間用で、動物用は恐らく売っていないため、ユキやスカーにとっては退屈な時間になるかもしれないが、心美にとって必要なものなので我慢してもらう他ない。
少しでもその退屈を紛らわせられるように、心美は冗談交じりに服の意見をペット達に求めてみたが、ユキはノリノリのようだ。
「とりあえずこれとこれと、あとこれも欲しいですね」
(ココミ! あれとかどう?)
ユキの指すあれを手に取る。
それは白いフード付きのワンピースだった。
「白なんて私に似合うかしら?」
(ココミはかわいいから何でも似合うよ! たまには白いのもいいんじゃないかな?)
「あら、嬉しいことを言ってくれますね。そこまで言ってもらえるならこれも買うわ」
心美は心が読めるからこそ、その言葉がお世辞なのか本心なのか分かってしまう。
本心からそう言われて悪い気がしなかった心美は、ユキのチョイスしたワンピースも購入することにして抱えた。
「スカーは何かないの?」
(えー、着れれば何でもいいんじゃない?)
「まあ、確かにそんな拘りはないけれど、少しくらい付き合ってくれてもいいじゃない」
心美は足元の影に目を向け話しかけると、その影に潜むスカーがにゅっと顔を出し興味なさげに言う。
心美はつれない様子にスカーに少し不満げだったが、無理強いをするつもりもないので、再び影に戻っていくのを見送った。
「じゃあ、これを買ったら食べ物ね」
服を買い終わったら次は食品だ。
心美は適当に何日か分の食品を買い、鞄に入れた。
(それだけでいいの?)
「森でも食べ物は手に入るし、あまりたくさん買いすぎても消費しきれずに悪くなってしまうわ。これから冒険者活動するためにここを訪れるから、その時にこまめに買うようにしましょう」
ユキは心美の買った食料が少ないのではないかと疑問に思ったが、これからずっと森に引きこもることを前提に買い込んだ食料ではない。
沢山買って使い切れずに廃棄するというのが一番の無駄なので、それを避けるために買い物はこまめに必要な分だけ行う予定だ。
「さ、あとは日用品とちょっとした調理器具と家具ね。それを買ったら早く帰ってご飯にしましょ」
まだまだ日は暮れそうにないが、人混みに疲れてしまった心美は早く帰りたいと思ってしまっていた。
そのため手際よく買い物を済ませると、さっさとテレポートで森の新居へと帰宅するのだった。
これまで毎日投稿を続けてきましたが、次回から不定期更新になります。
申し訳ありません。